………いや、だって! 男同士だからっ!!
うっかり流されたって、どうしていいのか解らないよ!
それに、はっきり言うまでもなく、見た通りに想像のまま僕は童貞で初体験だ。
中学生の時も異性に気を引かれるわけでもなく……僕を好きだと言ってくれた女の子は今までリアルに三人居たけど、でも僕は滅却師でそんな余裕はなく死神への憎しみでいっぱいだったから、死神に復讐したいって、そんなことばかりを考えて滅却師としての能力を鍛えて、いつか死神に復讐できる力を手に入れるって毎日修行に明け暮れて、そんな死神への憎悪ばかりの殺伐とした中学時代を過ごした僕に当然お付き合いもする事もなく、女の子に触った事すら無いまま………
初恋が死神代行の黒崎で、初体験が死神の阿散井って………。
間違ってる……!
冷静に考えなくても絶対間違ってる!
いいのか、石田雨竜!
いや良くない。絶対良くない!
とか、自問自答を繰り返しながら、どのくらい時間が経ったんだろう、たぶん一時間ぐらい……さすがにまずいと思って、お風呂から上がる。
「長風呂だな」
とか、嫌味を言われたけど……。
こんなんじゃ無かったら、僕はけっこうお風呂早い方だけど!
上がるに上がれない状態にさせたのはどこのどの死神だ!
とか、言えなくて………
「……あ、うん。阿散井も入って来なよ」
「俺はいいや」
早く抱きてえ………なんて……くっついてきて、耳元で言わないでくれっ!
そのまま阿散井の腕が僕に回された……ってのは、もしかして!
「駄目! 駄目だ! 今日暑かったじゃないか! 汗かいてるだろ? 僕は嫌だからな、汗臭いのは!」
慌て押し退けようとしたけど、びくともしない……なんだこれ、壁を押してるみたいだ。
「臭い?」
「臭いよ! 僕はけっこう匂いに敏感なんだ、汗臭いのは嫌いなんだ!」
当然嘘だけど。
よくよく近づけて嗅いでみれば汗の匂いは確かに少しはしたけど、体臭があるって言うか臭いってほどじゃないのは確かだ。っていうかそもそもこのほとんど全身がくっついているようなゼロ距離にいるから解るんであって、普通にしていれば気にもならないハズなのに、何なんだよこの距離は!
別に阿散井がお風呂にどうしても入ってもらわなきゃいけない理由は汗とかなくて、
……ただ、僕は時間稼ぎをしたいだけなんだ!
「わかった、すぐ出てくるから」
「ちゃんと洗え!」
風呂場に消えた阿散井を見送って………。
さて……どうしよう。
困った。
僕は今、人生二度目のピンチに陥っている。
一度目は、黒崎が好きだと気付いた時。多分恋だとの自覚もせずに、色々耐えられなくなったから喧嘩を吹っ掛けたのだろうと、今更ながらに自己分析をしている。
で結局どうやら僕は黒崎が好きらしいと認めることにして、自分の気持ちを全力で否定することを諦めた。
これは仕方ない。もう、どうしようもない。僕が前世で悪行をしでかしていた業を今背負っているのだと、そう思って諦める事にした。想いは墓まで持ってく事に決めた。
それで諦めることで切り抜けた。
そして現在。
二度目の危機に頻している現在、僕は……今の僕の選択肢は?
お風呂の時間はだいたい二十分〜四十分。さすがに僕みたいに一時間も入らないだろう。
やっぱり辞めよう。
って、どう言えば良いんだ?
僕が今できる選択肢は?
逃げる。
いや、何処へ? 僕の家はここだ。逃げるにしたって、何処へ? いや幸いにして阿散井は霊圧感知能力が黒崎レベルに恐ろしく低いから、逃げてしまえばしばらくは見つからないかもしれないが……だから、どこへ逃げればいいんだって!
駄目だ。逃げる以外の選択肢を考えるんだ! 他に僕ができる事は……
逃げる。
いや、逃げられないからっ!
第一相手は一応死神だし、一応副隊長だし、さすがに苦手とは言え、僕が出てくのなんか霊圧でばれる。
だったら………
逃げる。
いや、逃げない。
説得するんだ!
話せば解って貰えるはずだ。
相手だって言語体系同じで意志疎通ができるんだ。獣を相手にしてるわけじゃない。
説得すれば解って貰えるはずだ!
さて、どう言おう。
やっぱりやめよう?
怖じ気付いたと思われないかな? いや、その通りだけど。
でもどう言えば納得して貰える?
好きでもない相手とするのは、駄目だって?
そんなのは今更じゃないか? そんな事で今更否定したら、阿散井の事、余計に傷つけたりしないか?
いや、でもその前に僕の人生にも大きな傷がつく。
だから、必死に説得したら、解って貰えるんじゃ……。
「石田ぁ、タオルねえ?」
「引き出し一番上っ!」
まずいっ……出てくるっ!
風呂場の鍵を外からかけたくなった。そんな機能無いけど。あったとしても、立て付けの悪いこのボロアパートじゃ、阿散井の馬鹿力を前に壊される可能性がある。
そうだ、ボロアパートだ。
夜中に帰ってくる一人暮らしのサラリーマンの隣のテレビの音声丸聞こえだ! 時々エッチなDVDとか見ているようだけれど、お願いだから音を消すかイヤホンにするかにしてもらいたい。
だからつまりこっちの声も聞こえてしまうということで……声が聞こえちゃうから、ここじゃできないって………僕が声を上げるの前提っ!? いや、気持ち悪いからっ! 男の僕が喘ぎ声を上げる事が前提の否定なんか恥ずかしくて無理だ!
それに、二階の端の部屋。
隣は毎晩午前様だし、下は今空き部屋だ。そのくらい、いくら阿散井とは言え霊圧でバレるはずだ。
「石田……」
「ぅわあああああああっ!」
風呂から上がった阿散井が後ろから僕を抱き締めた。そして僕は盛大に悲鳴を上げた。
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20120904 |