口の中に熱いものが迸る。口の中で、びくびくと黒崎が跳ねた。僕の口の中で……黒崎が……。
今までで何度か、黒崎のを口に入れたことはあったけれど、それでも最後までしたのは初めてだった。
「………」
「石田……悪いっ! 出しちまった」
なんで、君が謝るんだよ。僕が勝手にやりたくてやったことで、僕が加害者で君はただの被害者だ。謝る必要なんてないのに。
口の中に溢れる青臭い液体を、生理的に気持ちの良いものでも、味覚としても耐え難いものでもあったけれど……それでも吐き出すことは躊躇われて……それでも、僕はなんとか、飲み込んだ。
口の中に、変な味が広がる。
いつも黒崎は僕のこんなのを、躊躇いもなく飲み込んでいた……だから、平気だと思った、のに……。
のどに絡み付くような、粘着質な味は、決して気分の良いものではなかったけれど……それでも構わないって思った。黒崎の、だから。
「……石田」
顔を上げると、黒崎が僕を見下ろしていた。
眉間に寄せたシワがいつもより深くて……もともと怖い顔が、いつもよりももっと怖い顔になっている。
黒崎は僕に怒って、いるんだろうか。
当然だ。
怒られて、当然だ。
嫌われても、当然の事を僕はした。
授業を押しのけて、僕は黒崎にこんなことをしてしまったんだ。怒られて当然だ。怒る程度で終わるなら、いいけれど……だって、僕は……
僕は、急に、怖く、なった。
「……黒崎」
僕は……。
許せなかった。君の心が僕から離れるのを許せなかった。
最初から、僕は君が一時の気の迷いで僕を選んでくれたんだって思っていた。今だってそう思っている。それでも良かった。わずかな時間だって、僕が黒崎のものになれるなら、それは嬉しいって思った。
黒崎が僕を好きだって言ってくれた。
それだけで、満足していたはずなのに……黒崎が僕のじゃないと嫌だなんて、僕はいつからこんなに我が儘になってしまったんだろう。こんな事をしたら、嫌われてしまう。きっともう嫌われてしまった。
黒崎が間違えて僕を好きになってしまったのなら、それが一秒でも長く続けばいいって……
僕は、謝る言葉なんて見つからなくて……泣き出しそうなくらいに怖くて、涙も出ないほどに緊張していた。
「……黒崎」
なんとか、声を絞り出せた。言い訳なんてきっとできない。でも、謝れば……せめて
突然、黒崎が僕の襟を掴んだ。
撲られる、の、かと思った。
殴られても当然のことをしたんだ。撲られても、仕方ないけど……それでも怖くなって、身体をすくませた。
「石田……!」
シャツのボタンが弾け飛んだ。
「っ……!」
撲られる、と、思ったから、黒崎が何をしようとしているのか、僕には解らなかった。当然痛みは無かったけれど……突然に服を破られた事に、僕が謝罪する機会を逸してしまった。
「黒崎……ぁあっ!」
何を、するんだって訊きたかったのに、僕の声は悲鳴に変わった。
黒崎が、僕の首筋に噛みついてきたから……
「痛っ…! やっ……あ」
首筋に食いこむほど歯を立てられて、痛みにジンとした。痛いって、そのまま食いちぎられてしまいそうだって思うくらいに、黒崎が僕の首を噛んでいた。
黒崎がのしかかって来て、僕はそのまま床に押し潰されるようにして倒された。
「いっ……黒崎、痛いっ……」
痛かった。必死で黒崎の頭を押し退けようとしたのに、黒崎はびくともせずに、今噛みついた場所を何度も舌でなぞる。
その首筋から、喉元……鎖骨を舌で舐められて……その感触に、身震いをした。
今、僕は黒崎の舌の熱さで、感じた。噛まれた直後だったから、痛みはまだ残っていたけれど……だって、仕方がない。
熱が、身体に広がってくる。
仕方がない。だって、黒崎が僕に触れているんだ。
「あっ……ふ、……ぅあっ」
音を立てながら、身体を舐められて、呼吸がつまる。
「石田っ……」
胸を、触られて……きゅっと、摘ままれる。もう片方の胸を舌先で転がされると……僕の頭は飽和状態になる。
必死で黒崎の頭を押し退けようとしていた手にも、力が入らなくなる。
「は、ぁっ……んっ! や、黒崎、やだっ」
「嫌じゃねえだろ。そっちから誘っといて!」
僕の、手首を掴んだ黒崎が、僕の顔を見た……。
怖いと、思った。怖かった。
黒崎が、怖いと思った。
強張っていた身体から、力が、抜ける。
だって……抵抗する、事も怖くなる。そんな事をしたら、そう思うと、僕は痛みに対しての抵抗もできなくなる。
僕から、誘ったんだ。僕が君を欲しがった。だから、これは僕が望んだ通りなんだ。
だけど……黒崎が怖くなって、僕は横を向いた、視線を合わせるのが辛くなった。
黒崎が僕のベルトを外している音が聞こえる。
僕は、それを任せた。黒崎が、まだ僕に触ってくれるなら、それでいいって……
ズボンを下着ごと脱がされて、空気に触れて……。
勿論、ここがどこなのか、今は何をすべき時間なのか、僕にだって解っていた。でも、許せなかったんだ。
こんな場所で……僕から、誘ったんだ……黒崎を。
「……黒崎」
膝裏を持ち上げられて、晒される。そこが、黒崎の目に触れているのが分かる。視線を感じて熱くなっているから、解った。
いつも、夜電気を消してからじゃないと、見られたことが無かった。
今はこんなに明るい場所で……黒崎に見られている。そう思うだけで……熱が集まってくる。
「あっ」
黒崎が、僕を口の中に迎え入れた。生温い感触に包まれて、肌が粟立った。
さっき、僕が黒崎にしたことと同じように……
「……んっ……」
舌で包まれる感触に、身震いをする。
「ひ、ぁっ……やぁっ」
黒崎の武骨な手が僕の腰を撫で上げ、そして何度も黒崎を受け入れた場所に、黒崎の指が、僕の中に入って来る。
黒崎の長い指が、僕の弱い場所を的確に刺激してきて……僕は
「あ…や、ぁっ……ぁあ」
指が増やされたのが解った。黒崎の指の質量を感じて、僕の腰は自然に動いていた。欲しいって、もっと、足りない。違う、それじゃない。
唾液で濡らされた指は、ぐちゃぐちゃと音を立てながら僕の中を犯す。それでも、
……それじゃ、黒崎が足りないんだ。
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20130616
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