8


















 とりあえず、ソファに腰を下ろすと、ポッターが僕の横に座った。近い。
 広いソファなのに、なんでこんな密着して座らなければならないんだ。というか普通話す場合隣じゃなくて前のソファに座ったりするものだろう? まあ、とりあえず今の段階ではそれほど実害がないから、今はまだポッターが大人しくしているから僕もいちいち何かを言うのは辞めておこう。

 とりあえず、……それにしても何を話せばいいんだ? ご趣味は? でもないだろう?

「リズ、って言うんだね、名前」

 ポッターから話を始めてくれたから、助かった。本当に話そうとしてもポッターとだと共通の話題も見つからない。しかも今僕は僕じゃなくてリズを演じきらなくてはならないのだから、細心の注意が必要なんだ。
「ああ。リズ・ケリーという」
「リズ・ケリーだね。いい名前。僕は……」
「ホグワーツでお前の事知らない奴なんていないだろう?」

 実際魔法界でもこいつの名前を知らない奴なんているのだろうか? まあポッターが英雄でなかったにしても僕達は顔を合わせるたびに吼え合っている仲だから、知っていて当然なんだけど。僕はポッターが髪が伸びようと化粧をしようと見破ってやれる自信はあるというのに……何だか腑に落ちない。

「リズは僕のこと知っててくれたんだね!」
 どんな勘違いさんなんだ、こいつは。
「有名だろう?」
 僕がにっこりと笑ってあげる。営業用だけど、その中でも母上に仕込まれた特別なものだ。父上に仕込まれた営業用はもうちょっといつもの笑顔に近いから。
 でも僕は知っているんだ、けっこうこの顔が使えることを。
 案の定ポッターが真っ赤になって下を向いた。
 その隙に僕が密着しているポッターから遠ざかるようにさりげなく横にずれると、ポッターも僕の方に少しずれる。抜け目ない奴だ。

「リズは、身体が弱いんだってね」

 騙されてやがる。
 あんなに走り回って身体が弱いもクソもないだろう。

「昔から、あんまり丈夫じゃないから、すぐ体調を崩してしまって」

 僕は、嘘をついた。どうやら僕はそういう風に見えるらしい。ありがたいことに、これで面倒なことはたいてい乗り切ってきた。面倒な事は体調不良を理由にサボることも通用した。普通じゃこうはいかないだろうけど。使えるのわかっているけど、何となく嬉しくない。
 だけど残念ながら身体を動かすことは嫌いじゃないし、体力だってあるほうだし、今まで大きな病気とかも一切したことがない。

「そっか。線が本当に細いもんね。心配だなあ」
 それは、決して褒め言葉ではない。
「なんで大広間でみんなで一緒に食事をしないの?」
 それは僕がお腹が空くからだ。
「アレルギーで、食べれないものが多いし……人が多いところは、酔ってしまうんだ」
「そうなんだ。可哀想」

 本当に、信じてるのか?
 先生にこのお話をしたら一発で嘘がばれるだろうけれど……そんな生徒はいないってすぐに嘘だと仰るだろうがこいつはあまり教師と仲が良くないから、まあ大丈夫だろう。実際アレルギーがある生徒もいるが、ちゃんと専用の食事を出されているんだから。
 僕のように授業でわからないところ等を訊きに行ったりとかすれば、真面目な生徒としての認識が上がって高感度もあがるのに。

 ああ、それにしても……。
 話題が見つからない。
 別にこいつに今更聞きたいことなんて何にもないし。
 言いたいことも特にないし。
 下手な事を言うわけにも行かないし。

「そろそろ、就寝時間だから、もう帰る」
「もうちょっと……お話しない?」
「見つかったら、減点されてしまう」
「大丈夫だよ」

 そりゃグリフィンドールはもうこれ以上ないぐらい減点され放題だから、今更少しぐらいなんでもないだろうけれど、今年はスリザリンは一番を狙っているんだ。こんなところで減点なんてされている場合じゃない。しかも、こんな所を先生方に見つかりでもしたら、僕はなんて申し開きをすればいいんだ。
「今日は、もう帰る。また……」
 またなんていう日は、もしかしたら来ないかもしれないけど。
 そう思って僕は立ち上がろうとしたら、ポッターが僕の腕を掴んだ。痛いぐらい強い力だった。

 何だよ!

「帰したくない」

 何なんだ、こいつの我侭は。
「リズともっと一緒に居たい」
「………」
「離れたくない」


 ……その顔があんまりにも哀れだったからだ。
 目が赤くなって、潤んでいる。
 男に泣かれたってちっとも可愛くないけど。

「また、今度な」
「本当に?」
「ああ」
「いつ?」
「………」
 いつと言われても。明日はあさって提出のレポートの見直しをしたいし、読みかけの本があるから読んでしまいたいし、明後日は面白い薬草の文献を見つけたからスネイプ先生にお話を伺いたいと思って、僕のためにわざわざ時間を作ってもらったし。
 その後の予定は、手帳を部屋に置いてきしてしまって、ちょっと今わからないから。
「明日?」
「いや、無理」
「明後日?」
「ちょっと待て。今はわからないんだ」
「じゃあ明々後日」
「だから、今はわからないって」
「じゃあどうすればいい?」

 どうすれば良いといわれても……。
「マルフォイに伝えておく」

「何で、マルフォイなの?」

 ポッターの、ちょっと拗ねたような顔が面白い。なにか勘違いしてないか?
 しかも僕に伝えれば僕のことを一番把握しているのは僕なんだから、一番良いだろう? それに、他の人になんて絶対に頼めないし。僕がいくらポッターを陥れるためだとは言え、こんなかつらを被って、こんなことをしているだなんて。

「仲が良いんだろう?」

 そう言って、僕は自信のある笑顔をポッターに向けた。
 さて、これでどんな反応が返ってくるか。





「うん! 親友だよ」








 ………ほう。





 ポッターの大嘘つきめ!
 ポッターの顔はなかなか見ものだった。







0701