きっとここを出て行く 05
「ああ、泣いているの、ドラコ」
「ハリー、どこにも行かないで。ずっと僕のそばにいて」
涙は、悲しみを増長させるから嫌いなんだ
「ずっとドラコのそばにいるよ」
「ここにいて」
離れるのが苦痛だ
「僕を捨てないで」
「泣かないで、ドラコ」
「ハリー……」
涙は嫌いなんだ
悲しくなってしまう
わかってる
そんなことお互い知っている
それでも止まらない
「ずっと、僕のそばにいて」
「僕だってずっとここにいてあげたいんだよ」
僕達は悲しみの中で抱き締め合う
苦しい
苦しくて
こうしていることだけが幸せ
彼と二人でいること以外なにも要らない
他の時間はなくていい
削除されてしまえばいい
その時間がすべてなくなって、僕達で過ごす時間があとわずかで
そのまま一人の時間になるのであれば
もう、それは要らない
このまま僕の時間がなくなってしまってかまわない
煩わしい
彼がいないと何もない
何もない時間も僕は息をしている
それすら煩わしい
要らないんだ、他には何にも
いつまでもこうしていたい
――いつまでこうしていられるのだろう
終わりが来ることはお互いわかっているはずだ
夢は覚める
これは夢なんだ
だってそうだろう
こんな幸せ
他には何もないけれど、唯一で絶対的な幸せだ
夢はいつか覚めてしまうものじゃないか
それが、今でないことを祈るだけで
お互いに、わかっている
知っているんだ、そんなこと
口には出さない
目が覚めてしまうから
彼が僕に飽きるのが先か、それとも僕がここを出ていくのが先かわからないけれど
少なくとも僕が先でなければいい
僕がいなくなったことで悲ませたくない
僕達は、どっちの方がおかしいんだろう
狂ってるだなんて
そんなこと、どうでもいい
僕達以外の他人に理解されたいだなんて思わない
できれば他人には知られたくない
僕達だけなんだ
僕達だけの秘密で其れが全部でいい
「ハリー」
「愛しているよ、ドラコ」
「大好き」
「大好きだよ」
「僕だけのハリーでいて」
この台詞は何回目なんだろう
何度繰り返しても僕達の中の不安は拭えない
「大丈夫だよ、ドラコ。心配しないで」
不安なんだ
僕の言葉は彼の耳に届いているのだろうか
僕から彼を捨てることはない
彼を悲しませることはしないよ
ちゃんと心に届いている?
淋しい
淋しいんだ
ずっと一緒にいてよ
僕は彼のものなんだ
だから、彼も僕だけのものでいてくれればいいのに
淋しいんだ
早く帰ってきて
早く帰ってきて愛の言葉を囁こうよ
早く僕に触れて
僕は、とっくにおかしいんだ
待つだけ
ただ彼の帰りを待っているだけ
どこにも行かないと言ってくれるんだ
ずっと僕のそばにいてくれると言ってくれるんだ
それなのに、毎朝彼はここを出ていってしまう
仕方がないことくらいはわかっている
僕はここに存在していることが唯一できることだけれど、彼には彼の生活がある
ここで以外の生活があるから
煩わしい
そう思うけど、仕方がない
わかっている
だって食べなきゃ死んでしまうんだ
人間とは不便だと思う
彼がいるだけでいいのに
一緒にいることができれば、本当にそれだけでいいと思うのに……
出ていってしまう
早く帰ってきてよ
ぼんやりと、部屋に一つしかない窓から雲の動きだけを眺め続ける
雲の動きだけしか変わらないものはここにはない
彼がいなければこの空間は凍りついて動き出さない
早く帰ってきてよ
淋しいんだ
ぼんやりとソファの上で彼を待つ
夕陽が僕の狭い四角い世界を赤く染めた
夕陽が沈む………そろそろ
ほら。
扉が開いた
「ただいま」
080621
きみがきみを見捨てても 僕がきみを 抱きしめる
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