「俺と石田は付き合ってて、毎週泊まりに行って、もう一線越えた仲だって、一体どういうことだっ!」
俺は全力疾走して屋上に向かい、力任せに屋上のドアを開けて、まだ屋上で飯を食ってる水色に詰め寄ると、水色はでかい目を大きくさせると、俺の剣幕を気にした風もなく、水色は俺を見上げた。
「へえ。僕が聞いたのは、一護が石田君と最近妙に仲良くて、一護がよく泊まりに行ってるって事ぐらいだよ?」
………それは、間違っていない。
最近、学校でもよく話すようになったけど……。
びくついてパック牛乳すすってるケイゴの反応からすると………噂の出所は、やっぱりここか?
水色が投下した情報はこのくらいなのかもしれないが……尾ひれが付いて、針小棒大に流れて行く経路に載せやがったに違いない。
「僕が聞いたのは、半月前に君が告白してきて、僕がOKして今付き合ってるって話だよ」
「うおっ! 石田、居たのかよ」
「教室じゃご飯食べにくくてね」
溜息をつきながら、石田は弁当の卵焼きを箸で切った。そのまま口に運ぶのかと思ったけど、石田は俺を見ようともせずに、弁当の卵焼きを一口サイズ以下に細かく箸で切り刻んでる。
そう……俺の方は、見なかった。
……怒ってる……よな、これ。
何だか、空気に大量の棘が含まれてんのが、あからさまなんだけど。誰が見ても、どんな奴でも近づいたら痛い目合うって言ってるような空気発してるんだけど、こいつ。
一緒に飯食ってるチャドを見ると、何やら頷かれた。チャドも知ってんのかよ……。
チャドも知ってるって……つまり、かなり噂広がってるって事か?
「まったく、どこからそんな事になったんだか」
石田は、また溜め息だったけど……ここだ、ここ!
絶対にここだっ! 十中八九間違いない!
水色の事だから、いつもケイゴと一緒にいる所しか見たことねえのに、何だかわけわかんねえ広大な人脈に、爆弾投下しやがったんだ。
「大変だね。石田君も」
「まったくだよ。何で僕が黒崎なんかと」
石田……俺なんかって、どう言う意味だよ。もしかしてそのまんまの意味かよ、地味に凹むんですが、その台詞。
いや、噂なんかにはなりたくねえけど、それでもお前に惚れてて、噂通りだったら良いなとか思うくらいには、惚れてますが
万が一、それが現実化したら、石田は俺のもんだからって、言い触らしたくなるかもしんねえけど……今はまだそんなんじゃねえから、あんま気まずくなりたくねえけど。
でも、その台詞はやっぱりグサリと刺さった。俺なんかとじゃ、やっぱり嫌なのかよ……とか思うと、やっぱりすげ、凹む。
「だいたい、黒崎と僕なんて、どうやったってそんな関係にはならないのに……」
追い討ち。
え、今、俺……完全否定された……?
「大変だね……一護も」
「……あ、まあ」
水色にすげえ同情された……諸悪の根源のくせに、哀れみの表情なんか浮かべんじゃねえよ。
「黒崎もこんな噂不名誉だろ? もともと君が僕の家に泊まっている所を誰かに見られたんだろう? 黒崎、しばらく僕の家に来ない方がいいよ」
「えっ……!」
さらにトドメ刺された。
「それより、しばらく話さない方が良いかもね」
「ちょ……っ」
そりゃねえだろ!!
何でそんなことに俺達がわざわざ振り回されなきゃなんねえんだよっ! 他人が勝手に言ってるだけじゃねえか!
「噂なんか放っておけよ! 別に俺達がなんかしたわけじゃねえだろ?」
何もしてねえのに、何でコソコソしなきゃなんねえんだよ。別に、悪いことしてるわけでもねえし、最近仲良くなったってのは本当だろ? 友達ならたまに泊まったって、そんなに変なことじゃねえだろ? だって、俺達友達でいいだろ? だったら堂々としてりゃいいじゃねえか。
あ、いや……キスしちまったけど。
お前が寝てる時に、俺は具体的犯行に及びました。って、思い当たる節は、でも俺にしかないから、誰にも言うつもりはない。
だって別に、バレたわけじゃねえし……。さすがに、それは俺だけしか知らねえから、周囲の視線なんかに振り回されるような奴じゃねえだろうが、お前は!
俺が寝てる石田にキスしたのがバレて、石田が俺を許さねえってんなら仕方ないけど、そうじゃなくて、何で他人の視線いちいち気にして石田と話せなくなんのかわけわかんねえし、ムカつく。
「何でいちいち他人の目を気にしなきゃなんねえんだよ。俺達は俺達だろ」
「……黒崎」
「俺は放っておけばいいと思うぜ。噂なんざ勝手に消えるって」
「でも黒崎、君は平気なのか?」
平気っつうか、事実でありたいと願ってます。
どうせなら、それで石田の事好きな奴がいたら、石田の事諦めてくれりゃ良いとか思ってるけど……。
「気にするわけねえだろ」
てか、むしろ大歓迎? 俺と石田が仲良いってなら、もう割り込む隙間なんてどこにもねえって公言できるってなら、噂でもなんでも何でも来りゃいい。
「君が良いなら、いいけど……」
せっかくだから、事実にしちまおうぜ。
とかは、言えないけど……まだ。でもいつか…お前に好きだってちゃんと伝えるから。
もうちょいお前の気持ちが俺に向いたら、石田が好きだってちゃんと言うから。
それまで、待っててくれよ。
まだ言えねえけど、ちゃんと言うから。お前が好きだって伝えるから、それまで誰の物にもならないでくれよ。
「石田……だから」
「……黒崎」
石田は、少し頬を赤くしながら俺を見てる。
俺も、石田を見つめて………。
「ゴチソウサマ」
っと!
水色が弁当片付けてた。
……忘れてた。やべ。なんか、今、俺と石田だけの世界に入ってた。
石田も、顔を赤くして、細かくなった卵焼きを、普段ではありえない速度で口に詰め込んでる。
なんか……気まずい雰囲気。
「じゃあ、僕先に教室行くね。次の授業の教科書忘れちゃったから、誰かに借りないといけないからさ」
「あ、俺も。待って! 水色、俺も、俺も忘れた」
慌てて水色を追いかけるケイゴの背中から、おいて行かないでって心の悲鳴が聞こえてたのはきっと気のせいじゃない。
チャドものそりと立ち上がって、屋上から出ていった。
………誰も、居なくなった。
食べるのが究極に遅い石田は、ようやく弁当食べ終わって、弁当箱を片付けてた。
今……二人きり。あと十分くらいしたら戻らねえといけないけど、今は屋上に二人きり。
何か………言わねえと。
気にすんなって。だって、どうだっていいだろ? 俺達が悪いことをしたわけじゃねえ、堂々と胸張ってりゃいいんだ。
いちいち人の目とか気にするなんて、らしくねえよ。いや、石田は常識とかそうゆうのにうるさそうだし、噂とか気にしそうだし。
こんな事で、せっかくここまで仲良くなったのに、気まずくなりたくねえって! そりゃ、キスしたいとか抱き締めたいとか触りたいとか、健全な男子高校生だから、そう言う欲求はめちゃくちゃあるけど、まだ友達としてでも一緒にいるだけで楽しいから。から、とにかくフォロー入れないと。
「黒崎……でも、やっぱり少し距離置いた方がいいんじゃないか? 女の子が寄って来なくなるよ」
先手必勝のつもりか? 石田は俺の気持ち理解した上で、俺を打ちのめす事にでも生き甲斐感じているんじゃ無いだろうかとか思う時がある。
「大丈夫だって。気にすんなよ」
「でも、君だって僕と噂になったりしたら、その……迷惑だろ?」
迷惑どころか、大歓迎だって!
本当なら噂じゃなくて、現実だったらだけどさ。現実化するなら、噂になるくらい何の問題もねえって。
でも石田の今の言葉からすると、石田は迷惑って事か?
まあ、普通に考えりゃ……そうだろうけど。
「別に俺はかまわねえよ。他人なんてほっとけって」
「……でも」
「お前も、気にすんなよ。悪い事したわけじゃねえんだから、堂々としてりゃいいって」
「……だけど」
「俺達なんか間違った事したか? してねえよな?」
「……するはずないけど」
……俺はしたけど。俺は寝てるお前にキスしたけど。
「別にお前が、他人の目の方が気になって、俺と二度と喋りたくねえってんなら……」
「そんな事言ってないだろ?」
そっか。友達だって、最低でも思ってくれてるらしいのは、嬉しい。
「だったら、別に気にすんなよ」
「…………」
尚も渋る石田に俺はたたみかける。ここで強攻に出ておかねえと、石田の事だから、きっと気にする。
気にして気まずくなったりすんの、本当に困るから。
「他人の為に何で俺達が遠慮しなきゃなんねえの?」
「………」
「俺は、そんな事でお前と話せなくなんの、嫌だ」
「……黒崎」
石田が、ようやく俺を見た。さっきからちょっとずつ俺の方を見てくれてはいたけど、でもちゃんと目を見てくれたのは、今日はこれが初めてだ。
「石田………」
好きだ。
って、言うの、落ち着いてからのが、いいよな。今、告白しても、触らせてもくんないだろう、そんな気がする。
「黒崎?」
「いや、何でもねえ」
じっと石田の事見てたら、石田が不思議そうに俺に視線を返した。
「そろそろ、僕達も戻ろうか」
「そだな」
今日は晴天。こんな空の高くて青い日に、悪いことなんて起こるはずねえよ。
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20121215 |