【ラジカル】 12 








「ごめん黒崎」

「なんだよ、それ……」

 違うだろ? だってお前に笑ってもらいたいのに、俺が泣かせてんだ。石田が今泣いてんの、だって俺のせいなんだろ? 俺が原因なんだろ?
 だったら、謝るなら、俺の方じゃねえの? 俺が、お前を泣かせてんだろ?

「……噂」
「あ?」



「噂、になって……僕は、君の事、意識した」


「………」


「君の事、ずっと友達だと思ってたのに……友達として、黒崎が好きだったのに……僕は噂になって君の事、そんな事、一切考えた事なかったのに……友達じゃなくて、噂と同じ意味で、僕は君を意識したんだ」




「……石田」


「そんなの、気持ち悪いだろ? 僕だって気持ち悪いよ。男なんかに好きだなんて思われたら、気持ち悪いよな?」


 涙声で……ベッドに座る石田の足に、また涙が落ちた。暗がりでわかんねえし、石田の髪が顔にかかって、顔は見れなかったけど……

 石田は、もう一度、ごめんなさいって繰り返した。

 また、ぽたりと音がした。本当に聞こえたわけじゃないけど、膝の上に握り締めてる手の甲に、一粒水滴が落たから……泣くなよ。頼むから、泣かないでくれよ。



「……石田」

「噂になって、だから、黒崎に抱き締められたらとか、そんな事考えたりした。だからさっき……」


 俺は、胸が痛くなった。


 言葉をどうやって選んでいいかわかんなくなった。何言ったら伝わんのかな。どう言えばいいんだろう。日本語ぐらいしか話せねえけど、きっと全然足んないし、もしかしたらすごく簡単な言葉でいいのかもしんないけど、俺には見つけらんない。

 だから、石田の隣に座った。
 石田が身体を強張らせたのが、気配で解った。


 けど、石田は、逃げなかった。さっきみたいに、逃げ出さなかったから……。





「石田……」

「でも、ちゃんと忘れるから。噂が消えるまでには忘れるから! 君と友達でいられなくなるのは嫌なんだ。だから……」

「忘れんなよ!」



 俺は、石田を抱き締めた。
 隣にいる石田の身体、また抱き締めた。さっきと同じくらい、いや、もっと強く、抱きしめた。

 細い身体。って、さっきも思った。力入れて抱き締めたら壊しちまいそうだって思った。



「黒崎?」
「石田、忘れなくていいから!」

「黒崎、君も噂にあてられて混同してるのか? 噂なんて一過性のものだ。僕の事は気にしなくていい。同情もいらない、から、だから」

 違うって。

「違う。噂じゃねえよ」

 本当だって! 違うんだよ、結局火の無い場所に煙出ないんだって事なんだよ。

「俺、好きだから。石田の事好きだ」
「違う!」

「何でお前が俺の気持ち否定すんだよ」
「だって、噂なんだ。違う。君がそれに踊らされる必要なんかないんだ」

「だから!」


 俺は石田の唇に口を押し付けるようにして、キスした。

 キスは……二度目。
 前は石田が寝てる時だったけど。

 俺は、石田にキスをした。
 前みたいに、触るだけじゃなくて……押し付けて、口ふさいだ。

 頬が触れて、涙で濡れてた。

 キスした感動より何より、心臓痛くてたまんなかった。

 石田に泣き止んで欲しくて、石田が俺の事意識してくれたって言って、それでも友達でいいって言われて、嬉しいけど、やっぱり俺は友達よかもっとって欲張って、どうにかしたくて、とにかく俺の心ん中伝えたくて、その気持ちが行動になると、こうなった。





 とにかく、




「………とりあえず、俺の話も聞け」

「…………」


 暗がりでも解るほどに、石田の顔が赤くなってたけど、きっと俺も同じような顔してんだろうけど………ようやく石田がおとなしくなった。







20130105