27 「マルフォイ、おはよう」 「!!!」 朝食の時間、いつも通りにクラッブとゴイルと其の他諸々を引き連れて大広間に行くと、ポッターが晴れ晴れとした顔つきで僕に声をかけてきた。 ???? 一体、何だ? 何があったんだ? ポッターはいきなり頭の中身がすっ飛んでしまったのか? 昨日、僕のことを諦めたはずだろう? 僕は頭上に大量の疑問符を飛ばしてしまった。 何があったのだろう。 僕が呆気にとられていると、ポッターは一緒に来たいつもの面子とお喋りを始めたので、僕は何が何だかわからないままとりあえず席について朝食を済ませた。 何だ? あいつは僕を諦めたんじゃなかったのか? それから、数日、何もなかった。 クラッブに髪の毛を切ってもらった後も、特に何の問題もなかった。 ……いや、その表現は間違っている。何もないのではない。問題は特に何もないのだが。 ポッターがおかしい。 頭を打ったのではないだろうか……。 挨拶をするようになった。ポッターから。 挨拶代わりの嫌味の応酬というわけではない。普通に。朝会えば「おはよう」と言い、食事の後「おやすみ」と言って寮に戻る。 それだけではない。 昨日は図書館で、探していた本が一番上の段だったから、届かないわけではないのだがぎゅうぎゅうに本が詰め込まれているので、ちょっと取れない。縦にも横にも大きいクラッブもゴイルも今日は連れてきていないから、脚立を探そうと思ってきょろきょろとしていたら、後ろにポッターがいた。そしてポッターがその本をとって、僕に渡してくれた。 身長差を見せ付ける気か? そう思ったが、嫌味を言ったところで本を取ってくれたことは事実だったので、とりあえず、謝辞を述べておいた。少しむかついたことには変わりないが。 今日だって、実験中ポッターがかき混ぜていた鍋から青い煙が立ち上った。 「何をやっているんだ」 僕はついうっかりと、ポッターに口をきいてしまった。隣の机だったから、つい。 しかもどうやったらこの材料でその煙を発生させることができるのかわからないが、ひどい煙で目にしみて、涙が出てくる。 「ご、ごめん」 「何をどうやったらこうなるんだ!」 「大丈夫、目痛くない?」 「痛い! 早く何とかしろ」 「えっと……」 ポッターが教科書を広げだしたから、そんなことしている場合ではないのは明白で、僕は慌てて鍋に蓋をして火を止め、鍋に急冷却の魔法をかけた。 本当だったら同じ班なのだし対処法もわかっているのだろうから、グレンジャーとかが何とかすべきだと思ったのだが、彼女は煙を直撃して目も開けられない状態でひどくむせていた。同じ班で鍋を囲っていた連中がみんなむせ返っている。 「何をやっているんだ、馬鹿。お前は頭の中身入ってないのか」 喉も痛くなってきたので、僕は嫌味を言うと、ポッターはひどく心配そうな顔をした。 「大丈夫? 保健室行かなくて平気?」 「………」 何を、言って、いるんだ? こいつに心配される義理など何もないのだから。 しかもどう考えても僕なんかよりも直撃を受けているグレンジャーやウィーズリーの方がダメージが大きいはずなのだが、そっちの方には見向きもしないで、僕ばかりを気にしていた。 しかも、せっかく久しぶりに嫌味を言ったのにまったく持って通じていない様子。 「………別に、大丈夫だ」 そして、今……。 これは………一体どういう状態なんだろう。 僕が、宿題も過大も予習も復習もクィディッチの練習もなく、クラッブやゴイル達と無駄な時間を過ごすつもりもなく、僕は有意義に中庭のベンチ読書をしていたのだが……。この前図書館で借りた冒険小説で、なかなか面白い。あまりこういう軽い書は読まないのだが、挿絵が綺麗で遠くの方に描かれているドラゴンが時々火を噴いたりしているのが面白い。うっかりすると本が燃えてしまうが。 もう、だいぶ肌寒い季節になってきていて、しっかりとローブを着込んできているが、陽射しが出ているうちはぽかぽかとして心地よかったのだが、読書に没頭していたうちに、日が翳ってきてしまっていた。 「寒いな……」 僕が本から目を離さずに、そう呟いた時に、ふわりと肩からローブをかけられた。 「………」 「大丈夫? 風邪ひかないでね」 いつから、隣に座っていたのだろうか、こいつは。 本に集中していたので、全然気付かなかった。 いつの間にこいつは僕の隣を陣取っていたのだ? しかも……肌寒いって言うのに、僕にローブなんて与えたりして………。何だ? 僕は、固まってしまって本から目が離せない。 隣にポッターがいることを知っているのに、僕はどうしていいのかわからなくて、動けなくなってしまった。こんなポッターを僕はどう対応していいのかわからない。 嫌な奴なら嫌味で返せるのに、口の回りは悪くない方だから、口で勝てない経験は少ないけど……今度は何を企んでいるんだ? 真意がさっぱりと読み取れない。 だって僕に優しくする必要なんてないのに。 寒いから……ポッターがくしゃみをした。 ほら、ばか、強がってローブなんて脱ぐから。 僕は、無言で立ち上がった。 立ち上がると、肩からポッターのローブがずり落ちたけれど、気にしないでそのまま僕は歩き出す。お前のローブなんか要らない。 慌てて、ポッターがローブを拾って僕の後をついてくる。 「待ってよ、マルフォイ」 「何の用だ」 僕は、いい加減にイライラしてるんだ。 一体本当に何だって言うんだ。 「どこ行くの?」 「そんなのこっちの勝手だろう?」 「ねえ、どこか二人っきりになれる場所行かない?」 「行かない!」 誰が行くか! この前痛い目を見たんだ。 絶対にこいつと二人っきりなんかにもう二度と絶対にならない。 ……でも…… 少し思ったことを、慌てて僕は否定する。 絶対に言ってはならない。 絶対に、そんなこと思ったなんて何があっても言えない。もし思ったとしても、誰にばれたってポッターだけにはばれたらまずい。 キスが、気持ちよかっただなんて!! 絶対に、駄目だ。 その上、それで抜いてしまっただなんて、何があっても絶対に知られるわけには行かない。 あとで絶対に後悔するってあの時だってわかってたんだ。思い出したら絶対にしなければ良かったって思うはずだってわかっていたのに……。 あの時は、ああする以外他にどうしていいのか思いつかなくて。 忘れよう。 忘れるんだそれがいい!! 僕は頭の中にある自分の考えを打ち消すように、ずんずん歩く。歩くことで他の事を考えないように……他の事を考えたら顔に出そうだ! それだけは駄目だ。忘れるんだ! 頭の中から排除しなくては。 僕は、自分の寮の近くまで来た時に、まだポッターが僕の横を歩いていることに気がついた。 「一体、何の用だ」 「君と一緒にいたいだけだよ」 「………」 いけしゃあしゃあと……どんな画策があるにしろ、もう絶対にこいつとは関わらない、そう誓った、自分に。 「じゃあ、僕はもう寮に戻るから」 だからもうついてくるな。 そう、言ったら。 掠めるようにポッターが僕の頬に唇を寄せた。 ああ、また。 今日は、唇じゃなかったけど……それでも、軽くちゅっと音を鳴らして、ポッターが離れた。 それだけだったんだけど……。 本当にそれだけだったんだけど。 「じゃあ、また明日」 息と一緒にその言葉を僕の耳に吹き込んで、ポッターは笑顔で離れて行った。 後姿。 僕は、ポッターが去って行くその後姿を見つめた。 ポッターが唇で触れた方の頬が熱い。 ポッターの声が入り込んだ耳がくすぐったい。 続きが思いつかねえ!! 070316 → |