「……ん」
彼の舌が、唇を割って口の中に侵入してくる。生温いモノは、僕の歯列を割り、僕の舌を絡め取った。口の中で彼の舌は、まるで生き物のようにぬるぬると動いていた。
舌を舐められ、皮膚が粟立つ。僕の口の中を別の生き物が蹂躙しているような嫌悪感に、身体中が萎縮し、皮膚が粟立つ。
緩いさざ波が全身に流れていくような、そんな気がした。口の中にある舌が歯列をなぞり、舌を絡める。その度に、全身から力が抜けて行く。波に浚われ、意識が低迷し、どこかへと浚われてしまうような気がした。それでも、彼と接触しているその部分の感触だけは強く感じている。身体中の全ての感覚がそこに集まって締まったような気が……
口を塞がれて、呼吸が苦しくて……空気が欲しくて、僕は彼の口から逃れようと首を振った。
「んっ……んぅっ!」
彼は、僕の頭を抑え込んで、彼の舌に絡めとられていた僕の舌先に噛み付いた。
「んーっ! んっ!」
痛い!
噛み付かれた舌が、痛くて、痺れた。ジンジンと痛みは増すのに、それでも離してくれない。
彼の口の中にある、噛み付かれた僕の舌先を、舐められているのがわかる。ぞくぞくと、皮膚が粟立ってくる。突き放す事もできず、僕は彼のシャツを握り締めた。
僕が、嫌がったから?
痛い。
もし、僕が今痛いから、抵抗したら、もっと痛くされる? 何をされる? 何をされるのか、解らない。
怖くなった。
嫌だって、抵抗したら、僕はもっと酷い事をされるかもしれない。もっと痛く噛まれるかもしれない。
「んっ……ふ、ぅっ」
動く事も喋る事も出来ず、息も苦しくて………涙が溢れた。
舌はヒリヒリとして、閉じることの出来ない唇からは、溢れた唾液が喉まで伝っていたけれど……それより
痛いんだ。
「ははっ。お前、可愛い奴だな」
ようやく、飽きたのか彼は僕の舌を放した時には、少し鉄の味がした。
「なあ、仲良くしようぜ。雨竜」
仲良く……彼の言う、仲良くとは、僕が抵抗しない事なのだろうか。僕が彼の思う通りに従うという事か? 抵抗せずに、痛みも全て与えられるものを受け入れれば、それが仲良くする事になるのだろうか?
そうすれば、すぐに解放されるのだろうか。
きっと、そうなのだろう。そうしなければ、もっと苦しい事をされるかもしれない。
僕は、従う事に躊躇いを感じなかった。
僕のシャツを引き出して、彼の手が僕の素肌に触れた。
「……あ」
彼のざらついた手のひらが、僕の脇腹を無遠慮に撫でる。
「……っ」
ぞくりと、した。
くすぐられている、わけではないようだ。そういう感覚は湧かなかった。何か、それでも触られているのは皮膚なのに、その内側の方が、熱くなるような不思議な触り方をしてきた。
手はじわじわと登り、僕の胸を撫で上げた。
「あっ……んっ……あぁ」
指先で潰すように、転がすように、捏ねられて……むず痒いような感覚が広がった。そこから、身体中に広がって、ぐるぐるする。酸素を求めて呼吸が荒くなった。そんな場所……皮膚が薄い場所だから……だからだ、きっと。他の場所を触られるよりももっと、熱くて、身体の芯の方まで熱が伝導する。
さっきみたいな圧迫されるような強い霊圧じゃなかったけれど、それでも彼の手から溢れた霊圧は肌を刺してピリピリとした。
「ひっ……ぃ…あっ」
急に、強く摘ままれて、息がひきつった。ジンジンとした痛みが走る。
「お前、うるさい。んな声上げてたら誰か来んじゃねえ? それとも見られたくてわざと声出してんの?」
……誰か………。
その、言葉に僕は少し現実を見る。ここは、学校の教室で……誰が入ってきてもおかしいわけじゃない。残っている生徒は少ないからと言っても、全員が帰ったわけじゃない。教師だってまだ残っている。
ここは、教室なんだ……教室で、こんな……僕は、
こんなところを、誰かに見られたら………。
怖くなった。こんな姿を……。
「……嫌、だ」
「だったら、声あげんじゃねえ」
「ッ……!」
また、強くつねられて、僕は唇を噛み締めた。それでも、今度は声を上げなかった。
胸を弄られて、そこは離されてもジンジンとした痺れが残り……痛いのに。痛いのに………ただ、痛いだけなのに。
「へえ。勃ってんぜ」
羞恥に、身体の芯が熱くなった。
感じている自覚はあったんだ。そうやって触られて、僕は興奮していた事に、気付いていた。見れば分かるはずだ。布を押し上げて、僕が勃起している事を。僕は痛いくらいに勃ち上がっていた。少し擦るだけの刺激で達してしまうだろうというほどに。
何に、興奮しているんだ、僕は?
僕は、この状況の何に反応しているんだ?
触られているとしても、こんな……怖い、はずだ。痛くて、怖い。逃げてしまいたい。
服従に?
虐げられた事に?
敗者で居ることの、心地良さを感じたから?
導いた答えはどれもとても肯定できるはずのものではないが、それでも完全に否定することも出来なかった。
そんな、被虐的な……自分を、認めたく、無かった。
痛いくらい、膨れ上がってる自分の自覚はあった。下着の中がもう、ぬるぬるとしている。僕はこの行為に興奮していた。
それでも認めるわけにはいかない。
これは、ただの反応だ。
ただの、生理的な反応だ。
だから……違う。
「すげ、でかくなってんぞ」
「……っ!」
彼が、指先で僕の形をなぞる。それに、反応して身体が跳ねた。何度も同じ場所を指先で、軽く触られると、もっと強い刺激が欲しくなって僕は知らないうちに腰を動かしていた。
「なあ、雨竜。見せてみろよ」
彼の声に思わず目を瞑る。何も見たくない。僕は僕を見たくない。
彼が、僕のベルトを外して、ファスナーを下ろす音が、やけに生々しく耳に届いた。
彼の指先が、僕のを摘まみ出す。直に、触られた。外気に触れたのを感じた。
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20091025
再:20110117
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