なんか……どうしよう、照れる。嬉しいけど、ひどく照れる。石田と二人でいて、嬉しいけど、どうしていいか解んねえ。
「黒崎、今日泊まるって言ってたけど、ちゃんと着替え持ってきた?」
「あ、おう。一応……持ってきたけど。へーきか?」
泊まっていいかって訊いて、勉強するならって事で俺がここにいるわけだけど……迷惑だったりしねえかな。
「うん。今日はちゃんと朝布団干しておいたから、平気」
……石田、嫁に来いっ! 今すぐ!
って言うところだった。
いや、時期を見計らって、もっとグッと来るプロポーズの言葉を。いやその前に、好きだって愛の告白だけど、いやその前にもうちょっと石田の様子を見計らってもうちょっと脈アリって感じになってからって……つまり、前途多難。
前途多難なのは、百も承知だ。コイツのこと好きになってその自覚をした時点で諦めた。本当に、こいつと両思いになるのはなかなかの長期戦を覚悟してるから別にいいんだけどさ。
でも、石田は俺の事どう思ってんだろ。少しは俺のこと気にしてくれてんのかな。
昔よか、仲良くなってきたって思うけど……仲良くなってきただけで、俺に特別な意識向けてるような感じはあんまりない。友達の中じゃ仲いいって思ってるような感じはするけど、やっぱり友達以上には感じらんねえ。
まあ、喧嘩吹っ掛けて来た頃に比べたら、かなりまともになって来たけど。
今わかってんのは嫌われてないって事ぐらいだ。
石田に優しくしてもらって舞い上がっても、どうせ俺じゃ無くても同じ態度するんだろうし……いや、どっちかって言うと俺への当たりは他の奴よりも若干きつい所があるくらいだ。
夕食の片付けをしながら。俺が台所まで運んでテーブル片付けて、石田が洗い物。が終わった頃。少しでも、ポイント稼ぐ。
「そろそろ終わった頃かな」
「何が?」
「小島君達の映画」
「ああ……そだな」
「黒崎、テレビ、何か見る? それとも勉強の続きする?」
もう、今日は勉強って感じじゃなくて、さすがに飽きた。もし石田が勉強続けんなら、俺もやるけど。でもなんとなく……ちょっと、石田とのんびりしたいって、意味の言葉を、石田とって部分を隠して言った。
テレビを付けるとちょうど映画始まった所だった。一年くらい前にさんざん宣伝で流れてた笑いアリ涙アリの洋物アニメーション。遊子が見たがって親父達三人で行ったらしくて、帰ってくるなり俺に作中で使われたらしい技をかけてきた……親父限定。
今日は家でも見てんのかな。
「これ、別に愛と官能のサスペンスじゃなさそうだけど……」
「んなの見たくねえよ」
石田と二人でそんなん見たら、大変な事になる。映画見てトイレ借りるとか絶対に嫌だぞ、俺は。
「見よっか」
……とか、上目遣いで首傾いで言われたりしたら……。それだけで、コイツ俺の事好きなんじゃねえの? とか……思う俺は思春期だと思う。
並んで、テレビ見てるとか……なんか…いいな。
テレビ見る石田を見る俺は幸せを噛み締めた。
俺は内容よりも、主人公がピンチの時に手を握り締めていたり、家族が離れ離れになるシーンとかで、ぐすっと涙を堪えて鼻をすする石田を抱き締めるのをこらえるのに必死だった……から。
「面白かったね」
って、言われたって、何処が面白かったかなんてわかんねえっ!
「ああ……そだな」
「小島君に頑張ってって言われたのに、結局僕達も遊んじゃったね」
「………ああ」
ただ、頑張ってと言われたその言葉は、勉強に対してだけだったとは思えねえし、俺が理解した水色の言葉が正しけりゃ、俺は奮戦してなかなか健闘したと思う。
「じゃあ、そろそろ寝る準備しようか。お風呂どうする? 先に入る?」
一緒に入る。
とかの選択肢を持ち出したら、まずフリーズされるんだろう。
にしても、風呂上がりの石田……って。
まずくねえか?
「……悪い。先入っていい? 眠くなってきた」
そんなん見たら、余計に寝れなくなる!
思い出すだけでも……けっこう、目に焼きついてる……というか、脳内のアルバムの手前の方に置いてあって永久保存版。
この前は、サイズを間違えてデカイの買ったらしいパジャマを着ていた。いつも首まできっちり止めた服ばっか着てんのに、服から出る細い手首とか足首とか、胸元に覗く鎖骨とか……。白い肌が、暖まって少しピンクになってたり、とか……かなり、凶悪だ。
しかも、布団がひと組しかなくてこの時期だから、床で寝る選択肢はさすがに選びたくない時期だから、どうにも同じ布団で寝るんだ。つまり、朝まで理性と本能との戦いだ。
だったら、さっさと寝てしまう。それがいい!
さっさと風呂に入って、石田が出てくる前にとっとと寝てしまうに限る!
理性が負けて、手を出して変態扱いなんかされた日には、ちょっと生きていけない。
俺が風呂から上がって、石田が風呂に入って、俺がベッドに入った。
石田がベッドに入って来るまでが勝負。
眠るって、どうすりゃ良いんだろう?
独り暮らしの収納なんてたかがしれてて、布団一組だけだから、俺の枕は丸めた座布団。
初めて泊まった時に、布団ないって言われて、俺も寝相そんなに悪くねえと思うから、落ちたら落ちたでいいって思って一緒に寝た。それから泊まりに行くと一緒の布団で寝る。
風呂から上がった石田が、布団の中に潜り込んできた。
「黒崎? もう寝ちゃった?」
寝れるわけねえだろうが!!
隣で! 同じ布団で石田が寝てんだ。隣からシャンプーのいい匂いしてんだってっ!
寝れるって方がおかしいだろ? だから惚れてんだって!
惚れてるって気付いたのは本当に最近で、気付いてから泊まりに来たの初めてだ……から。
前向いて寝るなんて出来ねえから。背中の体温が……
「石田」
頼むから、もうちょっと……
「……ん? 起きてたの? 何?」
「……」
好きだ。
とか、言ったら、怒る? 怒るよりも、呆れる? それともやっぱり引く?
「明日、夕方に帰るつもりだけど、それまで居ていいか」
「うん。洗剤……手伝って」
「?」
「……買い出し」
「洗剤が無いの? 他にも重いもんあるなら手伝うぜ?」
訊いてみたけど、石田からの返事はなかった……まあいっか。もう、寝たのかな。
「……石田?」
もう一度声をかけてみたけど、返事はなくて……。
寝た、かな。
背中向けてたから、身体反転してそっと石田見た。
石田は寝てた。寝顔見たの始めてだ。寝付き悪いとか言ってたくせに、なんかよく寝てる。ゆっくりとした寝息……俺の隣で寝てくれるってさ……それって俺に気を許してくれてるって事だよな?
電気を消した暗がりで石田の寝顔見て。
やっぱり整ってて綺麗な顔してる、とか観察する。
意外と睫毛長い。
惚れた欲目もあると思うけど、そんなに派手な顔じゃないけど、整った顔立ちしてる。
こいつ本当に可愛いとか……思った。普段は営利で剣呑な雰囲気だけど、こう言う無防備な寝顔とか、可愛いって、思う。
俺が隣に居て、寝てくれんの、なんか嬉しい。この前泊まった時もそんな事考えたけど、惚れてるなんて気付いて無かったから……気性の荒い野良猫がなついてくれたような、そんな気がしたんだけど。
寝た、よな?
寝た、な。
寝てるし………いいよな?
バレないから、大丈夫。誰も見てるわけじゃねえ。
やめとけって理性が言ってるけど、聞こえない。
見てないから大丈夫だって。
これってアレか? 万引きとかする時の心境と似てんのか……?
やめとけって。
そう、思ったけど……。
だって誰も見てねえし。
別に……病気移すわけじゃないし、ただの接触なんだって……だから……。
そっと………唇に……。
キスは、ふわっとした感触がした。
やった……っ!
石田に、キスしちまった……。
一瞬だけだけど、確かに、唇に……キスした、俺。
石田が身動ぎもせずに寝てんの解ってるけど……。それでも石田の顔見てらんなくなって慌て、壁に向く。
見てたら、やべえ。
かあって、身体中、熱い。
石田にさわんねえように、壁ギリギリまでくっついて寝て……たのに……。
石田の方から擦り寄ってくる場合は、俺の努力外の嬉しいハプニングでしかない。
背中に石田がぴったりくっついてきてる。
足が冷たいから……寒いのかな。俺より一回り体温低いから。
寒いなら……いいよな?
こんくらい……寝相の範囲だ、よな?
違う、俺はもう寝てんだって。だから、わざとじゃねえ。これはただの寝相だって!
とか、自分に言い訳して……寝返りうつふりをして、石田の身体を抱き締めた。
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20121201
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