バイトや何やらで、授業で数回爆睡かまして、中間があと二週間後に迫った現在……かなり、まずい状況に陥った。
頼みの綱は石田。勉強を教えてくれと頼み込んだところ、二つ返事で了解を貰えた。
石田も石田で生徒会やら虚退治やら忙しい日々を送っているはずなのに……相変わらずの学年首席。同位で誰かと首位の事はあるけど、二番手に落ちたことはない。
でようやく俺と石田の都合がついて、一週間前にもなったってのに、石田はがつがつ勉強する気配も見せず、優雅にティーポットで紅茶を入れて、のんきに古い推理小説なんかを読んでる。勉強はしているらしいが、俺は石田が必死になって勉強してる姿を見たことないし、英語以外の外国語で書かれた本を読んでたりすることもあるし、何回読み直しても到底理解できそうもない哲学書なんかも嫌いじゃないらしい。頭の構造が違うんじゃなくて、人種が違うのかもしれない。滅却師ってそういう人種なのか?
「石田、ここ解んねえ」
「………」
「石田?」
「うん、あと少しで凶器が何か解りそうなんだ」
「……」
一応、返事が返されたって事は耳の穴は脳とつながっていたようだ。内容までは理解してくれなかったようで、返事なのかはよく分からねえけど……つまり、今は駄目らしい。
それから数分して、再び声をかけると、同じ答えを返された。今度は凶器じゃなくて共犯者だと。
「石田ぁ……」
「ああ、もう。ちゃんと考えたのか? 今僕は忙しいんだよ」
付き合ってから頻繁に外でのデートを断られて、もしかして飽きられたんじゃないんだろうかと、悩んだこともあったが、石田の家にお邪魔するようになって、石田が本の虫だと知った。確かに休み時間はいつも読んでるけど。読みたい本が俺よりも優先されてる事態に少し落ち込んだけど……もういい加減になれてきた……つもりだけど、寂しいもんは寂しい。
「考えて解んねえから訊いてんだろ?」
「解った……あと五分待って」
「嫌だ」
「じゃ、あと十分」
「増えてんじゃねえか!」
だいたいせっかく久しぶりに石田のうちで石田と二人っきりだってのに、俺が勉強しなけりゃいけない事態にもあんまり納得いかねえってのに……。本当だったら、せっかく互いの都合ついたんだから、二人きりなんだからやりたいことがあるけど……ただ、また成績が落ちたら石田に見放されるような気がするから、最低でも現状維持は必至で、俺が勉強寸のは仕方ねえんだけど。教えてもらう分際で、ここは石田んちなんで、俺が石田の邪魔をする方が間違ってることぐらいは解るけど……やっぱり本じゃなくて俺見ろよ。
「……仕方ないなあ。じゃあ次のページテストだから、やってみて」
「いや、でもここ分かんねえんだけど……」
「公式は理解してるんだから、考えれば解るよ。はい、このページね」
「……って、応用編じゃねえかよ」
「そう。黒崎ならできるよ。今四五分だから十五分までね。はいスタート」
石田は、そう言ってまた本に戻ろうと……したから、俺は石田の読んでる本を取り上げて閉じた。……いや、今、石田は石田で忙しいのは解るけど。少しは俺を構えよ!
「ちょっ! しおり挟んでないのに!」
「てめえ、時間稼ぐつもりだろ!」
「だってあと少しで犯人が解るんだ。三十分もあれば読み終わるから……ね」
ね、じゃねえって。上目遣いにお願いされたって! そんな笑顔が可愛いとか思う俺が悔しすぎるけど、どれほど面白い本なのかは解んねえけど、石田を夢中にさせてんのが俺じゃなくて本だって事に、めちゃくちゃ嫉妬してみる。
「じゃあ、こうしよう。七十五点以下だったら不合格で、罰ゲーム。間違い一個でキス一回ね」
は?
こいつ、本の続きが気になって、今適当に言っただろ? 自分で何言ってんのか自覚あったのか?
「それ、俺がしていいの?」
一応、念のため。
後で、正解の数がキスの数だって訂正されたって……いや、さすがに半分以上は解ると思うから、正解の数の方が多いだろうから、そっちでいいんだけど。
「いや、僕が君にだよ」
「んで、逆じゃねえの? 正解だったらじゃねえの?」
「間違えたらだよ」
「それって俺は間違える方に努力するんじゃねえ?」
そんなら張り切って間違えようかと思うけど……。
「ほら、もう始まってるんだよ。十五分まで」
石田は本に戻ったから、俺はとりあえずスタートする……けど、それじゃやる気出ねえって解ってんのか?
相手がケイゴとかだった場合、間違えないように必至だと思うけど、俺は石田にキスされたい。から、つまり、それ罰ゲームになんないって思うんだけど……
「あ、罰ゲーム中は黒崎は何もしちゃ駄目だよ」
何?
「七十二点。惜しかったね」
祭典を終えた石田は、満面の笑みだった。
そりゃ、石田からの罰ゲーム欲しさに手を抜いた訳じゃなかったけど、ちょっと期待してたのも事実だけど、でもやっぱり目の前に問題出されたら、わざと間違えようって気にもならなかったから、あと三点は少し悔しい。
「最初に解説しちゃおうか。まず問4から……」
そう言いながら、相変わらず的確な教え方で、難問に見えた数式をいとも簡単に説きほぐしてくれてる。
三十分は、やっぱり石田が所望していた時間だったようで、二十分ぐらいして、本を閉じた音が聞こえた。そして前の方のページに戻って何かを確かめると、再び本を閉じて目を閉じて、ため息を吐いていた。どんな本だかは解らねえが、どうやら満足しているようだった。
五分前になると、台所に行って何やら片づけをしてから、冷蔵庫から麦茶を持ってきて、俺のグラスに継ぎ足した。
それで、ちょうど三十分。
「黒崎? 解った?」
「あ、おう。ありがとう」
「どういたしまして」
とりあえず、合格点以下だったって事は罰ゲームか?
「間違えが、4個だから……今から4回キスするけど……覚悟できてる?」
「おう」
覚悟って言うか、むしろ期待に胸が膨らんでる。
石田から、キスなんて……。
無いわけじゃないけど、基本的に俺からが基本。滅多にないわけじゃないけど、ごく僅か。
「じゃあ、行くよ……」
石田が猫みたいに俺の膝に手を付いて、伸び上がって俺の顔に顔を寄せてくる……俺の期待で心拍数が上がる。
「……なんか、改めてするとなると恥ずかしいな。目、閉じて?」
「解った」
言われたとおりに、目を閉じる。
やべ。なんか、めっちゃ緊張する。
閉じて……ふんわりと……重なって離れた。
「はい。一問分、終わり」
「……もう終わりかよっ!?」
早くねえか? 今の秒数にしたら、一秒に足りないぐらいだったぞ? まさか今ので残りの三回もするつもりじゃねえだろうな? いや、まあ、どうせそんなもんだろうけど。
それでも嬉しいことには変わりねえし。
「じゃ、二回目」
石田が目を閉じて、唇を寄せた。
目を開いてると、至近距離で睨んできて、キスする寸前で止まってる……閉じろって事、か?
目を閉じるてみると、唇が重なってきた。
これで、二回目……しっかり味わおう。
って、思ったんだけど……。
石田に舌が口の中に潜り込んできた。
ちょっ……!
石田からのキスなんて、滅多にないのに……俺から頼んだって、頼みこんでようやく、ほっぺたに軽くとか、そう言うキスばっかりだったから……。
石田……が、俺に……。
やべえ、これ嬉しい。
石田の舌が、俺の口の中に入り込んできて、動いてる。俺がいつもするように、歯列舐めて、舌を重ねるようにして動かす。いつも俺のキス真似てるってことは、仕方覚えててくれてるってことか?
口から、くちゃりと俺と石田の唾液が絡む音がして……。
もっと、深く、もっと強くキスしたくなって、俺は石田の細い腰を抱き寄せて、頭を押さえて、石田の舌を強く吸った。
「ぅ…んっ、ん、んん」
歯がぶつかるぐらい唇合わせて、口ごと食べるようなキスを返そうと……
「んっ、んーんっ!」
頬をバシバシと叩かれた……って、何?
「黒崎っ! 動くなって! それじゃ罰ゲームにならないだろ!?」
「……いや、だって」
石田がこんな事して、動くなって方が無理じゃねえか? それに動いたっても、ちょっと抱き寄せて舌を動かしたくらいだし。
「今のノーカウントだからね」
「おう」
一回増えりゃ、俺は嬉しいんだけど……そもそもこんな事はご褒美としてもらうべき所であって、俺が喜んでるって事に、石田は気付いてんのか?
「動いたら駄目だからな」
「解ったって」
で、待ち遠しい俺は、今度は自分から目を閉じる。
ゆっくりと石田の唇が押しつけられる。薄く開いた唇から、ゆっくりと石田の舌が入ってくる……けど、これ反応返さないの、きついな……。
動くなと言う約束通り、俺は何もしないつもりなのに、腕は早くも石田の腰に触れそうになる……けど、ここは我慢しねえと。手を握り締めて耐える。
石田からのこんなキスって……初めて、だと思う。
俺からキスして、ノってくれば石田も舌を絡めてきたりするけど……基本的に俺がってことが多いから……。
「んっ……ぅ」
必至になってキスをしてくる石田がやっぱり可愛いから……抱きしめていいかな。触ったら怒られるんだろうか……いや、でも……
つい、石田の腰に手を触れると、思い切り太股を叩かれた……あ、駄目なんだ。
「ん……ん…ん」
口の中で必死になって舌を動かしてくるけど……もう、これ頂いちゃってもいいんじゃねえの? けっこう石田キスに弱いから、キスするだけで身体の力抜けてきて、美味しそうになってくるってのに……。
石田の手が俺のシャツ握りしめてたりすんのとか、なかなか俺も限界近いんだけど……理性とか。
→
|