【加圧型ラバーズ】 07







 石田が見た目だけじゃなく細いって事は解った。ガタイががっしりしてるマッチョよりも最近は細マッチョがモテるらしいけど、石田は細すぎじゃねえだろうか。
 女子的にはどうなんだろう。俺はどちらかというとムチムチプリンプリンなダイナマイトが大好きだけど(もちろん女子のこと)
 痩せ型信仰が根強い現代日本で、石田の隣に並んで自分が満足できるんだろうか。女子を気遣うなら、もう少し肉付けてもいいような気がするし、美白親交がある現代社会において女子もうらやむほどの肌の白さを誇る石田は、男らしいとは言い難い。

 けど、石田はなかなか女子から隠れて人気がある事を俺は知ってる。
 やっぱりモテ要素は学年首席のインテリか? 俺も勉強が出来たらもっとモテるんだろうか。眼鏡でもかけてみるべきだろうか。

 でも、石田がモテてても、石田が女の子と仲良く話してるところなんか見たことねえし……なんつう勿体無い人生を歩んでるんだろう、こいつは。



「石田って、どんな女子がタイプ?」

 ふと、気になったから聞いてみた。

「俺は巨乳がけしからんと思いますが、朽木さんみたいなロリボディもあえて可愛いけど! 石田はボインとスレンダーどっちが好き?」

「どっちって……何その二択。何でいきなりその話題なんだよ」

 お、珍しく笑った。だいぶ見慣れたとはいえ、やっぱり石田が笑うとなんか嬉しい。
 別にいきなり、でもないけど。俺の中じゃしっかり繋がってた。って言うか、女の子にモテる事にしか考えが向かない青春してます。




「いや、あんま聞いた事ねえし、お前モテる割にちっとも女と付き合ったりしないじゃねえか」
「別に僕はモテないよ」

「またまたまた。見たぜ、先週の金曜日の放課後中庭で告白されてただろ? 1組の田中さんだとお見受けした」

 うちのクラスの女神井上が当然群を抜いて美女筆頭に立つけど。
 一組の田中さん。
 三年の佐藤先輩。

 我が校の三大美女に数え上げられる田中さんが先日放課後人気の無い中庭で石田と話をしてたのを、偶然に渡り廊下から見てしまった。

 あの美女が……っ!
 いや、佐藤先輩が柔道部の熊みたいな主将に奪われた時は世界を呪おうと思ったけど……熊よりも石田の方が、せめて!

 とか涙ぐんで石田が憎らしくなって、仲良く一緒に登校とかしてこようものなら、石田に恨まれようと俺の方がだいぶ恨んでますんで、エルボーかましてやろうとか思ってたけど。
 石田なら頭もいいしまあ意外と優しい奴だから、大事にしてもらえよ、田中さん! て半泣きで走って帰ったのに。


 今週半ばになるのに、別に田中さんとはお付き合い始めた感じもなかった。


 もしかして、あの美女ふったんだろうか? あの美女をか? いや、ねえだろ?
 俺ならあんな美女に告白されたら即日カップルだぜ? そもそも女の子に告白されたら、よっぽどのことがない限りオッケーだぜ? そもそも告白されたいっ!


「あ、……」
「もしかして石田、田中さんと付き合わなかったのか?」

 赤くなる、というか青くなってねえか、石田?
 何だこの反応、普通だったら照れて下を向くとか、じゃねえの? 困ったような顔をされたってこっちが困るんだけど。

「えっと……」
「あの揺れるポニーテールが印象的な明るくて元気で笑顔の眩しいちょっと背の高い田中さんに告白されてたよな?」

「あ、あの……いや、それは…」

 なんで、そんなに突然挙動不審なんだ? 俺達を出し抜いて付き合ったとかでバツが悪い……とかいう感じでもない。


 もしかして、やっぱりあの田中さんを……!!! ふったとか、じゃねえだろうな?
 女神は二度も微笑んでくれるとは限んねえんだぞ! 一度きりのチャンスはモノにしなけりゃ! チャンスを俺にも下さいじゃなくて、なんて、勿体無い事を! 田中さん……何も石田じゃなくて良かったのに。俺だったらいつでもあなたのために横は空いてますっ!







「……へえ、石田、そんなことあったんだ」




 突然、横にから一護の低い声が聞こえた。

 ……今俺の背中、ぞくっとしたんだけど。


「確か部活あるから先に帰ってろって言った日だよな。教室で待ってたのにやたらと遅かったし。なんか様子が変だったのそういう事か?」

 ん? 先週の金曜日もお前ら一緒に居たのかよ。

「……いや、別の件で呼び出されたんだって! 別に好きだって告白されたとか、付き合ってくれって要求されたり、泣きやむまで付き合ってたから、帰りが遅くなったとかそういうわけじゃなくて、普通に部活の事だよ」

 人の事あんま言えねえけど、石田は嘘を吐くのに向かない性格をしてると思う……テニス部の田中さんと手芸部とどんな接点があるんだよ。どんな言い訳にしたって、他に何か思いつかなかったのか?
 てか泣かせやがったのか、あの田中さんをっ!?

「それ、本当だな」

 あ、一護は信じるんだ? いや、嘘だろ? 思いっきりただの事実だろ。

「本当だよ。だから、君が気にすることじゃないよ」

 それに今思いっきり石田、一護の目を見てねえぞ。どう考えたって嘘だろ!?
 そもそもなんで一護が気にするんだ? 一護って田中さん好きだったか? そんな感じ全然気付かなかったけど……田中さん、一護のタイプっぽくねえし……いや、一護のタイプってだいたいどんな奴だ?


「んで?」
「ちゃんとその場で断ったよ」

 やっぱ告白されてたんじゃねえか!

「本当か?」
「ちゃんと好きな人が居るからって断った」

 石田に! 好きな人が居んのか!?


 今、一番の衝撃を受けた。俺。
 そっか……完全無欠の鉄のような人間改め、人間だけど鉄みたいな奴だって思ってる石田もちゃんと人間の基本的な感情は搭載されてたのか……なんか、不思議。

 ちゃんと笑ってくれたり、時々困ったりするけど、一護だけは例外だけど、基本的にマニュアル対応できてる石田が、他の人に気持ち向けたり、感情ぶつけたくなったりするって、事実が不思議だけど……そっか。石田もちゃんと人間だったんだな。

 くそ。
 どうせ石田なんて結局頭いいし、顔だって派手じゃないし冷たそうだけど、整ってて、綺麗な顔立ちしてるし、なんだかんだ言ってスポーツだって成績悪くないし、意外と面倒見がいいし、話してみたらちょっと天然な所とかも面白いし。
 いいよなー、モテる奴は。
 石田が好きだって言ったら、たいていの女子はオッケーするんだろうな。

 俺なんて告白したい女子が多すぎてまだ一度もしたことねえし、されたこともねえ。

 一護も石田もモテるくせに女っ気ないし……本当にもったいないよな。
 せっかくの一度きりの高校生活で、気付いてねえかもしれねえけどお前ら二人は俺がうらやむ程度にはせっかくモテてるってのに、どうやら二人でばっか遊んでるみたいだし。











20120606