【迷走台風】 15

 この話には性的な描写が含まれますので閲覧は18歳以上の方を対象にさせていただきます。

















「………悪い」
「別に、いいよ」

 弾けたように顔に飛んできたから、驚いたけど。僕の顔にかかったのは、阿散井のだって解った。
 熱かった。
 顔を伝って、そのまま床に垂れた……白い色をしていて、見た目は僕のと同じだ……。

 これが……阿散井の……。
 唇についたのを、舐めてみた………けど……。

「……」

 やっぱり、かなり……いや、非常に、美味しくない。
 苦いような……喉に絡むような……青臭い変な味。

 不味いかと訊かれたら、絶対に美味しくない。少し舐めただけでも、味覚が不快を訴えるレベルだし、間違っても口にしちゃ駄目だっていう味で、これが独じゃないって言われても納得できないような味をしている。
 なのに……阿散井は、僕のこんなのを飲んだんだ…………


「石田っ! なんて事してんだよ」
「何が?」
 何、怒ってるんだ?
「……ばかやろ」

「何だよ、それ」
 馬鹿って、バカに対して使用されるべき言葉で、何で僕が言われなきゃならないんだ? 頑張ったのに。

「………んな真似すんじゃねえって。お前はそんなことしなくていいの!」
 何でだよ。君はするのに、僕はしないとか、それじゃ不公平だろ?

 阿散井は、僕の顔にかかったのを、ティッシュで拭いた……そんなこと、自分でできるのに。ベタベタするから、あとで洗わないと。



「明日学校だろ」
 阿散井は、服を着直している。

 ……帰るのかな。昼間は帰れって言ったのは僕だけど。だから帰るんだろうけど……一応見た目じゃわからないけど、副隊長なんかやってるらしいから、それなりに忙しいだろうから、帰るんだろうけど……。僕も、阿散井が帰らないと落ち着いて勉強できないし……。

 でも……まだ、出したのに、阿散井の大きかったし。
 一回ぐらいなら……僕だって……

「変な気使わないでよ。僕だって気持ちいいことは好きだよ」

 僕に、何てこと言わせるんだよ。それに僕はなんてことを言うんだ。

 いや、でも、僕も阿散井のを舐めてたら……僕も、また。
 むずむずして、落ち着かない。

 直接は言いにくいけど……シたい。



 一回ぐらいなら……とか。思った。
 明日、学校でも、一回ぐらいなら……阿散井のは大きいから、大丈夫ってくらい大丈夫なわけじゃないけど、それでも何度もやったんだ。慣れてきたし、大丈夫だよ、僕も。


「やっぱり、これ以上一緒にいたら、お前の事抱き潰しそうだ……」

 そう言って、阿散井は僕の頬に軽いキスを落として



「また、来る」

 阿散井は、帰った。





 ………別に、良いけど。
 阿散井だって忙しいだろうし、僕だって勉強したいし、阿散井がいると何もできないし、僕だってやりたいことあるし、洗濯物溜まってるし。阿散井が帰るのは懸命な判断というよりも、むしろ正しい選択だ。
 だから、帰っても当然なんだ。昼間は帰ってくれって言ったし。


 でも、したかったのは本当なんだけど。
 別に、良いけどさ。

 もうちょっと気持ちよくなりたくて、僕から引き止めるような真似なんかして、そんな事したって結局阿散井は帰るし。






 ………物足りない……とか、情けない。

 だって、さっき阿散井が触ったからだ。
 まだ身体の中に変な熱がくすぶっている……これを何とかしないと、落ち着かない。勉強なんて集中できないし、きっと寝ることもできない。
 今まで、阿散井とこんなことをする前までは、自分でするのもほとんどなくて、自分でするのは自分が汚れていくような気がして、汚くなったような後悔で、一度だけで十分だったのに……。


 僕のも……また勃っていた。

 上を向いていた。もっと触って欲しかったのに……阿散井に触って欲しかったのに、帰ってしまった。
 仕方なく、自分のに、手を伸ばす……。

 阿散井とするようになってから、自分でやった事なんか無かった、から……久しぶりに自分でする。すごく、情けない。

 これは、ただの生理現象なんだ。
 もともとそれほど性欲は強い方じゃないと思っている。触らないで済むならこんな情けない事、したくない。


 それなのに、我慢できるほどじゃなくて……我慢してるくらいなら、さっさと出して終わらせちゃいたい。

 僕は自分のを握って、動かす。
 触れば勝手に気持ちよくなるような場所なんだ。今まで自慰する時に、何かを考えたことなんかなかった。

 今……僕は、阿散井を思い出している。
 阿散井が僕のに触った時の手の感覚を思い出して、触る。
 自分で触るのと、なんでこんなに違うんだろう……阿散井の手だと、直ぐなのに。触られたらだけで暑くなって、苦しくなって、すぐに出してしまう。

「……んっ……」

 固くなったまま、先から透明な液体は溢れてきているのに、全然イける気がしない。
 無茶苦茶に摩擦して痛いくらいに刺激を与えるのに、ちっともイけない……どうしたんだろう、僕は。こんなに体が熱いのに。

 足りないんだ……そのくらい、解っている。

 足りなくなった。これだけじゃ、イけない。



 僕は、後ろに手を伸ばす……。

 後ろに……指を、入れる。



「……ぅあ……ふ」


 中を、探る。

 僕の指が、自分の中に、入ってる……気持ち悪い。すごく、変な感じがする。


 それでも、阿散井が僕の中を触る指を思い出して、その動きを追いかけて、触る。


 中にある指が、僕の気持ちがいい場所に触れて……。

 足りない……。


 阿散井の長い指じゃない。

 それでも、僕の指は殆んど僕とは無関係にそこを刺激し続ける。
 足りない……僕じゃ、足りない……それでも、

 右手は、自分のを握って、左手は後ろの穴を探り……そうやりながら、阿散井の動きを思い出しながら……。


 僕は……。


「ふ……あ……ぁっ!」




 ………ようやく、イけた……。


 身体の痙攣に合わせて中の指が締め付けられる……。



「…は、あ……」



 呼吸の整わない僕は。



 僕は、床に転がって、フローリングに精液ぶちまけて………。



 ……。

 ……………。


「………」

 片付けよう。


 情けなくて、泣きたくなった。








20121109