黒崎が……黒崎だけが与えてくれる。この熱が、僕はとても好き。
身体中が痙攣して、僕は僕の腹を濡らす温い体液を感じた。僕の身体の中に、黒崎のが流れ込んでくる……この感覚は、例えようもないほど……恥ずかしいってそう思うけれど、それ以上に幸福で満たされるような、そんな気がするんだ。たまらなく好き。
「………石田」
どさりと、黒崎が僕の身体の上に落ちてくる。重たいけれど、その重みも君のだって思うと、とても不思議だけれど、嬉しいって思ってしまう。
「石田、好きだ……」
「………」
こうやって、黒崎は達した後に、言葉で僕を縛り付ける。
僕が、黒崎以外に行けないようにさせる。そんな言葉……わざわざ言わなくたって、僕は黒崎から離れられないのに。
こんなに好きで……僕が黒崎をこんなに好きで、黒崎は重くなったりしない? 気持ち悪いって思わない?
そう訊きたいけれど、怖くて訊けなくて、だからそっと手を伸ばして、僕は黒崎の髪を撫でる。
黒崎の髪の毛は見た目と違って、意外と柔らかい。僕は黒崎の髪の毛も好きだった。黒崎なら全部好き。
僕のだから。
黒崎が僕を選んでくれたんだ。
黒崎は僕が好きなんだ。
君の腕の中のこの居場所を、誰にも譲りたくない。
黒崎を、誰にも、渡さない。
「お前って淡白だよな」
シャワーを浴びて、戻って来ると、先にシャワーを浴びて、暑かったのか、デニムを穿いていたけれどTシャツは着ていなくて、上半身はまだ裸のままの黒崎が居た。
「何が?」
いつ僕が淡白だと言われるような真似をしたのか、その辺りは思い当たらないけれど、僕のこの気持ちが黒崎の重荷になっていなければ、良かったと思う。
「石田……」
「何?」
近付いた僕の手首を捕獲した黒崎が、僕を引き寄せるから、僕はそのまま黒崎の腕の中に素直に収まる。先ほどの行為で汗をかいてしまったために頭も洗ってまだ僕は髪の毛が濡れているのに……こうやってくっついたら、黒崎が濡れてしまう。
黒崎の温度は、好き。暖かくて好きだから、こうやって抱き寄せてくれれば拒否はできない。
「黒崎? シャワー浴びたばっかりだから、暑いのに」
まだ、暑いんだろう? 上は何も着ていないから、暑いはずなんだ。シャワーから出て来たばかりの僕も、今は汗が出てきてしまいそうなくらい暑い。それなのに、黒崎は僕の首筋に顔を埋めて、僕を両腕で抱きしめている。
「石田……好き」
僕の、頭はその一言で簡単に弾ける。頭の中まで沸騰してしまって、身体中が熱くなる。
「黒崎、暑いだろう?」
君はまだ暑いんだろう? そう言いながら、僕は黒崎を少し押して、少しだけ距離を取る。こうやって密着していると、だって僕の心臓の音が黒崎に聞こえてしまうかもしれない。だから、少しだけ離れた。
好きだと、その言葉を耳元で言われるだけで、身体の芯が疼く……少し恥ずかしくて、とても嬉しくて……。
それを知られたくなくて、僕は苦笑で誤魔化した。
「だって、好きなんだって。石田が好き。大好き」
「恥ずかしい奴だな」
「やっぱ、俺ばっか惚れてるみたいじゃねえか」
「そんな事ないよ」
そんな事、あるはずがない。
それは、君の勘違いだ。
僕は、きっと黒崎が僕を想ってくれている以上に、黒崎の事が好きなんだ。
僕が、こんなに君を好きなんだ。君を想うだけで苦しくなるぐらい、僕が君を好きなんだ。
それでも、それをどうやって伝えて良いのか解らない。
伝えて、重いって感じられたら……きっと、そう思うだろう。黒崎が困ってしまう。黒崎が困ると、きっと僕は悲しい。だから、僕が黒崎を好きな容積も体積も質量も重量も伝えない方がいい。
好きだなんて、そんな台詞に僕の気持ちは収まらないし、その一言を言うだけで、今でも心臓が壊れそうなくらい、嬉しくなってしまって、それが恥ずかしい。
伝えて、それを受け止めて貰えたら、きっと嬉しくて幸せなのだとは思うけど……。
「黒崎……」
「……いいや」
「どうしたの?」
「帰るわ」
黒崎はすんなりと僕を離した……もう少し、こうして居たかったのにって、そう思ったけれど。あまり我儘を言いたくない。
我儘を言ったら、きっと困らせてしまう。
黒崎がずっと僕を好きでいてくれるように、僕は我儘を言いたくない。
「明日の宿題まだ終わってねえんだ。帰らなきゃ」
「そう。わかった」
黒崎はTシャツを着た。
「石田……じゃ、また明日」
玄関まで送ると、扉を開く前に、僕の頬に掠めるようにキスで触れた。そして、黒崎は今日は帰っていった。
明日も、会えるんだ。
もう少し、一緒に居て、だなんて、そんな我儘は言いたくない。どうしても会いたくなったら、いつでも会いに行ける距離なんだ。
明日も、僕は黒崎に会えるんだ。
そう思って、その日は、僕は何も気にしなかった。
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20130507
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