特別教室のある校舎は、今日は静まり返っている。下の階の調理室か、上の階の美術室からは賑やかなざわめきも聞こえてくるけど、被服室からは、何も聞こえない。
今日は、この時限では使わないようだ。
誰も居ないのを確認して、僕は被服室の中に入った。
「石田? 授業……どーすんだよ」
「サボるよ」
「サボるって、お前……」
今は、授業なんて気分になれない。勉強なんてできる気分じゃない、教室にいたって何もできない。
扉を閉めると、静寂が包むような気がした。学校にはこんなにもたくさんの人間がいるのに、ここだけは冷たいくらいに静かだった。
誰も居ない。僕達だけしかいない。
「石田、どうしたんだよ」
「黒崎、僕は……」
黒崎の腕を握る手に、力を込めた。
僕を抱き締めてくれる、腕。
誰かを包むなら、なくなればいいのに。
爪をたてて、腕を握る。
僕以外に触らないでよ。
「石田?」
感情はなんでこんなに痛覚に影響するんだろう。なんでこんなに心臓が痛むんだろう。
困惑げな黒崎の声に苦しくなって、僕はその気持ちを黒崎に押し付けたくなって、口移しで、分けようとした。黒崎も僕でもっと困ればいいんだ。黒崎は困っているだけかもしれないけど、僕はこんなに痛いんだって、思い知らせる方法は思いつかないけど……
せめて、黒崎の唇に噛みつくようなキスを送る。
何度もキスをした唇。僕にキスしてくれた唇。僕以外に触らないでよ。そう言いたいのに、僕はそれを黒崎に言う言葉を知らない。
黒崎の唇に舌を這わせて、口の中まで入る。黒崎の舌を探して絡める。それに応えてくれるように、黒崎の舌が僕の舌を舐めるように刺激する。
「んっ…っ」
舌を合わせる度に、濡れた音がする。唾液が溢れて顎に伝った。
黒崎が逃げないって解ったから、僕は握っていた黒崎の腕を離した。離したけど、触れたまま、そのまま幅の広い肩のラインを確かめながら、そのまま僕は黒崎の首に腕を回した。
キスをして、身体中密着させて、腰を押し付ける。
キスだけで興奮するんだ。黒崎となら、キスしただけで、興奮する。僕の昂りを押し付けるように、僕は腰を押し付けた。
「石田っ……お前、本当にどうしたんだ? 熱でもあんのかよ」
どうしたんだって……。
知らない。
知られたくない。
知りたくもなかった。
「……黒崎」
返事なんかしてあげない。君の言うことなんか聞いてあげない。
二つ目まで開いている黒崎のシャツのボタン、三つ目を外して、四つ目……下に降りていって……黒崎の身体に、直に触れる。
僕の。
これは、僕のだ。黒崎は、僕のだ。
黒崎の皮膚にキスを落とす。
いつも黒崎が僕にしてくれるように、喉元から伝って……。
筋肉の隆起や、その割れ目を唇で確かめるように、僕は黒崎の肌にキスをする。
「石田っ……おいっ!」
黒崎に肩を掴まれたけれど、僕は止まらなかった。
止め方なんか知らないし、止める気すら起こらなかった。
今はとにかく黒崎が欲しくて。
触れていたくて、少しでも僕と君との繋がりが目に見えるものにしたい。不明瞭で曖昧な口約束じゃなくて、証拠がいい。
僕は君を繋ぎ止める方法なんか知らない。
心を僕に留めておく方法なんか知らないよ。
「うるさいよ」
僕は、黒崎のファスナーを下ろした。
その隙間から下着の中にまで手を差し込んで、触れると、黒崎のはもう確かな質量を持って、主張していたから……そのまま黒崎のを取り出す。
黒崎の……大きい。大きくて……熱い。熱くなってる。
触れると、そこだけ違う生き物みたいに、動いた。
触れていると先端から、透明な液体が溢れてくる。
僕で、感じてくれてる? 僕を感じてくれてる?
僕に飽きても、僕を感じた?
ゆっくりと、僕はそこに目線を合わせるようにしゃがむ。床に膝をついて……
「って、石田!」
黒崎の先端に、舌を這わせる。
ぬるりとした体液は、変な味がした。
こうやって、黒崎のを口で愛撫した事は、何度かあったけれど……いつも熱に浮かされて、そんな時ばかりだから、あまり覚えていない。
僕から、黒崎のをするのは、初めてだった。
僕が自分の意志で黒崎のをするって……その事実に僕は興奮していた。僕は、何をやっているんだろう。こんな事をして、僕はみっともない奴だって、はしたない奴だって、黒崎は呆れて僕を嫌いになったりしない?
ああ、でも。
もう黒崎が僕のじゃないなら……嫌われたって構わない。
大きくて、口に含むのが精一杯だけれど、それでも僕は夢中になって黒崎のに、舌を絡めた。
「石田っ……! よせって。学校だって」
いつも君の方が非常識なくせに。
学校では、なるべく接触を避けていた。話すことも、必要最低限。そうしてくれって言ったのは、僕の方だったけど。
学校で、黒崎に触った事なんかない。触られたくもなかった。そんなことをされれば、僕がどこまでも流されてしまいそうだから。君を見る目に、誰にでも解るような特別な意味を込めてしまいそうだったから。
「……石田、離せって!」
黒崎が僕の肩を掴んで、放そうとするから……止められたくなくて、僕は黒崎をくわえたまま首を振った。
大きくて、喉を圧迫される。
それでも、もっと奥まで欲しくて、限界まで黒崎を迎え入れる。
溢れた唾液が、喉を伝い、シャツまで濡らしている不快感は、それほど気にはならなかった。
「……っ石田……も」
黒崎が、僕の口の中で、また大きくなった。
黒崎が、僕のをするように……いつも僕のをしてくれたように、その動きを追いながら、口の中で黒崎のを舐めて、頭を動かす。
「……っく」
僕の口の中で、黒崎が弾けた。
→
20130615
|