06





「ドラコ……仕事の時間だ」

 朝が苦痛だ。

 僕は仕方なく身体に絡み付いている彼の腕から抜け出す。

 一緒にいることのできない時間が僕には長すぎるんだ。もっと一緒にいたいんだ。体温を感じていたい。
 離れたくないよ。

「離れたくないよ」

 だって、そんなこと言われたって、仕方がないじゃないか。


 わかっているんだ、僕達は、どうしようもないことだって。
 だからこれはただの言葉遊び。
 わかっている。


 僕には僕の仕事があるし、それをしないとこの場所を隠しておくことができないんだ。
 この場所を僕は何に変えても守らなきゃならない。僕のために。僕達の幸せのために。だから僕は朝はここを出ていかなきゃ駄目なんだ。




 離れたくない。それでも何よりそれが本心なんだ。


「ハリー、一緒にいたい」

「そんなこと言わないで、ドラコ。帰ってからまた続きをしよう」
 微笑みで別れる朝は苦痛だ。

 だってどうしようもないじゃないか。

 だから、朝は嫌いなんだ。










 僕は毎日帰路を急ぐ。

 この外の世界は偽りで、彼がいるあの四角い狭い空間こそが僕のたった一つの本心だ。



 早く帰らなければ。


 早く会わなければ。


 早く抱き締めなければ。早く感じたい。



 僕が干からびてしまうよ。



 早く、早く早く早く早く!


 ああ、もどかしい。

 慣れた複雑な解呪の呪文を唱える。長いものだが、慣れた。毎日のことだから。



 早く会いたいんだ!





 呪文を唱え終わると浮かび上がる扉。

 あるはずのない扉。誰の目からも隠すために僕がかけた魔法。僕達だけの空間。

 世界の誰からも認められなくても、世界が僕達を排除しようとしても、僕にはこの空間だけあればいい。世界中でここだけは僕が許されるんだ……彼に。神に許されなくても彼が僕を許してくれればいい。地獄に行くなら行くよ。でも僕は今彼を放さない。何があっても。死んだって僕は彼を抱き締めている。






 だってこれが僕の………





 逸る気持ちを押さえる。





 扉を開ける。



 いつも通りの光景。



 いつもと同じ。

 空間を切り取った窓から夕陽が射し込み、その下にあるソファーの上で彼はぼんやりと座っているんだ。


 僕が扉を開くと、彼はこちらを向いて微笑む。



 その笑顔に僕は毎日泣きたくなるんだ……。


 ああ………








080624