【School Life】 04










 部活が終わって、今日出されて明日提出の課題が机の中だったことを思い出して、放課後教室に取りに戻った時に……怒鳴り声。


 声の主は片方はすぐに分かった。片方は、黒崎だった。
 扉を開けようとしたら黒崎の怒鳴り声が聞こえてきて、ふざけんじゃねえとか、いつもの迫力のある声が廊下まで響いた。びっくりして開けるのをやめた。

 にしても、やっぱり黒崎の怒鳴り声って、迫力ある……から、ちょっと入りにくいんだけど。怖いわけじゃないけど、やっぱりこの状態の中に入って行けるほど空気が読めないわけじゃないし。いや空気ぐらい壊したって構わないけど、巻き添えを食うのだけは嫌だから。


 そして、黒崎に喧嘩ふっかける奴は誰だろうと、純粋に好奇心が湧いた。
 顔が怖い黒崎は、少し話してみればすぐに解るけど、別に不良とかとは縁遠い奴だった。織姫の情報によれば、妹が二人もいてなかなか面倒見がいいお兄ちゃんらしいけど、それでも、中学の頃は喧嘩で名を轟かせていたのでも有名だった。まだ威光は残ってるみたいで、この地域ではそれなりに有名。私の近所の幼馴染が、この辺で有名な不良やってるなんて言いたくないけど。そいつからの情報だから、その辺はそれなりに信憑性はある。


 だから、うちの学校で、黒崎に喧嘩ふっかける奴なんか、五月で撲滅されたと思っていたから……すごく、好奇心。純粋に、誰か気になった。



 好奇心で、少しだけ開けた扉の隙間からのぞいたら……


 石田! だった。ちょっと、まさか、だった。



 ……いや、確かにこの前見た限りじゃ、石田は見た目に反して喧嘩強いみたいだから、特に止めなくてもいいと判断したけど……。止めなくてもいいかもしれないけど……。


 入りにくい。

 この前黒崎と石田が買い物してる様子も見ちゃったから、普通に友達の喧嘩なのかもしれないけど、それにしてもあの黒崎とあの石田が喧嘩してる教室にだれが入りたいって思うわけ? どうでもいいから外でやってよ。私は荷物が欲しいだけなんだから。




「てめえ、何で人の言うこと聞かねえんだっ!」
「君もね」
「俺の話も聞けよ」
「君は少しは考えてから行動しろ」
「だから! 俺の事信じろって!」
「信用に足る根拠がない」
「だからって、てめえが虚の前に飛び出す事ねえだろっ!」
「君が僕を信頼してないと、そう思っていい発言か?」


 私は立ち往生していることなんて二人は当然気づきもしないで、二人で盛り上がっちゃってるけど……

 ……何の、話?
 ホロウって何?

 別に石田と黒崎が仲悪くて喧嘩してなぐり合ってても私は何も困らないけど、ちょっと机の中にある課題だけが欲しいだけでどうでもいいけど……ちょっと、この二人がどんなことで喧嘩するのかは、純粋に興味があった。けど……意味が解らない。

 珍しく石田がイライラと声を荒げていた。珍しい事もあるものね。黒崎よりも声は小さかったけど、石田がこんなな風に感情を剥き出しにした声を出すの、初めて聞いた。




「だからっ! お前が傷つくの嫌なんだって!」


 ……喧嘩、に、しては、変な流れ。
 黒崎と石田なら相性が合わないのは見た目だけでも納得できるけど……最近、ちょっと仲がいいみたいだけど。ご飯まで食べてたりするようだけど……。


 信頼とか、そんなに仲良かった?

 教室じゃ、休み時間は石田は本を読んでるか窓の外を見てるかで、黒崎は誰かと話してるかで、意外と接点はなさそうだったけど……信頼とかできるぐらいに仲良かったりするわけ?




「それは、僕も君に言っていいか?」
「………」

「僕だって、君が怪我してボロボロになる姿なんか見たくないんだ! 君はどうせ、自分が傷つくのはかまわないとか思ってるんだろう? それで僕がどう思うのか考えた事あった?」
「だからって……」

「僕には僕のやり方があるんだ! ちゃんと虚だって倒せたし、僕も怪我をしなかった」
「それにしたって、あんな危ない事すんじゃねえよ」

「僕の事信頼できないなら……僕達、別れた方がいいのかな?」


 ………は?



 別れ……?


 って、何? あんた達、何なのっ!?

 まさか、付き合ってるとか、ないわよね?

 え、だって……






 開いた口が塞がらない、と言うか……。


 石田も黒崎も、性別男でしょ? 性別よりも、だって、あまりにも種類が違うし。



「石田……」




 黒崎が、石田を引き寄せて……抱き締めた……………初めて見た……生ホモ。



「石田……悪かった」
「解ってくれたなら、いいよ」

「でも、危ない真似は二度と辞めてくれ」
「僕の台詞だ」
「お前が、居なくなったらって、思うだけで怖いんだ」

「黒崎……それは僕もだよ」


「石田……」




 二人は、顔を近づけて………。







 さすがに、見てらんなくて、教室を後にした。

 馬に蹴られたくなかったし。





 次の日、私は生まれて初めて教室に取りに戻れなかったせいで、宿題を提出できなかった。

 勿論私はそんな事をわざわざ吹聴するような人間じゃないから、誰にも言わなかったけど。そもそも、そんなことを誰に話せばいいのかわからないけど!


 けど、まあ……。


 石田がねえ。













20110831