見て、いられなかった。
これ以上自分を見たくなかったし、感じたくもなかった。
他人に触れられて、興奮して勃起しているだなんて、自分にすら、知られたくないんだ。
そんな、自分、は違う。そんな僕は、僕じゃない。そんな僕なんか、知らない、知りたくない。
だから、目を閉じた。目を閉じて……少しでもこの状態の情報を頭の中に残しておきたくなくて、視界を閉ざした。耳も塞ぎたかった。息もしたくなかった。
「ちゃんと、見てろよ」
「ひっ…」
突然、強く握られた。全身が、引きつるような刺激が走る。
「ちゃんと見てろよ。自分のだろ?」
「………」
ゆっくりと、目蓋を持ち上げる。
目の前で、黒崎の姿をした黒崎のはずの虚に酷似した存在が、僕を笑っていた。
「ちゃんと見ろって」
ゆっくりと、僕は下部に視線を下ろす。僕は、痛いくらいに勃ち経ち上がり、先端から透明な液体を垂らしていた。それに彼の指が、絡み付いていた。
だって、その指は、黒崎の指なんだ。その指が……僕に触れて……
「……あ」
ぞくりと、背中に熱いものが駆け上る。
「見てろよ。俺はお前の顔、見てるから」
「………」
「お前のイイ顔、見せろよ」
嫌だと、思った。
自分のプライドを固持する為ならば、命すら投げ出しても良いと、僕は常にそう思っていたんじゃないか? 自分の滅却師としてのプライドが、自己を存立させる唯一の要素だった。僕は僕である以前に、滅却師として生きてきた。
自分なんか、見せたくない。
……僕が、瓦解する。
彼の手が、乱暴な手つきで僕から服を取り去っていく。足が、剥き出しになるのを僕は目を閉じる事も出来ず見ていた。
教室で……毎日、皆が授業を受けているこんな場所で……毎日、僕が退屈な授業を受けている場所なのに。
僕は、服を脱がされて、肌を晒している。こんなことをされている。
抵抗などしなかったから、簡単に脱がされて、スラックスが僕の脇で皺を作っていた。片方だけ脱げた上履きが、足元に転がる。
彼に見ていろと、言われたから……僕は見て、いた。抵抗なんか出来なくて、僕は従うことしかしたくなかった。そうすれば早く解放されると、どこかで勝手に信じたからだ。きっと、それ以上じゃない。
教室は、電気もついていなくて、外はもう薄暗くなってきているけど、それでも、視界を奪うほどの闇ではないから……。
彼の視線が僕に注がれているのが解ってしまった。
じっと彼は僕を見ていた。
「ちゃんと見てろって言っただろ?」
「うっ、く……」
握られて、爪を立てられて、痛みに身体が震えた。敏感な部分なんだ。大して力を入れたわけではないだろうけれど、それでもあまりの痛みに、背を仰け反らせた。
そして、その刺激にすら身体が、痛み以外の感覚に震えた。
……僕が、暴かれてしまう。
僕は滅却師と言うプライドでコーティングしてあるだけの、矮小で卑下た存在だと、暴露させられてしまう。
「……あ…っ」
彼の手が動くと、知らずに声が出る。一人でする場合、声なんか出ないのに。自分でする場合は、ただの処理なんだから、なるべく早く終わらせた方がいい。声なんか出ない。
こんなに、違うから……自分の手と他人の手では、こんなに違う。つま先から、頭の先までが、熱くなる。耐え切れない。
彼が、僕の視線を監視するから、僕は彼の手から、視線を外す事ができない。
見ていろと、言われた。
だから、僕は、彼の手が僕を包むように握り、上下に動くのを、見ていた。他人に……黒崎の、指が、僕のを……
羞恥に、身体中、熱くなった。
「ふ……あぁ……んっ」
抑えたくても漏れる声を止める方法も、わからない。
彼の手が動く度に先端から溢れる透明な汚物を、止める方法も知らない。
身体中で、感じている。
熱くなる。
彼の指が、僕の感覚を支配する。
「あっ…あ…あっ」
先端の割れ目に、爪を立てられた。
ぐりぐりと、広げるように爪先が入って………。
「……や…離して。イっちゃう……離して」
痛いのに。
それなのに、僕は……。
「いいぜ。イけよ」
強く握られて………手の動きが速められて、僕はどんどん押し上げられる。
爪先に力が入るのを感じた。
堪えたくて、それでも、上昇していく熱の抑え方なんて知らなくて。
全ての感覚が収束されて、世界がここだけになってしまったような。
視覚が、原色のみの色を拾う。
「…………ぁ…」
僕は、達した。
離して欲しいって言ったのに。
僕は、彼の手に吐き出した。
黒崎の、手の、中に、出した。
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20091025
再:20110117
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