【加圧型ラバーズ】 08







 俺だってせっかくの共学の高校生活なんだから一度くらいは告白とかされてみたいっての。一度しかない高校生活で可愛い女子に好きだって言われたい!
 一緒に帰ったり、試験前に一緒に勉強したり、休みの日は私服でデートしたり、部活の試合に応援に来てもらっちゃったりとか……いや、俺部活やってねえけど。

 一護だって、怖い顔に似合わず可愛い女子から意外と人気あるし、石田はモテるし羨ましいよな、本当。俺だって女子からあれこれされたいってのに……こいつらは、その厚遇を有難がる事もしねえとか、若干……いや、大いに羨ましいから僻みたいと思います。


「一護も、調理実習だった他のクラスの女子からでクッキー貰ってただろ?」

 調理実習! うらやましすぎる共学ならではの夢の演出! あれで落ちない男は居ねえと思う。水色もたくさんもらってたけど……俺はさらに水色からもらったけど!


「あ……そうだっけ」
「そうだっけじゃねえよ! その場で食ってたじぇねえか!」

「……そうだった……か?」

 健忘症ですか? 俺だったら一生の思い出にできる出来事にランクインする喜びに違いないってのに……何で一護の目は泳いでんだ?



「……へえ。良かったね」

 な、良かったなっ! 羨ましいよな! 俺だって欲しかったのに。余りもんでもいいから、一枚でもいいから俺だって、水色が食べきれなかった奴じゃなくて、ちゃんと女子から手渡しで俺にプレゼントされたかった!


「断れねえだろ、普通なら」
 いや、断らないだろ普通。

「そう。良かったね」

「……でも、お前が作った方が旨かったし」

 ……いや、そりゃどうだろう。美味しいのはシチュエーションであって、噛み締めるのは幸福であって、よっぽど不味く無けりゃいいんじゃねえの? あんまりむつかしい事知らないけど、卵とバターと砂糖と小麦粉混ぜて焼けばそうなるんじゃねえの?

 そもそもなんでそこで石田の作ったクッキーが比較対象になるのか俺には理解が出来ないんだけど……てか、石田が作ったクッキー食べたことあんのかよ、一護。レアすぎる……。



 ……なんだろう、この微妙な空気……助けて欲しいとか、誰か空気下さいとか。切実。




「で、だ! 石田はどこの女子が好きなんだって?」

 無駄にテンション高く聞いてみたのはこの空気を打破するため。
 何だか、太陽は夏でもないのにガンガン照りつけてて肌が焦げそうなのに、寒いんですけど、ここの空気。なんだか一気に個々の気温下がってねえか?  何かピリピリして肌がいたいです。俺何かまずい事言ったか?

「え? 僕?」
「そう、石田!」

 今好きな人がいるって聞いちまいました。ばっちり聞いた。

「石田が好きなのはどんなタイプの女子なんだ?」

 でも、田中さんでも駄目ならどんな人なら石田はオッケーなんだ? 好きな人がいるって、田中さん以上なら、井上さんか? そもそも、石田にそうゆう常識的な欲求って装備されてんのが、本当に驚きだけど……石田が好きになる人って、だけで驚きだけど、どんな人なんだろう……さっぱり解んねえ。

 石田に好きな人が居るってだけで驚いたから、もういっそ足首に目が行くとか巨乳がいいとか、実は熟女や人妻がいいとか、お姉様にいじめられたいとか微妙なフェチ言われたって俺はもう驚かないぜ。
 それに、さっき訊いたのに答えてもらってねえし。


「別に普通だよ」
「普通って回答は認めません」

 はぐらかすつもりじゃねえだろうな? 悪いけど、ついでなんで是が非でも聞かせてもらいたいと思います。
 とりあえず、石田が好きな女子って、本当に誰なんだろうか俺にはさっぱり見当もつかないけど、石田が好きな女の子はどんなタイプなんだろう。見た目も悪くないし、頭もいいし、実はスポーツも万能だったりする石田だったら、たいていの女子はオッケーだと思うけど……だから、もう付き合ってんのかな。

 それにしちゃ一護とばっか遊んでるみたいだから、きっとまだなんだろうな。

 俺がそこはかとなくキューピッドしてやっても良いぜ。恋愛経験だけなら、たぶんここに居る誰よりも豊富だと思う! 全部片想いだから、付き合った経験はないけどな!





「そうだね……僕は、信頼できる相手が好きだな」

 何100点な模範解答してんだよ。そんな答え求めてねえよ! 俺は石田が誰が好きかってのを知りたいだけじゃねえか。俺には全校の女子のデータがインプットされてんだから、高確率で石田が言った特徴から誰かを探し当てる事が出来ると思う。


「他にも、誠意とか大事だよね」


 そう言いながら石田が、一護を見た。

 笑顔だったのに、効果音つけるならチラリではなく、ギロリって途方もない眼力が込められていたの……俺の気のせい、じゃ、ねえよな、きっと。
 もしかして一護にクッキー渡した女子が石田の好きな人だったりしたのか? 確かに鈴木さんはおっとりとした雰囲気が甘えさせてくれそうで可愛いと思うけど……いや、でも石田は一護がクッキー渡されてた現場知らなかったって事は誰から貰ったか知らなかったんだよな?
 じゃあ、石田が好きな人は鈴木さんじゃないのか。




「俺は、ちゃんと人の話聞いてくれる奴がいい」


 えと、一護には訊いてねえんだけど。
 いやでも、これから訊くつもりだったけど、まだ訊いてねえんですが、わざわざ答えてくれてありがとう。



 そうか。
 一護ってけっこう傍若無人なところあるから、ちゃんと話を聞いてくれる人とかの方がいいよな。二人そろって一護みたいなタイプだったら大変そうだもんな。


「でも、可愛いげが無くて、頭がいいくせに鈍感で天然で、痩せてて、生意気で可愛げがねえし、喧嘩しても正論振りかざして来るような奴が、結局好きだけどな」








 ……一護って……変わった趣味してるよな……。






「……恥ずかしい奴だな、君は」

 いや、恥ずかしいって言うか……どっちかって言うと変な奴……。






「ごちそうさまー」

 水色が、愛情たっぷりの弁当を食いきって、両手を合わせてから蓋を閉じた。










20120803