【恋心】 02






「石田……悪い。お前を好きになって」

 友達のふりして、そんなふうに仲良くなって、どうでもいい話とかして、一緒に笑って、そんな事しながら俺の気持ちはお前でいっぱいだった。気が付いたら俺はほとんどそれだけだった。
 俺が思ってた以上に俺はお前が好きになってて、お前が気付いてた以上に、俺が限界だったんだ。

「……謝らなくていいよ。だから、もうこの話はやめよう」

 石田が、何考えてんのかだなんて、俺にはわかんねえ。俺はどうせすぐに顔に出る方だし、逆に石田はほとんど表情にしない。石田は状況の分析とかそういうのは無駄に喋るくせに、自分の気持ちいついては言葉にしない。そういう奴だ。だから、こいつが今何考えてんのかなんてわかんねえけど、今まで、さっきだって俺の隣で笑ってくれてた。
 俺だって、俺の隣が心地好くて、そんな顔してくれてたなら、そんだけで良いって思ってた。


「石田……」

 俺達の関係崩そうとしてんのは俺だ。
 石田も、俺の隣にいて、くだらない話して、それが居心地良いって思ってくれてたんだったら、その場所を奪おうとしてるの、俺なんだ。
 だから、俺が悪いんだろ? 俺が言わなきゃ良かったんだ。でも、無理だった。

 溢れた。

「二度と、君が僕をそんな風に見なければ、それでいいよ」



 それでいいなら、それがいいんだ。
 元にに戻れるなら、言う直前までの関係に戻れるなら、本当はそれがいいんだ。


「悪い……それ無理」

 無理だって。もう溢れた。俺の許容値越えた。だから、零れた。一気に決壊した。

「無理。お前が俺の事好きじゃなくてもいいから、だから俺がお前の事好きだって、それ認めてくれる、それだけでいいから」

 諦められる可能性あんなら、初めっから言ってない。お前が俺の事好きになれなくても、俺がお前の事好きだって、それだけで良いから、知っておいてもらいたくなった。


「………困ったな」

「俺の事……気持ち悪いって思うか?」

 そりゃ、当然かもしんねえ。
 ずっと友達だって思ってた奴が全然別の感情で接してた。気持ち悪いって、それ以上に俺のこの感情は石田との友情に対しての裏切りだって言えるかもしんない。
 それでも気持ち悪いって思われたって、俺は石田が好きなんだ。男同士なんだし、友達だし、仕方ねえよ、そう思われたって。

 石田が、嫌なら、俺はそれでいい。
 

「……そうじゃないけど」

「お前が俺を好きになってくれって頼んでるわけじゃないから……」



「無理だよ」


 ……無理だってさ。

 好きなんだって解ってもらえりゃいいだなんて、思ってたけど……無理だって言われて気付いた。

 お前の気持ち、欲しくてたまんねえ。
 お前の視線が俺に向いてなきゃ嫌だ。
 石田が俺のモノじゃなけりゃ、嫌だ。
 誰にも渡したくない。


「石田、お前が好きなんだよ」

「……ありがとう。でも、無理だよ」

 本当に無理?

 どうにかしてその可能性1%にできねえ? 頑張るからさ。お前が俺を好きになってくれるまで頑張るからさ。
 もしその1%があるなら、何とかして100にしてやる。0じゃなけりゃ、可能性が少しでもあんなら、絶対に……

 好きになってくれたら、絶対放さない。
 今度こそ、護る。
 大事なもの、二度と手放さない。
 絶対に護るから。お前の事。

 そうすりゃ、俺は俺を許せるようになると思う。お前を幸せにできりゃ、その時初めて俺は自分を許せるようになると思う。


 時々、石田は寂しそうな顔をすんだ。苦しそうな顔をする。

 俺、お前の笑った顔、見たいんだ。お前の笑顔好き。
 お前が笑ってくれんなら、なんだってしたいって、そう素直に思えるくらい、俺はお前が笑ってるのが好き。

 でも、俺じゃなきゃ嫌だ。他の奴に笑いかけてんのなんか、見たくねえ。
 こんな独占欲、剥き出しにして、それだって、お前の幸せ願ってんだ。
 もし俺の事好きになってくれんなら、そうじゃなくてももし俺がお前のこと好きでいいなら、石田のこと泣かせない。もう、お前にあんな顔させない。泣きたいのに泣き方忘れて困惑してる顔、涙よりも痛いって思ったんだ。


「石田……ただ、俺がお前を好きだって事ぐらい、認めて」


 俺の気持ちが受け入れらんないなら、せめてそれだけで良いから。


 苦しくなった。
 どうしていいかだなんてわかんねえけど、お前が俺の気持ち、せめて認めて欲しい。


 好きになってくれ。



「駄目だよ」


 駄目だなんて、軽く言うなよ。

「石田……それ、無理」
 俺の気持ちは、俺のもんで、お前を好きだってこの感情も俺のもんなのに……。

「無理じゃないよ」

「無理。お前にだって俺の気持ちを否定されたくない」


 辛い。
 こんなに辛いだなんて思わなかった。
 恋が楽しいだなんて誰の幻想だ。心ん中が石田でいっぱいになったまま破裂しちまう。

 お前が受け入れてくれなきゃ、キャパオーバーして、俺ごと壊れちまいそ。


「お前の事、好きだ」

 何度言っても足んない。どんどん溢れる。好きだって、お前のこと好きだって……無尽蔵に、石田が好きだって気持ちが零れてくる。どっから湧いてくんだろう。









20130117