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 最近では、ポッターに優しくされるのも、すっかり慣れてきた。
 僕にべたべたとまとわりつくのは相変わらず鬱陶しいと思うものの、それでもなんとなく、そこにいるのが当たり前のような気がして……。
 用がない時でも僕はポッターとともに行動することが増えたような気がする。
 そして、本当に僕に優しくするから……嫌味も通じないし。
 僕も毒気を抜かれてしまって。






 いつも隣にいるから……。






「ねえ、魔法薬学の授業でわからないところがあるんだけど」
「どこだ? この前の授業なら復習も終わってるし予習もだいぶ先まで終わっているから、教えられるはずだ」
「助かったー。次指名されて答えられなかったら課題提出なんだよね」


 とか……。
 時々は、勉強を教えたりもしている……グレンジャーはどうした。

「最近、寒くない?」
「そうか? お前のところの寮だけじゃないのか? スリザリンは地下だから暖かいぞ」
「地下だと寒いイメージあるけど」
「そんなことは無い。ただ朝日が無いのは起きにくいな」
「ドラコってけっこう朝起きるの苦手な方?」
「朝は苦手だな。だからいつもぼんやりしてしまって三十分ぐらいほとんど動けないから、けっこう早起きだと思う」
「へー。僕なんてだいたい十分前だよ。着替えて顔と歯を磨いて……」
「頭も梳かせ」
「いや、それは面倒」

 とか……。
 知らないうちに、僕のことをファーストネームで呼んでいるし……馴れ馴れしいとも思うけど、別に咎めるほどの事でもないような気がして、そのままにしてある。調子に乗ったらしくて、今ではそれが定着しつつある。今度はっきりと言わないと。いや、まあ今更どうでもいいのだけれど。

「そう言えば今度スリザリンて練習試合だったよね」
「ああ、そう言えば……。グリフィンドールはこの前やったばかりだよな、どうだった?」
「あそこのチームうまいから、点数どんどん入れられちゃってさー。シーカーはそれほど大したこと無いから、とにかく僕達シーカーが先にスニッチを捕まえるのが一番だよね」
「………あー」
「ドラコは早いから、集中して先にスニッチ見つければいいよ」
「………」
「ただ、あそこのシーカー目がいいんだよね……」
「………」
「まあ、追いつけばいい話だけどね」


 とか……。
 悔しいけれど、クィディッチに関して僕よりもポッターが上手いのは認める。ただ、僕もスピードに関しては負けるつもりも無いけれど。目が悪いわけじゃないけど、どうにも相手よりも先にスニッチを見つけるのが苦手だから、相手の動きとかがどうにも気になってしまって……。そんなことでアドバイスを受けたり……敵に塩を送りつけてどうするつもりなのかはわからないが。


 僕達が並んで歩いていたら、急にポッターが僕の腕を引き寄せるから、何かと思ったら背の高い上級生がふざけて猛スピードで走ってきたりとか……。ポッターが気がついてくれなかったら僕だったらきっと跳ね飛ばされていた。
 そんなこととか……とにかく僕に優しくしてくれて。


 


 本当、調子が、狂うんだ。




「同室の奴がミーナって言う子が可愛いって言うんだけど、どう思う?」
「……誰だろう?」
「ほら、ブロンドの」
「……ああ、あのグラマラスな……良いんじゃないのか?」
「もしかしてドラコって胸の大きい子が好き?」
「普通そうだろう?」
「へえ……ああいうのがタイプなんだ」
「タイプって……そういうつもりじゃないけど」
「どんな子が好きなの?」
「僕の理想の女性は、穏やかで落ち着いていて、頭が良くてでしゃばらなくて、それでいて芯が強くて、いつも笑顔を絶やさなくて陽だまりが似合う香りの良い女性かな。外見に関してはそれほど注文は無いが、良いに越したことはないだろう? ポッターは?」
 何気なしに聞いてみて、後悔する。
「僕は………」

 ポッターがちらりと僕の方を見た。


 顔が赤い………。






 ……………………………忘れていた、僕だ。




 こいつは、女装した僕がタイプだったんだ。
 最近普通に話をするようになったから、追いかけられたこととかすっかり失念していた。
 普通に会話をして、優しくされるのが普通になって、別に一緒にいても気にならなくなってきていたから、なんだかすっかり忘れてしまっていたけれど……。

 もしかして、まだこいつ下心があるのか?



 当たり前といえば当たり前なんだが。

 ポッターが僕に優しくするから……、もともと僕がポッターに攻撃的だったのもポッターがそうだからだし、僕の性格的に誤解されることが多いけれど、僕は友好的に振舞っているつもりでも相手にそうとられないことが多いから、ポッターも僕のことが気に入らなかったから僕もこいつを嫌いだっただけだし。
 僕の性格とか口調とかで、ポッターが僕に対して少し理解を深めてくれたような錯覚に陥っていたけれど……。


 下心があったんだ、きっと。
 きっとというか、ほぼ確信。

 だから、僕に優しいんだ。

 なんだか……勝手に一方的にこいつに対して友情を感じてしまっていた自分に、情けないやら悔しいやら。


 こいつのことなんて信用しない、許さない、そう心に誓っていたはずなのに。
 また、流されていた。



 まあ、最近はそれほどしつこく迫ってこないし、周りに人がいない時は手を握ってきたりとか、髪に触れてきたりとか、時々キスされたりとかしていたことは、していた。

 事あるごとに僕のことを、綺麗だとか、髪の毛がさらさらだとか、指が細いとか、何だかんだ言って褒めてくれることも、頻繁にある、様な気がする。

 ただ、まあ、キスは嫌いじゃないし、僕が嫌だというとすぐにやめるし、優しくされるのはやっぱり嬉しいし……。褒められるのだって悪い気がしないし、もともと容姿について褒められることは昔からだから馴れていたといえば馴れていたし……嬉しいといえば嬉しいものだし……。



 ……うっかりしていた。

 こいつは、敵だ!
 何でそんな大切な事を失念していたのだろうか、僕は。




 気を引き締めないと。



「ドラコ、これから図書室でしょ?」
「ああ、そのつもりだが」
「さっき教室に忘れ物しちゃったんだよね。一緒に来てもらって良い?」


 ……別に、そのくらいは構わないが。

 それにしても、いつの間にか僕がポッターと一緒に行動することがあまりにも当たり前になってやしないか?

 もう、この状態が何ヶ月も続いているけれど……日々疑問に思ってはいたのだけれど。
 僕もそれを容認していたけれど……。




 もういい加減に、はっきりさせないと。




 今、ポッターが僕に優しくしているのは、僕をリズとしてまだ諦めていないのか、それとも僕のことが友達として好きなのか。
 それによってやっぱり今後の対応の検討が必要になってくるはずだ。

 まだ、諦めていないのであればやっぱりキスとかするのはやめて貰わないと……。友達だったら……友達としても、普通はキスしないだろうからやっぱりやめて貰わないと。




「何の授業だったんだ?」


 人気がなくなったから、いつの間にか僕の手を握ってずんずん引っ張っていく。
 こっちの方は授業で使われる教室が少なくて、空き教室とか資材置き場とか、そんなのばかりのはずだが……。




 僕が訊いても答えない。






「ちょっと、ポッター、聞いているのか。何の授業だったんだ」
「いいから」



 何がいいんだ?




 ポッターが僕の手を引いて、どんどん寂れた方に歩いていく。











 ポッターが教室の扉を開けた。




 そこは、僕の予想していた通り、少し埃っぽい匂いのする、使われていない教室だった。




 がらんとしていて、何もない。
 窓が一つ。薄暗い。





 埃のかぶった、机と椅子がいくつか……。
 




 ……まずい、かもしれない。


 背筋に、冷たい汗が伝った。





















……秋田、いや飽きた。いや、書きますよ、続き。テンション落ちてて申し訳ないす。
終わりが見えてきたよーっ!!
070318