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 僕の手を強く引いてポッターが僕を教室に無理矢理引き込むと、扉を閉めるとすぐにポッターが僕を抱きしめた。






 …………まずい、かもしれない。というか、まずい、に違いない。いや、本気で、まずい!




 なるべく二人きりにはならないように、細心の注意を払って気をつけていたのだけれど。
 気をつけてはいた。



 なるべくキスもされないように、常に人の目がある場所を通ったし、二人でいる時は中庭とか図書室とかなるべく人目がある場所を選んだ。話は合わないがなるべくポッターの親友たちとも交流を持つようにも心がけたりして、僕はかなりの注意を払っているんだ。

 それでも、廊下に誰もいない時とか、柱の影とか、そんな些細な短い時間でもポッターは僕に触れてくるから。



 見つかったら、そう思うと怖かったけれど、でもどうせ外とかなら大したことはできないから……。

 そう思って油断していた。







「ポッター……」

 のしかかるように、僕をぎゅうぎゅうに抱きしめて……なにか? 体格差を見せ付ける気か? 嫌味か?




 ああ、確信は正しかった。


 ポッターはまだ僕を諦めていない!
 僕をリズだと思い込んでいる!!



 いい加減に……

 僕のことをドラコだと呼びながら、こいつはまだ僕だと認識できていないのか。
 正真正銘の男だってお前も知っているじゃないか。
 思いだしたくもないが、じっくりしっかりその証拠を見ただろ?
 魔法で性転換の呪文はあるらしいけどどうせ一時的なものだし、難しいらしいし、僕は使ったことがない。


 本当にいい加減にしろ! と、怒鳴りつけようと……


「ドラコ………二人っきりになりたかったんだ、ごめん」

 ポッターが殊勝な口調で僕の耳に囁くから。
 僕も言いにくくなってしまう。



 ただ、耳はやめてくれ。
 僕を抱きしめたまま、耳元で……そこはくすぐったいし、息がかかると身体が熱くなってくるから、苦手。



「ねえ、キスしていい?」


 断りなんて入れてきたことなんてないだろう?
 いつだってお前は勝手に、気がついたらしてるだろう。いつも無理矢理じゃないか。

 今更そんなこと訊かれたって……。



「ねえ、ドラコ……嫌?」

 嫌な、わけではない。
 もうだいぶ馴れたし………気持ちいいことだってわかった。だからと言って誰とでもしようとは思わないけれど。



 ただ、そんな風に訊かれたら今更恥ずかしいだろう?

 僕は、そんなことを答えたくなくて下を向いていた。



 本気で嫌だったら、お前なんかと口をきいているはずがないだろう。横っ面を張り倒して二度と口もきいていないさ。何度か本当にそうしようと思ったけど。体力的にも腕力的にも僕の方が劣るけれど、それだって僕だって男なんだから本気で抵抗すればポッターの顔面を殴ることぐらい……今だってきっと出来ると思う。


 ポッターだっていくら馬鹿だとは言え、そのくらいわかってると思ってたんだが……。




「もし嫌だったら、僕はもう君の事を諦める」

 ポッターの口調は僕が思っていた以上にしっかりしたものだった。






 諦めるって……?

 僕を?


 もともと僕を理解していないのはそっちだろう? 諦めるも何もないじゃないか。僕を見ていないくせに。




「僕に、キスされるの、嫌?」




 嫌、なわけじゃない。
 ただ、どうしていいのかわからなくなるだけで。
 ぐるぐる回るだけで。
 僕が、どこにいるのかわからなくなるだけで……。




 ポッターが唇を寄せてくるから……寄せてきて、くっつくかくっつかないか、ぎりぎりの所で喋るから……。



 諦める?
 もう、僕とはキスしなくても大丈夫だってことか?





 もう、こういうことができない?


 本当にギリギリのところに、あと、本当に少しでくっつくのに。

 吐息が、重なる。
 温度が伝わりそうな、そんな距離。

 触れていないのに……あと少しで、触れることが出来る。







 僕は、それが欲しくなってしまって。

 ポッターの唇は、触れれば、とても気持が良いんだ。





 気がついたときには、自分からポッターの唇に重ねていた。





 深い、キス。

 深い。


 僕から、舌を動かすのは初めてのことじゃないけれど。
 僕がポッターの首に腕を回すのは初めてのことじゃないけど。



 キス、すると、駄目になる、本当に。




 夢中になってしまって。



 舌を絡めて、僕達の唾液が混ざり合う。
 つるつるとした硬質な歯列を滑らせて、生き物みたいに動くポッターの舌を僕は舐めて、ポッターも僕の侵入した舌を噛み付いた。


 舌を強く吸われて、引っこ抜かれてしまうような痛みとか、あるのかもしれない。その痛みすら




 身体中が、ジンと痺れて。
 それが、とても心地良い。










「僕とキスするのは、気持ちいい?」


 僕は、いつの間に彼の首筋に顔を埋めていたのだろう。

 いつのまに、彼の唇は僕の耳元に埋まっていたのだろう。

 僕は、彼の言葉に頷いていた事に気付かなかった。
 気持ちがいい。

 嘘じゃない、本当に気持ちがいい。
 溶けて液体にでもなってしまうような感じ。





「じゃあ、いいよね」


 僕はポッターの言葉を、ぼんやりと聞いて、そのまま頷いて…………









 ……………………。












 ギリギリのところで、ポッターを突き離した!!

 いいって?

 いいって、 何が???

 もしかしてこのまま事に及ぶ気じゃないだろうな。




「いや、落ち着け、ポッター!」
「何で?」

「何でって……」

 こっちが聞きたい!!


 何でもクソもあるか! このまま何をする気だ。

 何もできないだろうが、僕達は男同士だ。
 いくらポッターがリズの幻影を僕に求めたところで、僕はそれに答えることなんてできないんだから。その事を理解しているのか?



 その、次の段階的には一般的に、その……セックスに移ったりするんだろう?

 残念ながら、僕は男だ。諦めるしかないだろう。






 それに……。






 僕、じゃなくて、ポッターが好きなのはリズなんだろう? 僕の顔をした女が好きだったんだろう?
 どうせ僕じゃないんだろう?






 僕が、答えに窮していると、ポッターが僕をもう一度抱きしめた。



「好きなんだ……」



 だから、リズを、だろう?
 僕じゃないんだろう?

 僕を見ているわけじゃないんだろう?


 僕は、それが悔しくて。




「泣いても、やめない」

 ポッターが僕の顔を両手で包み込んで、額をくっつけた。
 視界が、ぼやける。



「……泣いてない」
「泣いてるじゃん」

「泣いてない!」

 泣いてない。
 別に泣いてなんかない。目から涙がこぼれてるだけだ。


 全然悔しくなんてない。

 そんなこと思ってない。
 ポッターが僕のことじゃなくてリズが好きなのは、それは確かなことなのかもしれないけれど。
 でも、それでも僕がポッターのことを好きなわけじゃないんだから、僕がそれで悲しいなんて思うはずなんてないんだ。悔しいなんて、思ってないんだ!



 ただ、………気持ちいいだけだ。
 ポッターとキスするのとか、ポッターに抱きしめられることとか、触られることとか……


 ポッターがしてくるから。それに応えただけで、僕はキスが好きなだけで……決してポッターのことが好きなわけじゃない。そんなことがあるはずなんてない。

 絶対に……




 そんなわけないんだ。



 だから、諦めてくれたっていいんだ。
 僕がリズじゃないって、わかってないなら……だって、ポッターの好きな人は僕じゃないんだから。



 僕じゃない………。












  そんなこと、ずっと前からわかっていたじゃないか。
 なんで、今更そんなことで……僕が泣かなくちゃいけないんだ。











プロットなくした。暴走を始めやがった。

今後エロシーンに移行します。
16歳未満の方、エロシーン苦手な方。ラストシーンは諦めてください、ゴメンナサイ。
070325

→ ★十六歳未満の方・性的描写が苦手な方はご覧にならないで下さい