僕は、怖がっているのだろうか……今、怖いって……黒崎が怖いのか? 指先に力は入らないのに震えてる。寒くもないのに。
確かに、黒崎の目が迫力ありすぎて、ちょっと怖い。基本的に単純で猪突猛進で、何を考えているのかわかりやすいし公開路をしている黒崎が、今何を考えているのか、さっぱりわからない。考えてることも解らないし、今の僕の自分自身の状況も何が起きているのかわからなくて、怖い。
僕は、黒崎を怖いと感じている……? まさか。だってこれは黒崎だろう?
「俺、我慢できねえ、もう」
我慢? 黒崎は我慢なんてするタイプだったか? 普段だったら盛大にツッコミを入れてしまいたいところだけど、黒崎の真剣な眼差しがそれを抑止した。
「………何に」
我慢しているとすれば、一体黒崎は何を我慢していたのか?
「お前に……我慢すんの、もう無理」
僕に……僕は、君に何を我慢させていたんだ?
問いかけたかったけれど、黒崎の顔が見られない。
僕が、黒崎とのキスで股間を膨らませていた事がまず恥ずかし過ぎるし、黒崎の視線が痛いくらいに真摯で、だから、黒崎が……やっぱり、少し怖い。
僕は下を向いた。黒崎の顔を見れなかった。
………下を向いて、見た。
ばっちり、見た………。
黒崎のが服を押し上げて大きくなっている………。
いや、人のことを笑える立場じゃないけど、黒崎も、僕とのキスで、こんなになってる……のは、自分の耳まで熱くなっているのがわかるくらいに恥ずかしかった。いや、僕じゃなくて、黒崎が恥ずかしい思いをすべきところなのに、何故僕がこんなに恥ずかしい思いをしなければならないのか、よく解らない。
黒崎が反応してるのを見て、なんでこんなに顔が熱いんだろう。
「もう、俺のこんなになってんだ」
「………」
見たよ……
うん。
すごいね。
でも、それは恥ずかしいから言わなくていいよ。
「石田」
「………」
さて、僕はどうすればいいんだろう。
僕達は男同士だ。
一応、両想いという事になっているので、これで終わりでもう今日は遅いから寝ようっていう状況じゃなくて、これから黒崎が何かをしたがっているのは解るが、男同士で何ができるっていうんだ? 気持ちが通じ合っていても、性別のためにどうしようもないことだってあると思うんだけど……。
「石田の、見ていい?」
「……っ!」
いや、無理です。今触って解っただろ? それで十分じゃないか。
温泉とかでもないのに、下着の中身を他人に見られるなんて、ちょっと勘弁してもらいたい。できれば僕はお風呂は一人の方が好きだから、温泉とかもあまりいきたくない方だっていうのに。
「見せて」
「……!!」
嫌だって! っていうか、無理だから。恥ずかしいから!
って、言いたいのに、その前に黒崎は僕の下着に手をかける。僕は、下着を引っ張るけど……この、馬鹿力めっ!
「やだっ! 黒崎、待て」
「待てねえ。どんだけオアズケ食らってると思ってんだ!」
黒崎の怒鳴り声に、僕は身を竦めた……僕は、今何か悪い事したんだろうか……?
僕が気を抜いたから、黒崎はその隙を見逃さず……下着は奪われてしまった。
黒崎が、剥き出しになった僕のを見ている……下着をはぎ取られて、せめて隠したいのに、黒崎がそれを邪魔する。
立てた膝は大きく開かれてしまい……黒崎の馬鹿力のせいで、僕は足を閉じることすらできない。
もう……泣いて、いいかな。黒崎が怖いし。恥ずかしいし、僕はもう泣きたい。
黒崎が、発情して上を向いたままの僕のを、見て……
「やぁっ!!」
突然、口に含んだ。
「やだっ! 黒崎っ! やっぁあっ、あ」
ぬるりと暖かい黒崎の口の中の感触は、堪えようがなかった。
痛みには耐性がある。どんな怪我をしたって僕は敵が前にいたら、絶対に膝を付かない。その自信はある。
けど、この快感に逆らうのは、無理だった。
黒崎の口の中は気持ちよくできているんだろうか。さっきのキスも、僕は溶かされてしまうかと思った。
僕のは黒崎の口の中で蹂躙される。強く吸われて、舌で裏筋を刺激されたり、舌先を尖らせて先端をこじ開けられるようにして舐められたりするのに、僕はどうやって耐えていいのか解らない。
「あっ……あ、んっう、ああ」
腰から下は、もう僕の意志は存在していない。足を動かそうと思っても、動かせない。動かしたって黒崎の身体が邪魔をして閉じることもできないけれど。
「やっ、あ、あ…ああっ!」
頭をどかそうと、髪の毛を引っ張っているつもりだけど、指に力が入らない。
僕の制止は何の役にも立っていないようで、黒崎は僕のを口に含んだまま、頭を上下に振り続ける。
強い、快感が僕を襲う。
舌にこすられる度に熱が背筋を上り、頭で弾ける。
「や、もっ!」
黒崎が口に入れたまま、手で僕のを強く握って動かし始める。黒崎の口から唾液の絡む音がする。
「くろ、さ…イいっちゃ…や、…放し、ぁあ…」
もう……っ! 耐えられない……
「んんっ、ああぁあっ!」
身体中が、痙攣した。
軽く頭の裏で爆発したような、そんな気がした。
目の前が真っ白になった。
僕……いま……黒崎の口の中に……
どう、しよう。
「……ぁ…」
どうやって、謝ればいいんだろう。僕、今、黒崎の口の中で、イった……。
でも黒崎が悪いんだ。黒崎が、あんな……
「気持ちよかった?」
「………ごめ…っ」
耐えきれずに、黒崎の口の中に出してしまった罪悪感とか、羞恥とか……そんなので僕の頭の中がぱんぱんになってしまっている。破裂しそうだ。もう、いっそ破裂してしまいたい。
どうやって謝れば許してもらえるんだろう。
僕の身体は、力が入らない。自分でもする事はあったけど、こんな感じじゃなかった。こんなにならなかった。一緒に僕の全部が一気に放出されてしまったように、力も入らない。
動けない。
謝りたいけど、僕はタンスに背を預け、動けない。口も言葉を喋りたいのに、呼吸しかできない。
動けない僕の背に、黒崎の腕が回った。
そして、僕の膝の裏にも腕が差し込まれて、何をするんだろうって、そう思った。
そして、抱き上げられた……!
「黒崎!」
いや、僕は別に太っている方じゃないけど、女の子じゃないんだから軽くはないのに……黒崎は両腕で軽々しく僕を持ち上げた。
「何っ、黒崎、下ろせよ」
「おい、暴れるなよ。落ちるだろ」
じゃあ、放せよ!
って、思ったら、下ろされた。
ベッドの上に。
投げ出される感じじゃなくて、そっと、静かに僕を下してくれたけど……わざわざ運んでくれなくても、少し回復したら自分で歩けるよ。
何をするのかと思ったら、そのまま黒崎は僕の上にのしかかってくる。
何だ?
寝るなら君は下だぞ?
黒崎が僕の上で、着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。
本当に……着痩せするタイプなんだと思う、黒崎は。本当に、均整の取れて研ぎ澄まされた綺麗な身体をしている。同じ男の僕でも、ついうっとりと見惚れてしまうくらい……僕の視線に気付いたのか、黒崎は笑った。
「次、俺の番な?」
黒崎の笑顔は、少しだけ僕を安心させたけれど……黒崎の番て何が?
俺の番って……まさか……僕の嫌な予感が当たりませんようにと願う事しか僕にはできない。
えと、もしかして……………僕も、するの、今の!?
そういう事、か?
男同士でどうにもならないって思ってたけど、甘かった。現実にゲイと呼ばれる少数派の性癖の方々がいることぐらいは認知している。ただあまりにも興味がなかったからその人達の身体を使った愛情の表現の仕方まで考えた事なんかなかった。こういう方法もあるんだなんて、知らなかった。もともと一般的な高校生よりも、そういうことに疎いとは思っていたけれど、その時になったら興味もわいてくるだろうし、勉強したくなってからでいいって思ってその手の知識は後回しにしていたから、知らなかった。でも、知らなくてもいいことだったと思う、普通。
えと……つまり、今、僕がされたことを、僕もしなきゃいけないのかな?
黒崎が気持ちいいかって、訊いたけど……気持ちいいって言うか、もう僕は恥ずかしくて死ねるかもしれない。思い出すだけで、顔が熱くなる。
でも、今のを僕が……するのは、少し、というか、かなり抵抗があるんだけど。
そもそも、僕は恋愛の感情が良くわからないままだ。
黒崎を特別だと思うけど、それが恋という感情によるものなのか、友達が今までいた事もなかったから友情を強く感じているだけなのか解らないって、言おうって思って……た、矢先だから。
僕が黒崎のを口にするのは、かなりの抵抗がある。
けど……僕もやってもらったのに、僕がやらないって言うのはフェアじゃないだろう。
フェアじゃない、僕もお礼をしなければならないのだろう……けど!!
もし僕が黒崎のことを所謂恋愛という感情において好きだと認識していても、男のイチモツを口の中に入れるっていうのは……生理的に無理があるんじゃないだろうか。いや、黒崎はやったけど……やらなくていいけど。
目を閉じていれば……バナナだと思えばできなくは……
って、思いながら悶々としていた時に、黒崎が僕のシャツをめくり上げて、僕の胸に吸い付いた。
「やっ! 黒崎、何?」
「いいから、黙ってろ」
黙ってろって……黒崎の番てことは、僕がする番じゃないのか? 黙ってろと言われても、そんな所舐められても……恥ずかしいのと、くすぐったいのとで。
「黒崎、ちょっと……」
黒崎の頭が僕の胸にある……やけに不思議な光景が、目の前に……。
「気持ちよくない?」
「……くすぐったいよ」
そこ、女性であれば子供ができた時に授乳に使う場所だけど、男としては何に使うのかも解らない場所じゃないか。擽りという攻撃に対して有効だなんて僕は初めて知ったけど。
「じゃ、これは?」
「……ぃっ!」
今……抓られた。そんな事されて、皮膚の薄い場所なんだから、痛いって。思ったけど……じんとした疼きが、腰に響いた。
「どう?」
「ぁ……っ、ぁあ…あ」
どうって……僕に、感想求めるなら放してくれ。
喉の奥から、乾いたような呼吸に、ひきつったような声が混ざる。舌を動かすことができないから、喋れない。
痛いのに……ようやく、放されたと思ったら、また、そこを舌先でいじられた。
「あ……ぁ、」
今抓られたばかりで、神経が過敏になっていたからだろうか……。なんか、むずむずする……。
「石田とやる時に備えて、俺も色々調べたし、色々準備もしたから。大丈夫だから、俺に任せて」
何を、だ……。
ようやく黒崎が僕の上から退いた。
これで解放されるのだろうか……?
もういいなら、とても助かる。下着、はいてもいいかな? 自分のを人前にさらしているのは、いくら同性とはいえ、どうしても抵抗がある。
やっぱり、ちゃんと言わないと。
黒崎のことを好きだとは思うけど、僕は別に恋愛って感情に関して良くわからないって。だから、こういうことは恥ずかしいばかりでちょっと遠慮して頂けないだろうかって、ちゃんと……言いたいけど、もうタイミングはどこまでも逸していることは解る。
僕からじゃ見えないけど、黒崎は自分の鞄の中を漁っている。何を探しているのかは解らなかったけど……持ってきたのは小さな瓶。
「それ、何?」
「こんな時のために買っておいた」
だから、それは何だよ。飲み薬ではなさそうだから……塗り薬なのだろうか。化粧水とか?
こんな時って、具体的にこう言う時のことだろうか……。それにしたって一体なんだ?
黒崎が瓶の中身を手に出す。
水のようなものかとも思ったけれど、やたらと、粘度が高そうな液体だった。
それを、一体どうするんだろう……って、ようやく回転し始めた頭で考える。黒崎が何をするのか、とりあえず、観察をしようと思った。
けど……。
「ちょっ、黒崎! なっ……」
黒崎の手が伸びたのは、さっき黒崎が咥えた場所……の、もっと後ろ……
→
|