それから担任が時間無いからか面倒だったからかわからないけれど、成績で選んで決めたようで、押し付けられて、クラス委員を任されるようになった。石田と私。
だから、石田とは、時々会話をするようになったけど……。
そもそも声を聴くことが都市伝説になるくらい誰とも喋ることがないような奴だったから、最初の頃、石田は、本当に必要最低限の事しか話さなかった。口数もほとんどないし。私だって石田と仲良くなるつもりなんてなかったから、出来る限り話したくなかったから、それでいいと思ってた。
こっちから話しかければ、会話が続く続かないは別として、まともな返事は帰ってくるようになってきた。
仲良く談笑できるような関係じゃないけど、クラスメイトの中では私は打ち解けている方だと思う。いや、私ですら、って言った方がいいのかも。
少しずつ、石田の雰囲気が変わってきたのは、夏休み前から。
棘が取れた……ような感じがした。
角は残ってるけど。
相変わらず、嫌味で構成されているような奴だけど。
それに、クラスを代表する不良の黒崎なんかと怒鳴り合う姿も目撃してしまった……一緒に屋上でお昼ご飯食べてる時に、本格的に怒鳴りあってったのを、何故かその時は天気が良かったから、織姫やたつき達と一緒に屋上でご飯なんて食べてしまったから、目撃したんだけど。
「なにあれ?」
「何って、何が?」
「石田と黒崎よ。あいつら仲良かったの?」
「鈴ちゃん知らないの? 石田君と黒崎君はマブダチなんだよ」
知るわけないじゃない! あいつらが喋ってる所も初めて見たんだから!
それからも、何だか時々一緒にいる姿を見かける。
学校で、二人で何か話しこんでる姿も見かけたし、二人で笑ってるのも見てしまった……石田に笑うという機能が備わっていたことを私はその時初めて知って、少なからずカルチャーショックを受けた。しかも、相手が黒崎。
基本的に石田は休み時間は本を読んでるから、時々、それほど頻繁にじゃないけど、時々、石田は黒崎と喋ってたりする。クラスも、薄々気づいているようだけど、誰もその事態にツッコミを入れることができなかった。
だって、石田にも黒崎にもそんな気軽なことできる奴なんてこのクラスに居ないから!
とりあえず、あいつらが意外にも仲が良い事が解ったけど。
何より驚いたのが、試験前の土曜日。
親が寝込んで仕方なく私がスーパーに買い物に行った時に、偶然石田を見かけた。
なにやら真剣な目付きでカボチャを睨み付けてたけど……石田と料理の組み合わせがなかなか困難だった。料理なんてするの? あいつも親に買い物頼まれたクチ?
見た目お坊ちゃんだから、包丁すら握った事なさそうなのに。
私も野菜買いに来たから、別に無視するほどの仲でもないから、話し掛けようとしたら……
黒崎が、いた。
黒崎は石田よりもはるかに近所のスーパーの野菜売り場が似合わない男だった。
何、一緒にスーパーに買い物に来てるの?
それとも黒崎も買い物に来て偶然ここで会っただけ?
どっちにしても、知らない仲じゃないし、無視したのに気付かれるくらいなら、適当に挨拶くらいして、即座にこの場から離脱しようかと思ったけど。
「今日カボチャの煮つけ?」
「いや、暑いから、ポタージュにして冷やそうかと思って」
「お、美味そうじゃん」
「煮付けの方が良かった?」
「お前の作るの、何でも美味いからどっちでもいいや」
「あと、パスタで良いかな?」
「明太子がいい」
「わかった」
……って、一体、どんな会話の流れ?
内容を考えると、黒崎が石田の作った料理……冷製カボチャスープと明太子パスタを、食べるって方向しか考えられないんだけど、それで合ってるの? 合ってていいの? 普通に考えてそれが正解だったら、何か問題あると思うんだけど。でも、どんなに拡大解釈しても、それ以外にほかの状況が思いつかないから、やっぱりあの石田があの黒崎に手料理を食べさせるってこと……って、いったい何!?
よく、わからない。
よくわからないけど、知らないうちに、何だか石田と黒崎、かなりの友情を深めていたということぐらいは分かった。クラスで見る限り、仲良さそうだと思っても、手料理をご馳走するような仲までとは気付かなかったけど。
そんな事を思いながら数日。夏休に入る直前の試験前……
私は、見てはいけないものを見てしまった。
だったらいっその事、幽霊とか見えてはいけないものを見た方がマシだって思えたかもしれない。
見たくなかった。
神様が居るなら、見た記憶を消して欲しいと本気で思ったものを、見てしまった。
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20110817
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