一護の手が伸びてきた。僕は、きっとその手に触れてもらいたかったんだと思う。一護は僕に優しくなんてしない、それでもその手に僕は優しく触れてもらいたかった。
不意に髪を捕まれて、顔を上げた。
やっとの思いで飲み下したのに、彼は、笑ってくれなかった。そんなことを望んでいたはずなんて無いのに、僕はそれが不思議だった。そして、何故か悲しくなった。
頑張ったのに、僕は褒めてもらえなかった。それだけだ。当たり前じゃないか? 別に僕は一護に褒めてもらいたいわけじゃない。でも……
一護は険しい顔で、僕を睨み付けた。
その、眼差しは、真っ直ぐに射抜くように、僕を見つめていた。
髪を掴んで引っ張られた頭が、痛い。
「お前、さっき何話してたの?」
さっき……黒崎と話していた事だろうか。
それ以外、今日は誰とも会話らしい会話をしていないから、きっとその時のことだと思うけれど……。
「……さあ」
何を話していたんだろう? 聞いて、居なかった。
黒崎が、何かを話していた。
その顔を見て、その声を聞いて……僕は、一護を思い出していた。
「雨竜、お前は俺のだろ?」
そんな、約束していない。
僕は誰の物でもない。ましてや、僕の物ですらない。
ただ滅却師であれば良かった。個はなくて良かった。僕は僕である必要はなかった、僕は滅却師で在りさえすればそれで良かった。
滅却師ですら無くなった、僕は……
もう、要らない。
こんな僕は、もう要らない。
「…………」
それでも彼は、僕を所有してくれるの?
何でもない僕を?
「……一、護」
それなら、
僕は君のモノでいい。
そっと、彼に手を伸ばすと、身体を引き寄せられた。乱暴な手付きで、ズボンを下着ごと下ろされる。バランスを崩して、僕は慌てて一護にしがみついた。
ズボンを、脱がされる。
僕は、反応していた。
ただ、舐めていただけなのに。彼のを口に入れて、口の中で愛撫していた。そのくらいしか、まだ接触していない。
口一杯に頬張って、唾液を溢れさせて……それで、僕は反応していた事に、自分では気付いていた。
彼は、僕の何処にも触れていないのに……。
それを見られた。
僕を、見られた。
「…………」
「……へえ」
目の前の張り詰めた僕を、彼は値踏みするような目付きで見て、指で弾いた。
その、刺激で、全身が戦慄いた。
「……あ…」
脳まで、突き上げるような痛みにも似た快感に、流されそうになる。
「待って」
鞄の中に、ハンドクリームがあった。いつも、入れている。まさか、こんな事に使うなんて思わなかったけど……無理矢理捩じ込まれるのは、嫌だった。痛みばかりが強くて、痛みだけでもいいけれど、僕はそれ以上に一護を感じたいから……せめて、と思って……。
「用意いいな」
「痛いのは嫌だからね」
「でも雨竜はそっちのが良いんだろ?」
彼は渡したチューブから、白いハンドクリームを指に出した。僕は、それをじっと見つめる。
………白い。
さっき、僕が飲み込んだ一護の精液も同じような色をしていたのだろうか……。
一護の腕が、僕の腰を抱き寄せた。
一護の座る一段下に膝立ちになる。
指先が、入り口に触れた時には身震いがした。
指が、僕の中に沈む。
「あ……」
一護の指先が、僕の中に……入ってくる………。
僕の中で動く……のを感じる間も無く、すぐに、指を抜かれた。
ハンドクリームを握っているから、足すのだろうかと、思った。
「面倒臭えな……」
彼は、チューブを持ち、そのまま僕の入り口に押し当てる。
先が中に入り込んでくるのが解った。冷たい、固い感触がしたから。
「っ……あ」
中に、溢れてくる、冷たい………。
「や……やだっ!」
思わず、身を捩るとむき出しになっている尻を叩かれた。手の平で叩いた鋭い音は階段響いた。
「痛っ……!」
鋭い、音を立てた後に、じんとした熱が広がった。ヒリヒリと痛む、そこに、もう一発、叩かれる。
痛みなんて大した苦痛じゃないと思ったのは、間違いだった。それに一護は気付かせてくれた。
怖いと……
もう一発、叩かれて、涙が滲んだ。痛みと同時に熱くなる。痛みよりも屈辱的な行為だと思った。
「痛い……! 痛いよ」
すがり付くのは、一護に。
僕に苦痛を与えるのも、僕を叩き落とすのも、救ってくれるのも、全部一護だ。
「やめて……痛いんだ」
もう、叩かれたくなくて、甘えるように一護の頭を抱える。
しがみついて、懇願する。
僕を助けて。
僕を痛くしないで。
ねえ……君の言う事を聞くから。
「素直にしてりゃいいんだよ」
そう、言いながら、彼は再び中に指を差し入れた。
「ぁ、ん……っ」
体温でハンドクリームが溶け出したのか、一護の長い指はすんなりと僕の奥まで入ってきて、僕を掻き回す。僕の中をかき混ぜる。ただの臓器だ。内臓の一部だ。ただ、それだけだ。僕の中を触られている。
思考までぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。意識が混濁する。
僕は必死で流されないように、一護にしがみついた。
濡れた、音がする。
音が耳を犯す。
彼の節張った長い指。
僕の中で動く。
中で動く。
バラバラに動く。
中を弄られる。
身体の中を触られている。
僕の中を触られている。
汚いのに。
僕の中は汚れてるのに。
こんなにも汚れてるのに。
僕の中に侵入する。
無遠慮に僕の中に入り込む。
それが……。
「……ふ、ぁ…っん」
ようやく、指が抜かれた時に、僕はその指を追いかけたかった。
心地好いと思える渦に包まれているような気がした。
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20110703
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