きっとここを出て行く 04
恍惚に目を細める彼の顔が僕は好きだ
僕によってその表情が引き出せたのならば嬉しい
僕を感じてくれているのがわかって嬉しい
触れ合うのが好きだ
触れ合って彼の存在を感じるのが好きだ
嬉しくて
本当に僕はこうやって触れることのできる彼以外、
僕を必要としてくれている彼以外は要らないんだ
要らないし、もう何もない……
僕には何も残されていない
僕は全てを失った
僕が彼に与えられるのは僕自身だけしかない
あの戦いの後、僕は全てを失った
僕には何も残されていなかった
世界は魔力すら僕から取り上げた
世界から僕は見放された
何もなくなった
本当に僕には何もなくなった
その時は自嘲と絶望くらいはあったのだろうか
今はこうやって、抱き締めて、抱き締められて、そうやって行為を繰り返すだけ
不毛なことだって、そのくらい理解している
この行為を繰り返しても、何も変わらない
でも、現状が至上のものだとしたら?
暗くて甘い欲望だけが僕達をただ支配している
僕は全てをなくした
気が付いた時に、僕はここにいた
どこにも所属できない僕はここにいた
彼にここに閉じ込められたのだと知った時、僕は抵抗した
彼を受け入れなかった
最初は彼を拒絶した
その時の彼の切なそうな表情は覚えている
いや、彼の記憶は、一つも失ってない
ねえ、知らないだろう?
僕はずっと彼が好きだった
そんなこと知らないのだろうね
気付いていなかったと思う
気付かせようなどと思わなかった
そんな関係じゃなかった
僕達はそんな対象ではありえなかった
だからこそ
それを未だに伝える気はない
彼は僕を好きだと言った
ここに僕を閉じ込めて、僕が必要だと言った
泣きながら、僕を必要だと言ってくれた
僕には何もないのだから、彼が僕を愛してくれると言った
だからそんな押し付けがましい愛情を受け入れたふりをした
仕方なく受け入れてあげたふりをしたんだ
だってそうだろう?
僕を閉じ込めている罪悪感と、僕に言った約束とで、彼にとっての僕の割合がもっと増えるはずなんだ
ずっと、好きだったと
ずっと変わらずに僕を愛してくれると
僕はその約束を受け入れたんだ
だから、変わらずに僕を愛してくれなきゃいけないんだよ
ずっと昔から彼の気持ちを知っていたんだ
向けられる視線の意味に気付いていた
僕はずっとその視線に気付かないふりをして、同じ以上の質量を持つ悪意を込めてそれ返した
だっておかしいだろう?
相容れる仲じゃなかった
ずっと僕達は水と油だった、交じり合うことなどなかったはずだ
闇と英雄だ
敵なんだ
混ざらないものだ
それでもその視線に惹かれていた
その意味に気付いて、僕も惹かれていたんだ
それを伝えない
君が自分が出した条件を重荷に感じて、重くて僕から動けなくなればいい
だから僕はここにこうして閉じ込められた時に、本当はとても嬉しかったのだと
伝えない
何も残されていない僕は、決して手に入るはずのなかった彼を与えられたんだ
彼を拒絶したのは初めだけ
受け入れるのに時間はかからなかった
それを全てを失った僕の失望が招いたことだと思ってくれていればいい
僕が、壊れてしまったんだと
そう、思ってくれないか?
すぐに僕は彼の暗い欲望に溺れた
だって僕だって求めていたんだ
ずっと欲しかったんだ
僕は、彼を受け入れて、それから溺れた
そのふりをした
本当は、他になにも要らなかったんだ
僕だってずっと前から
080619
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