2 足元がすーすーする。 女の子は、こんな心もとない服をいつもよく平気で着ていられるものだと、感心してしまう。 スリザリン生たちは僕の様子を外に散ってうっすらと観察している……はずだ。 他の寮の人にも半分近くにはばれているらしい……。寮が違ってもまあ友達ぐらいはいるだろうから。勿論僕だって、僕が受ける罰ゲームでなければ絶対に言いふらしていたに違いない。スリザリン以外にも話す相手ぐらい入るのだから、僕だってまあ僕じゃなければ絶対に面白がっていたはずだから、仕方ないことなのだろうけれど……。 まあ、グリフィンドールには決してばれたくないけれど………。 ホグワーツ一周って言うから、もうさっさと終わらせてしまおう。 もう、今後一生スカートなんかは着ない。着る機会もないだろうけれど。 ずんずんと歩く。 僕の知る限りでは女の子はこんなざくざくとした粗雑な歩き方はしないけど……する子もいるけど、僕の中で女の子はこういう歩き方はしない。 できる限り、僕だとばれたくないし、誰の目にも触れたくない。誰にも見られたくない、誰も見るな!! けれど……今日はぽかぽかと良い天気で……なんでこんなに人が外にいるんだよ! ああ、人の目が痛い。 そんなに僕を見ているわけではないと思うけど、そんなに自意識過剰なわけではないと思うけど、でもやっぱりみんながこっちを見ている気がする。 まあ、そんなに人は他人の事は気にしないはずだ。 だからと言って、やっぱり見られている気がする……気のせいだ気のせい!! ……恥ずかしい。 まあ、罰ゲームの醍醐味だ、仕方ない。 諦めて、僕はもう女の子の気分で歩いていた。 できる限り早足で。 歩いていると、見たくもないものが視界に入る。 やな奴に会ってしまった。 向こうの方からグリフィンドールの例の双子が歩いてくる。 無駄に広い情報網を持つこの双子は、僕のことを知っているのだろう、すごくニヤニヤしながら近づいてきた。 ああ、嫌な気分だ。 「「やあ、お嬢さん」」 声がダブるのが、頭に来る。 「今日は良い天気だね」 「どこいくの」 声がダブらなくても頭に来るから、僕は睨みつけた。 知ってるだろうに。 僕の前に壁を作る、のっぽが二体。一人だったら避けて行けるのだが、二人分ともなると、結構しっかりした壁になるから立ち止まらざるを得ない。 「…………」 僕が、こんなことをするキャラじゃないのは良くわかってる。 けど……逆らえなかったんだ……仕方がないじゃないか。 「いつも美人だね」 「今日というこの良き日を記念して写真でも一枚どう?」 ふざけるな。 きっとこれをネタに今後脅しがくるに違いない。本気で御免被る。 僕は双子を睨みつけると、ニヤニヤとした、人の悪そうな笑顔で返された。 絶対に楽しんでやがる。 本当に僕はさっさと部屋に戻って、このスカートを脱いでしまいたいし、唇に付いたべとべとしたものを取りたいんだ。 僕が、横をすり抜けようとすると双子が移動して僕の前に壁を作る。右に行けば右に、左に行けば左に……ああ鬱陶しい! 普段から鬱陶しかったけど、今日は僕の機嫌が悪いのが拍車をかけて、とてつもなく邪魔だ。しかも、二人分! 仕方がない、コース変更だ。 僕が、後ろを振り返った、その時…… 「「やあハリー」」 ステレオ効果。で、その存在を教えてくれた。見ればわかる! 僕の、天敵が僕の後ろにいた……。 しまった。 見られた。 絶対に馬鹿にされる。 ここ最近、僕が一方的に絡んで、ポッターが無視して去っていくという形ばかりだが、僕の言葉に呆れてという雰囲気を出して行っているようだが、本気で怒っているのを知っているから、僕に対して最近相当ストレスが溜まっているだろう。ざまあみろ。 それなのに、こんな格好を見られたら、後々までどういう手で嫌味を言われるのかわからない。僕が何を言っても、この姿を出されたら、僕はきっと言い負かされてしまう。 ……最悪だ! 何て言われるんだろう。 「………」 「…………」 膠着状態。 僕達は見つめあったまま、しばらく何も言わなかった。 呆れてる? いや、当然だろうけれど。 あからさまな態度取られると、もう………やるせない。こんな格好を見られるだなんて。 最低限ライバルとしては認められているとは思うが、それなのに、こんな女の格好なんかして……。情けないし恥ずかしいし。 何を言われるんだろう、言われるのではなく、もう僕に対して口を開くことすらしたくないぐらい呆れているのか? 僕が今までこつこつと積み上げた嫌がらせの数々がこれで帳消しになってしまうのだろうか……。 そう思っていたら、ポッターの顔がみるみる赤くなっていく。 「………?」 まあ、何も言われないならそれでいい。 もういい。 同情するならすればいいさ。 さっさとこの場を去って部屋に戻ろうと思ったので、ポッターの横を通り過ぎようとしたら、双子のどちらかに二の腕を掴まれた。 何すんだよ。 「お嬢さんどこ行くの?」 「まだ話は終わってないよ」 僕は終わってる。というより、話す事なんて初めっから一つもないんだから、始まってもない。これから話を始める気もさらさらないさ。 離せ、というつもりで、僕は睨みつけた。 「ちょっと、二人とも、女の子に乱暴じゃないか」 「は?」 「何言ってるんだ、ハリー」 そうだ、何を言っているんだ? 「嫌がってるじゃないか、可哀想だろ?」 ………何を言っているんだ、ポッターは? 「ハリー?」 「何だよ」 「この彼女、誰だか知ってる?」 双子の片割れが……どっちがどっちだかはさっぱり見当が付かない……掴まれていない方の僕の手首を掴んで、ハリーの方に向けさせた。 ちくしょう。 こういう時に、僕はコンプレックスを感じる。 もうちょっと……例えばこの双子よりも背が高かったり、がっしりした体格だったりしたら、こんな簡単に動かされないだろう。まあ、まだ僕は成長途中だし、これからの事を考えれば、明るい未来も待っているかもしれない。 手を外そうとして、暴れてみても、もう一人に反対側の手首を掴まれて押さえ込まれてしまった。 悔しい。 見られたくない。 こんな、かつらを被って、唇になんか塗って、スカートを履いた僕なんて、見られたくない。 どうやら、今ポッターは僕だと気づいていないようだが、しっかり顔を見られたらばれるに決まっているから顔を伏せた。 絶対に見られたくない。顔をしっかり見られたりしたら、絶対ばれる! 髪が長いのはこういう時に便利だ。 顔が隠れる。 いや、まあ顔を隠す機会なんてそんなにあるはずがないから、別に長くないほうがいい。 「だから! 女の子に乱暴はやめなよ」 ………ああ、ポッターは僕だということに気づいてないんだ。 好都合。 ………だからといって、どうすれば! 困った。 こんなに困ったことは、そうそうない。何で僕がこんなに困らなければならないのだ! 誰か助けてくれ。どうせ、スリザリン生が近くで見ているはずなんだ。そう思ったけど、薄情な奴らだ。まあ、僕が見ている方だったら、こんな場面は絶対に見逃さない。 自力で脱出しなければ。 「ハリー、もっとよく見て」 「やめなって」 止めに入るポッターは、それでも僕のほうを見ているから、その視線がひどく気になって………。 涙が滲んできそうだった。 こんな格好しなければならなかったこととか。 こんな奴らに捕まって、逃げられないこととか。 誰も助けに来てくれないこととか。 ポッターに見られたこととか。 そんなのとかで、悔しくて、目頭が熱くなってきた。 だけど、こんなところで泣いたら、もっと馬鹿にされる。 「ほら、泣いちゃったじゃん」 言うなあ!! 僕の顔は双子からは見えない位置にあったから、お前が喋らなければばれなかったんだよ! 「何? 彼女泣いちゃったの?」 「そんなに悲しかったの?」 後ろで、双子の楽しそうな声が聞こえる。お前らが楽しいと感じる理由は痛いほど良くわかるよ。僕が双子の立場だったらこの上なく楽しいだろう。だからそれが果てしなく悔しい。 泣くもんか。 「まあ、今日のところは」 「勘弁して置いてあげようか」 そういって、双子は僕を軽く突き飛ばした。 まっすぐ、僕はポッターにぶつかった。 「女の子に何するんだよ!」 ポッターの怒鳴り声。 突き飛ばされた僕は、体制を崩してポッターにしがみつく形になったから、慌てて身体を離そうとしたんだけど……。 ……いや、なんか…… 手が、後ろに回ってるんですけど……。 しかも、離れようとすると、余計に力が入ってきて……。 ポッターに抱きしめられて………いる、って状態じゃないか、もしかして、これは。 悪いけど、僕はそんな趣味はないんだ!! 「おやおや、ハリー」 「お顔が真っ赤だぜ」 「じゃあな、ハリー」 「じゃあな、お嬢さん」 「「仲良くな」」 そう言いながら、双子が去っていった。ああ腹立たしい。 去りながら、ニヤニヤした悪そうな顔で僕を見たから、僕はポッターの肩越しに思いっきり舌を出した。 本当にグリフィンドールは嫌な奴らばっかりだ。このハリー・ポッターといい。 ポッターから離れようと思ってちょっと腕に力を入れたけれど……抜け出せない。何なんだ、この馬鹿力は。 僕は、ポッターの腕から抜け出すことを諦めて、それでもちょっとだけ距離を何とか作って、彼の顔を覗き込んだ。 本当に赤い。 何、照れてるんだ、こいつは。 0701 → |