階段に座る一護に、誘導されるまま、その上に股がるように座り、腰を下ろして行く。
少しずつ……沈み込む
入って、来る。
中に。
僕の中に、一護が。
入って。
一護の指に解されて溶けた入り口は、初めての時のような痛みもなく、一護を受け入れた。
身体中が一護で無理に入り口が広げられる痛みはあったけれど、
僕が腰を下ろすと、僕の中に埋まっていく……。
「あ……あぁ……あ…」
一護が、僕の中に……入って、来る……。
内臓をを圧迫されるような苦痛は、相変わらずだけれど、それでも……
僕の中が、満たされる。
一護で溢れる。
全部、根元まで一護を埋め込んだ僕の身体は、指先までもの神経が溶けきって、くたりと彼の身体に体重を預けた。力が、入らない。
身体にある全部の神経が、侵された。侵食された。
「お前は俺の事考えてろ、雨竜」
耳元で……一護が、僕の耳に低い声を吹き入れた。
吐息のような刺激にすら、僕は反応し、身体が勝手に震えた。
彼の腕が、僕を包み込んだ。
僕の身体を一護は両腕で拘束した。抱き締めるような、優しい力ではなかった。
潰れてしまう。僕を潰すような力だった。背に回った一護の腕が痛い。潰されてしまいそうで、呼吸が苦しいくらいだ。
それでも………僕は、その束縛がひどく心地好く感じた。動けなくて苦しい。力の入らない僕は、今一護に身体の全てをゆだねてしまっている。
「雨竜、お前は他の奴に笑顔向けるな」
そんな身勝手な束縛を、僕は心地好いと感じた。身体以外にも一護は僕を縛ろうとしている。
それは、嬉しかった。一護が僕に何かを感じてくれていることが嬉しかった。
一護にとって僕はただ生きている別の固体だという認識以上の感情が向けられている事だから、嬉しい。
僕は一護に僕を見て欲しいんだ。
一護になら、僕を見られたい。
僕は、返事の代わりに、一護の身体を抱き締める。力が入らないけれど、それでも、抱き締める。
「あっ……」
一護が、僕の身体を揺さぶる。僕の身体を掴んで、僕を上下に揺さぶった。
熱い。熱い、波が押し、寄せる。意識が緩慢になる。考えがまとまらなくなる。
僕の身体を持ち上げて、落とすように、そうやって中が擦り上げられる。摩擦で熱いのか、一護が熱いのか、熱伝導で僕まで灼熱に染まる。
「あっ……はぁ、あッ」
僕の中にある一護が、より一層堅さを増した。
「くっ……ぁ、」
突き刺されるような刺激は、頭頂部まで達した。
痛みを伴うほどの快感から逃れるように、背を逸らすと、バランスを崩した僕の身体を一護が支えてくれた。
「お前は……雨竜だけは、俺を見てろ……俺しか見ないで」
一護の、声が、僕の身体を締め付ける。
僕の身体は激しく上下する。一護のと僕の内壁が擦りあって熱が生まれてる。熱いのに。
切なくて、寂しくて、そんな、彼に似合わない声が……。
圧迫される程の強大な力がその存在感になり、傲慢さが許容される一護に似合わない……。
でも一護は……そんな声を出して僕を掻き抱いた。
「あ……ー―ッ!」
身体の中で、破裂した。
熱が、僕の中で弾けた。
その衝撃に、僕も………。
……………身体中が痙攣を繰り返す。
僕の中の一護も、まだ、同じように動いている。どくどくと、一護のが僕の中に流れ込んできている。
頬を、彼の顔に押し当てる。暑くて、汗ばむ皮膚と、荒い呼吸を感じた。皮膚から、一護の早い荒い鼓動が聞こえた。
ずっとその鼓動を聞いていたかったけれど、それ以上に顔を……見たくなった。
今、一護がどんな顔をしているのか知りたくなった。
少しだけ、身体を起こした。
僕が退こうするとでも勘違いしたのだろうか、彼の腕は僕の背を引きとめたけれど。
もう少し、僕はまだ一護と繋がっていたい。もう少しだけ中に在る一護を感じていたい。
「……一護……」
至近距離で見る一護の瞳は、相変わらず人間の色をしていなかった。白いはずの部分が、闇の色をしていて……人間ではない。
死神でもない。
虚………。
一護は虚なんだ。霊圧が虚と同じ冷たさをしている。
僕と、違うモノなのに………僕の心と、とても同じ温度で……。
一護の、心に、触れたいと、思った。
僕が彼に肯定されたい気持ちと同じように、僕も彼を許したい。
僕の中に入って来たように、僕も、彼の中に在りたい。
温度差が無いなら、僕達は混ざり合えるはずなんだ。
見えなくなるくらい、近い、距離で見つめ……いつの間にか、唇を合わせる。重ねる。
瞳を逸らさず、重ねる。全部、全身で、僕達は混じり合う。
互いの呼吸が混ざる。彼の呼気が僕の吸気として身体に入る。君の一部が僕を侵食する感覚に、背筋に熱いものが駆け上がる。その熱に少しでも耐えるために、僕は一護にしがみつく腕に力を込めた。
首筋に額が押し付けられた。
一護も、僕を強く抱き返して、きた……それが、僕には苦しく……て
「………ねえ……」
「あ?」
「君は、いつから居たの?」
ふとした、疑問。
今なら、訊ける気がしたんだ。今なら答えてくれるような気がした。
いつから、黒崎の中に虚がいた?
僕も気付かず、彼は、一護は、どこにいた?
「ずっといたぜ?」
「………」
「誰もアイツも、俺を知らない。でも、俺も黒崎一護だ」
掠れるくらい、小さな、声だった。それでもちゃんと、僕の耳には届いた。
呼吸困難に、なりそうなくらいの力で僕は抱き締められて、窒息しそうだ。潰れてしまうよ。
君は、虚なのに……。
僕は、死神と虚は敵なんだ。
心が、痛い。
ずっとって、いつから?
君は誰にもその存在を認められず、黒崎の中に居たの?
誰にも気付かれず……黒崎自身にも気付かれず、認められず、ずっと君は居たの? 居るのに……ちゃんと一護は存在しているのに、こうやって僕を抱き締めているのに……。
可哀相だなんて感じてあげるほどに高邁な心が在るほどに、僕は優しい偽善者じゃない。ただ、一護の孤独は僕には嬉しかった。
……似てるね。
そう、思うのは傲慢で厚顔な気がしたけど、それでも僕はそう感じた。一護の寂しさや苦しさを僕が理解できるはずもない。理解しようとも思わないけれど、一護も僕を理解なんて出来ない。
ただ、似てる……そう思った。それが単純に嬉しかった。
僕は、僕を押し込めてきた。プライドで塗り固めて、本当の僕は本当に小さな、矮小で惰弱な存在。それを恥じて、滅却師である僕に上塗りを重ねて、誰にも本当の僕を知らない。僕は、それが良かった。
もう、僕は滅却師ですらない。
僕は何もない。
初めて僕は、一護に唾棄すべき僕を見せた。その僕を一護は僕を抱き締めてくれている。
一護は、誰も知らない場所に、黒崎の影で、誰にも認められず、ずっと在った。
彼も、黒崎に対してコンプレックスを感じていた。
強い光に陰る自分を、知りたくない。
黒崎なんか、居なければ……居なかったら。せめて、黒崎が死神でなかったら……僕はこんなに、自分を嫌わずに済んだ。その筈だ。
責任転嫁は自覚している。
それでも……その存在を意識せずにはいられない程の、強い、光に似た存在感。その圧倒的な強度のある霊圧が僕を苛む。
だから僕は黒崎が嫌いなんだ。
一護も、黒崎を嫌いで、誰にも認められず、ずっと………
そうすると、同じ温度。僕と一護とは、同じ温度。
同情より、哀れみよりも、僕は君との共通項を見つけてしまい、それを嬉しく思った。
一護と僕が似てるわけなんかない。だって一護は虚だ。僕は滅却師だったものだ。似てるはずなんてない。
それでも、僕は勝手に君と僕とを同じ温度にしたかった……。
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20110706
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