「黒崎、今日は……大丈夫?」
移動教室で忘れたペンケースを理科室に取りに行く、授業がそろそろ始まるこんな時間は廊下には誰も歩いてない。学校には千人単位で居るはずなのに、人気のない静かな階段で……後ろから石田に声をかけられた。
近くに教室がないから、静かで、石田の小さな声もよく響いた。
弁当さっさと終わらせて教室に戻ったら忘れた事に気がついたから、一人で来たつもりだったのに……だから石田が着いてきてるに気付かなかった。
授業がそろそろ始まるこんな時間に、特別教室しかない校舎の階段で誰も居ないってのに、石田の気配に気付かなかった。石田じゃねえから、俺はそう言うの得意じゃねえけど、突然、声をかけられてびびった。
石田のこと考えてたから、幻聴が聞こえたのかと思った。
石田の、青い顔。
今日が満月だってちゃんと把握してるけど。
「ああ、今日だっけ」
わざと気づかなかったようにしてみると、石田は青白い顔で、レンズの奥にある切れ長の目を少しだけ細くした。
青い顔。
足取りも、危なっかしい。
満月じゃなくても、石田の体調でちゃんと解るって。具合悪そうじゃねえか。
呼吸も浅く苦しそう。毎月見てるけど、毎月……辛そう。俺が何とかしてやれるなら、やっぱ何とかしてやりたいけど。
不安だから、石田についててやりたいけど……俺が居た方がまずいんだって。
そんな事が解んないくらいじゃない、さすがに。俺が居ない時は、大丈夫そうにしてるらしい。そう水色からも聞いた。
石田は……本当は血なんか飲みたくねえんだって。
でも、俺の血だけが……。きっと俺の霊圧が強いから、だと思うけど、そんな理由だろうけど、そんな理由で俺が石田を苦しめてる。
「悪い、無理」
また襲いそう。
まだ、手を出しそう。
石田の事、ちゃんと諦められたら、そうしたらいくらでも血なんてやるから……
交換条件なんて、そんな言い訳通用してんのは、石田が血を飲んだ時に正気じゃないからだ。
惚れてる奴に抱きつかれて、首舐められて興奮されたりしたら、本当に……我慢なんてできねえ。我慢できる男なんかいんのか?
好きなんだから仕方ねえだろ?
好きじゃなくたって、たぶん襲ってたくらいの普段の石田から想像出来ない色気に、俺の忍耐力とか自制心とか、崩壊してたと思う。
でも、俺は好きなんだ。
お前が、好きなんだ。
「黒崎……」
つらそう。吐息の中に含まれた俺の名前が熱く籠ってた。
それだけで、身体の芯が熱くなってくる。した時に呼ばれた声と似てた。
でも、お前が我慢できんなら、俺が無理矢理、交換条件って口実作って襲うよりいいんじゃねえか?
血なんか飲みたくねえんだって。だったら、俺が居ない方がいいんだよな? 俺の血だけが、なんか妙な匂いすんだよな?
今はこんなに辛そうなのに、実際、俺が霊体だったら大丈夫そうだった。今こうやって俺のそばに居るから、辛いんじゃねえのか?
石田の事だから、常に他人の行動には一切興味持ってないって無関心装ってるから、行けないって言っても特に気にしないと思った。
だから、家で用事を押し付けられたでも何でも、嘘でも言い訳を先に言っておくべきだった。
「……何が、気に入らない?」
だから、俺にとって、石田のこの質問は意外だった。
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20111214
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