「……石田?」
石田の質問は予想外で……これに対してどんな回答が求められてんのかは俺には予想もできない。気に入らないって……何がだ?
「君、最近変だよ? 僕の事避けてるよね? 何か気に障るような事したかな?」
「……そうじゃねえ!」
何もお前は悪くない。
気に入らないって言ったら、俺がだ。石田の事大事にできない俺自身が気に入らないだけだ。
石田の事大事にしたくて、お前に笑って欲しくて、お前の望んでることできる限りやりたいのに……石田に喜んで欲しくて、優しくしたくて。
そんな簡単そうなことを、どうやってすんのか、解んねえんだ。
だって、俺が近くにいると、辛いんだろ? いつもは大丈夫だろうけど、今日とか、満月の日、俺が居ると石田が辛い。それが気に入らない。だから俺が気に入らない。
今だって、歩くのがやっとってくらい、石田の顔色は青かった。
俺が居ないなら……霊体だったら大丈夫だったんだ。いつも通りに戦う事だってできたんだ。
そんなにお前が辛そうなの、俺のせいなんだろ?
下を向いて、石田は唇を噛み締めてた。俺の方が階段の下に居たから、見えた。
握りしめた石田の白い手は、小刻みに震えていた。
「僕に血をくれないなら、それは諦めるから……我慢、できる。するよ」
「石田?」
「でも……君に、嫌われるのは、辛い」
石田は、顔を上げて、少しだけ微笑んだ。
その笑顔が、痛いだなんて思った。
石田の笑顔好きなんだ。笑って欲しいって思ってた。ずっと石田が俺に笑ってほしいって思ってるのに、この笑顔は痛かった。見たくなかった。
こんな顔させたの……俺のせいか?
嫌いになんかなってねえよ。なるはず、ねえ。
でも、お前のその言葉の中に、俺と同じ気持なんかどうせ含まれてねえだろ? こんなに苦しい気持ち、入ってねえだろ?
それでも、そんな言葉でも、俺がどんだけ嬉しいかわかってんのか?
「違う」
違うって。
好きだから、だよ。
お前の事好きだから。
血をやるから、抱かせてくれだなんて……。
「そんなに、血が飲みたいのか?」
俺が無茶な要求しても、それでもいいって思うくらいには、血が飲みたい? そんなに俺の血がうまいのか?
「………」
「俺、わかんねえからさ」
そのくらい、辛い? 俺に身体明け渡して、いいようにされても良いって思うくらい、そのくらい俺の血が欲しいの?
石田の青い、顔。
「……うん」
石田は、辛そうな顔をしながら、それでも、微笑んだ。
微笑んで、俺に向かって手を伸ばした。
細くて冷たい指先が、俺の頬を撫でた……。
「今すぐ……ここで君を襲いそう」
石田の顔が、卑怯なくらい妖艶だった。
瞳が妖しく赤い光を灯す。
飲み込まれそう……意識が石田にひきずられる。
俺の頬に障る手を上から握った。細い指。弓を扱う指は、やっぱり堅くて、女みたいな軟らかそうなてじゃねえけど。節張った指はちゃんと男の手なんだけど。
白くて綺麗な、整った手をしている。
石田のその手を握って、そのまま石田の事を引き寄せ……
その時、授業開始のチャイムが響いた。
「ちょ、待て。ここじゃまずいだろ!」
今、チャイムが鳴んなかったら、ヤバかった……ここは階段で学校で授業が始まった所だ。早く行かないと、怒られるって。
慌てて石田の手を離して、肩を掴んで俺の腕の距離だけ石田を遠ざけた。
「じゃあ、僕の家なら良いんだね?」
さっきまで俺の頬に触れてた手が、そっと俺の首筋……いつも石田が噛みつく場所に置かれた。
心臓がバクバク言ってんの伝わらねえか、不安だったけど……このままじゃ、本当に……
「わかった。行くから!」
俺が自棄になって叫んだ声は、階段中に響いた。
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20111214 |