真っ赤になってお互い見つめ合って……何て言ったらいいのかなんて解んなかったけど……でも、どうしても伝えなきゃなんねえ。今逃したら、次なんてもう二度とない気がした。
「キス……初めてじゃねえから」
「………え?」
「もう、した事あるから」
「……そう。彼女いるんだ?」
……いや、だから聞けって。なんでこいつは1を聞いて勝手に10以上を想像して結論出すんだよ!
「違うって。お前とだよ!」
「…………は?」
ずっと顔を伏せてた石田が、怪訝な顔で俺を見た……言っちまったけど、やっぱり怒られるか?
「黒崎。もしかして君も、噂に踊らされて、妄想でもしたのか?」
……なんで、仮にも俺の事好きだって言った口でそういう酷いこと言うんだよこいつは。
「違うって。俺、お前が寝てる時、キスしたから、これで二度目……」
「……は?」
「だから……全部、噂は嘘じゃねえ」
「黒崎……それは、いつのことだ?」
「だから、お前が寝てる時。前に泊まった時」
最後に泊まった次の日から、妙な噂が流れ始めたのぐらいは覚えてるだろ?
だから、俺が石田のこと好きになったの、噂なんかより、もっと前だって、これで、理解しただろ?
こっちはもっと前から石田の事バリバリに意識してたんだよ。お前の方がだいぶ出遅れてんだって!
「……それは、寝返りうった拍子の事故か?」
「違う。起きてたんだって。お前の方が先に寝たから、俺がキスしたかったから、石田にキスした」
「それは……」
「俺はずっと石田が好きだった」
「………黒崎…」
石田が驚いた表情で俺を見た。
「今だって、すげえ好き。もっと石田が好きになってる」
ようやく、言えた。
好きだったんだよ、ずっと。気が付いたの最近だけどさ。
好きだって、お前が好きだって言いたくてたまんなかった。
でも、今の関係だってなかなか悪くないから、友達ってのも居心地悪くなくて、石田との関係壊したくなくて、もうちょっとって思ってたから、言えなかったけど好きだった。
流石にこんなことでもなけりゃ、ずるずると言わないままだったかもしんねえ、俺の気持ちは、今ようやく石田に伝えることができた。
「……黒崎」
「石田………お前が好きだ」
石田は、じっと俺を見つめてた。さっきまで泣いてて、泣き腫らした目で、いつも涼しげな切れ長の目が、赤く腫れてた。
「……黒崎は、ホモなのか?」
………で、石田の返事はそれかよっ!
いや、確かにお前も俺も男だけど! 確かに、間違いじゃねえけど、ホモで正しいかもしんねえけど! 別に男に惚れるなんて、人生の設計図にそんな予定入れてなかったけど、お前が男だから、ホモで正しいけど!
にしたって、何て反応しやがる……一気に、脱力した。
「……お前だからだよ。お前だから好き。男が好きなんじゃなくて、石田が好きだ。お前の事、男とか女とかどうでもいいって思うくらい、お前が好き。んでお前が男だったってそれだけ」
それだけってのが、結構なハードルだったりもするけど、好きになっちまったら結局それだけってレベルの障害なんだ。
「黒崎……」
「だから、石田……噂じゃなくて、本当にしちまおうぜ」
「………でも」
でも、じゃねえよ。はい、だろ?
俺だってさ。ずっと、言わなくてもいいやって思ってた。いつか言えたら言いたいけど、友達ってままでも楽しいし、悪くなかったからこのままでもいいって思ってたけど。
もう、言っちまったからには後には引けない。
言っちまったから、もう何食わぬ顔で友達に戻るなんてできねえだろう。このまま、友達に戻ったって、石田だって俺の気持ち知ったから、俺との関係をぎこちないモンにしちまうだろうし、俺だってなんでもないふりして石田と友達続けられるほど顔に出ないタイプでもない。
もう、押すっきゃねえ。それしかねえ。
「他人の目なんか気にすんな。どうせ今だけ楽しんでるだけだって。噂なんかすぐ消える」
「でも、黒崎」
今俺達、両思いじゃねえか。石田だって、俺のこと意識してくれたんだろ? 周囲だって俺達のこと認めてくれてんだ。どこに障害があんだよ。もう、何もねえよな? 噂は本当でした、それでいいじゃねえか。
「さっき女といるの見て、お前が取られるの無理だって解った。お前が俺以外の奴見るの、嫌だ」
「……」
「せっかくなんだ。ちょうどいいから。本当にしちまおうぜ」
「………そんなっ、黒崎、だって」
「なあ、石田……お前俺の事どう思ってる?」
だって、結局大事なのそこだろ? 他人がどう思ったって、俺がどう思っててお前がどう思ってくれてんのか、一番基本的なところ、そこだろ?
「………」
石田の目を覗いた。
涙で濡れて、目が赤くなってた。
だから、さ。泣くなよ。
泣かせたくねえ。お前の泣いた顔嫌い。
笑え。
俺に笑って。
「石田、好きだ。俺と付き合ってくれ」
ちゃんと、石田の心にその言葉を届けたくて、石田の肩掴んで、目を見て、言った。
「………うん」
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20130111
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