「黒崎っ! 何するんだっ!」
まさか……そんな所を触られるなんて思っても見なかった。
ぬるぬるとした手が、僕のお尻の穴に触れてる……自分でだって、トイレに行った時ぐらいしか意識しない場所だ。そんな所……。
「やだっ! 黒崎、やめて」
「ちょっと、我慢してくれ」
我慢って、いや、無理だよ。そんな所触られたら、我慢するなんて無理だから、もう逃げようって思って……るのに……。
黒崎が僕の腰を片手で押さえつけてて、何でこれだけなのに、僕は逃げられないんだろう。黒崎の馬鹿力を、今、心底から呪った。
「うぁあっ!」
嘘……!
黒崎の指が、中に……僕のお尻の中に……。
「やだっ! 抜いて」
「いいから我慢しろ」
我慢って……我慢とか、そういう問題か!?
ぬるぬるした指が僕の身体の中に進入してくる。
そんな場所に、指が入るわけなんてない! そこは元々出す為に使われる場所で、入れる事なんてないはずなのに……それでも黒崎の指は、ぐりぐりと僕の中に入ってくる。
気持ち悪い……! だからそこは中に入れる場所じゃないんだって!
黒崎は何をする気だ?
「やだっ! 黒崎、いやだ!」
「だから、少し我慢」
我慢じゃないよ! 黒崎が指を抜けばいいんだ。
気持ち悪い。
身体の中に何かある感覚は、どう考えたって気持ち悪い。
「っあぁ……っ!」
今、変な、感じが、した。
今……何?
「ん? ここかな?」
「な……今…の」
今、何があったんだ? 僕に、今何をしたんだ?
「ここかな。前立腺て知ってる?」
知っている、というか、保健体育の教科書の生殖器の断面図に書いてあったような単語だった気がする。点数は必要だからその時はそのページを写真に写す要領で丸暗記したけど、テストが終わった今となってはあんまり良く覚えていない。そもそも生物の授業の人体の項目の中に入れればいい項目だと思う。
それが、何だろう?
「ここ……気持ちいい?」
「あっ…あ、あ、あ」
黒崎は、僕の中のその場所だけを指の腹で押し込むように刺激してくる。
「あぁっ! あぅっ……ん」
何だ、これ。何で、そんな場所が……。僕の身体なのに、僕の言う事を聞いてくれない。
黒崎の指が、僕の中で暴れる。指が増やされたんだろうか。入り口をこじ開けるようにして、僕の中で暴れてる……。
気持ち悪いって、もう僕はそんなことを思う余裕がなくて、自分が情けない声上げていることにも気づかなくて、今与えられる熱をどうやって処理すればいいのかわからない。どこかにしがみ付きたくなって、近くにあったシーツを引き寄せ、枕に顔を押し付けた。
「あっ……ふぁっ、あぁっ」
もう……わけがわからない。僕が解らない。
「……悪い、俺、我慢できねえ」
「……な、に?」
黒崎が、ようやく、指を抜いてくれた。ようやく、呼吸ができる事だけが、わかった。
指が抜かれて、苦しかったはずなのに、無くなった質量がすこし寂しいだなんて思うのは、何でだろう。よく解らない。
頭の中身が膨張している気がする。思考回路がぐちゃぐちゃになってしまっていて、今僕は何を考えるべきなのかも解らなくなってしまっている。
黒崎は、何を、する気だろう? 我慢って、何だろう。
今、あまり、いい予感はしていない。
逃げるなら、今しかないって、どこかで思っているけど、逃げられない。意識はふわふわ僕の一メートルぐらい上を浮遊してる感覚なのに、身体は鉛になってしまったかのように重い。
「石田……」
黒崎が、僕の膝裏を押し上げて、僕の足を広げさせる。
何をする気だろう。
自分がどんなに恥ずかしい格好をしているのか、理解していないわけじゃないけど、できるならば本当に逃げてしまいたかったけれど……黒崎の目がやたらとギラ付いていて、実際は怖くて動けなかったんだと思う。
黒崎が、ゆっくりと僕の上にのしかかってくる。
そして……腰を押しつけてくる……。
「黒崎っ!!」
ようやく、僕は、理解した。
男同士でも、する気だ、こいつ!!
嫌な予感はしていたけど、いや、できないよ! そこは出すところであって、入れるところじゃない!! 今指くらいは入ること解ったけど、そんなに大きいの無理だよ!
「黒崎、待って! お願いだから、待ってくれ!」
「この状態で待てるかよ!」
黒崎のいきり立ったモノが、僕の出口であるはずの場所に、押しつけられている。やたらと熱くて堅くて……大きい、気がする。
「やだっ! 頼むから、待てって!」
「無理だ!」
無理でもなんでも、お願いだから待ってくれ!
黒崎が僕の腰を両手で掴んで、自分のを強く押し付けてきた。
「やっ……あっ、あああぁっ!」
指なんかと、比べものにならない質量が僕の中に問答無用で押し入ってくる。
びりびりと入口が無理やり広げられ、避けてしまいそうなほど痛い。
中に入ってきた黒崎は。熱くて、僕は火傷を追ってしまいそうなくらい熱くて……内蔵が壊れてしまいそうな圧迫感。
「や、あぁぁっ……痛い、痛いっ!」
「……石田、ごめん」
「痛いっ、無理っ! 抜いてっ!」
「ごめん、石田。もう先っぽ入ったから」
知らないよっ! 謝るくらいなら抜いてくれ! お願いだから、本当に抜いてくれ。
そうしなければ、痛くて、苦しくて、僕はどうにかなってしまいそうだ。
逃げたいのに、この体勢じゃ身動きも取れない。
「石田、好きだ」
ゆっくりと、僕の身体の中に埋め込まれていく、黒崎の……くるしい……。
「う……ぁ…」
「悪い……」
黒崎の声を、聞いた気がする……謝られたって。
黒崎のを、僕の中に感じる。熱い……人間なんて体温上げたってたかだか四十度程度のはずなのに、火傷しちゃいそうなくらい、中にある黒崎が熱い。
「悪い、動くから……」
「……あ」
突然、引き抜かれた、と、思ったら、突然強く突き刺さってきた。
「やぁっ! あ、あぁっ、んんんっ」
熱い……のか、痛いのか、何なのか僕にはもう何が何だかわからない。
助けて、って言いたいのに、言葉にならない。
苦しくて、内蔵が潰れてしまいそうなほどに苦しいのに、熱くて、凶暴な熱が身体の中で暴れている。
苦しくて、痛いのに、それでも……熱くて。
「あ、あ、あぁあっ!」
僕は必死で黒崎にしがみついた。
獣じみた声を上げているのが僕だなんて、僕は信じられない。
「石田……好き」
それでも、壊れてしまいそうになりながら、どこかで黒崎の声が聞こえる。
黒崎のが、僕の中にある。僕の中で暴れている。痛くて、熱くて、自分の身体なのに、どうしようもなくて、身体がバラバラになってしまいそうなのに。
「すげえ好き。石田、好きだ」
ずっと、黒崎が僕の耳に、黒崎が僕を好きだって言ってくれていた。
僕は暗示にでもかかってしまったのだろうか。
その声が、とても安心できるような気がして……その声は、とても信頼できるような気がして、僕は黒崎の首に腕を回し、黒崎の身体にしがみ付いた。
「石田……好き」
動かれる毎に僕の身体が熱くなってきて、熱は頭の中まで犯していく。じわじわと熱で僕の思考が崩れていく……頭の中が、真っ白に……
「石田……」
黒崎が、僕の頬に触れた……黒崎が僕の顔をのぞき込んでいる。
なんだか、ひどく泣きそうな顔をしている……けど。
「大丈夫か?」
………大丈夫……じゃ、ない!
身体が……主に腰が痛くて、動けない。お尻の穴も痛い。こんなことをして痔になったらどうする気だろう……。
まだ、黒崎が中に入ってる気がする……って……いや……もしかして、まだ入ってる、よな?
「ごめん、優しくするつもりだったんだけど、抑えが効かなくて」
優しくって……いや、そのまえに何でこんな事になったんだろう。本当に……辛かった。まだ痛いし、動けない。
僕が黒崎の告白に対してそのままにしておいてしまったのが敗因だろうけど……。
「んっ……」
中に入ってる黒崎のが、震えた……よな、やっぱりまだ黒崎の、僕の中に入ってるよな? おなかの中が熱い。繋がっている部分からどろりとした液体が漏れて、僕の足を伝ったのが、気持ち悪い……って、まさか、これ黒崎のか? 黒崎は、僕の中に出したのか?
つまり……僕達は、セックスをしてしまったのか? いわゆる既成事実ができてしまったのか?
「………」
どうしよう……恥ずかしくて、黒崎の顔が見れない。
「でも、少しは気持ちよかった?」
「は?」
気持ちいいのかどうかも判断ができなかった。痛かった? って訊かれたら痛かったけど。
「石田も、俺がイったら、たくさん出してただろ?」
「………!」
信じがたい事実が発覚した……僕のお腹に……出てるのは……黒崎は僕の中に出したようだ……ってことは、つまり、これは、僕のか?
何で……? 気持ち良かったって、事だろうか?
頭が真っ白になって、覚えてないけど……僕のお腹を津あって流れ落ちる白濁した精液は、僕ので間違いないだろう……。
「石田……」
「………」
「石田。好きだ」
これは、ありがとうって意味だろうか?
黒崎が微笑みながら、僕の口に柔らかく唇を押しつけた……やわらかくて、キスは気持ちいい。僕は、きっとキスは好きだと思う。
「好き、石田。お前が、すげえ好き」
きっとありがとうって意味じゃないんだろうなって、理解した。だから……ちゃんと言わないといけないんだと思う。
でも、柔らかい声音で何度も僕にその言葉を伝える。好きだって。そう、何度も僕に直接注ぎ込むようにして、黒崎は言う。たった二文字の言葉なのに……その言葉を聞いているうちに、何故か胸が内側から暖かくなってくるような、くすぐったいような気分になってくる。身体はひどく疲労していて、腰も痛いし、もう指一本すら動かしたくないくらい重いのに……こんなに疲れていても、すごく幸せな気分だ。不思議。
黒崎と一緒に居るのが楽しくて、黒崎が笑ってくれるのが嬉しくて、一緒に居たいって思う。喧嘩したりすると仲直り出来るまで不安で、隣にいると安心して、優しく笑ってくれたりすると、たまにドキドキする。
今まで僕には友達らしい友達なんか居なかったから、きっと、こういうのを親友って言うんだろうって、僕は思っている。
ちゃんと……言わないと。
「黒崎……僕も、君が好き」
言ってしまい、驚いた。
言ってしまった言葉は、僕が言おうとして用意していた言葉じゃなかったはずなのに、それで間違えていないような気がしたんだ。
頭が真っ白になって、熱の中で黒崎だけを感じている間、何度も僕に、僕の事を好きだと黒崎が言ってくれて、やはり僕は暗示にかかってしまったんだろう。
僕も、君が好きだ。
素直に、なんかそう思えた。
黒崎がぎゅって僕を抱きしめてくれた体温が、とても暖かくて、嬉しい。
「じゃあ、もう一回……いい?」
「は?」
じゃあ、って何だよ……。
「まだ、治まらねえ」
「何が?」
僕の中で黒崎のがまた熱を持って、堅くなったのを感じた……って、もう一回、今のする気か?! 壊れるよ、今度こそ壊されてしまう! もう一回だなんて、いいわけないだろっ!?
「石田……大好き」
でも、黒崎のその言葉は、何故かとても僕を幸せにする。
「うん……僕も……」
僕は、やっぱり間違えてしまったんだろうか……。
了
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