23 あの授業以来、ポッターは僕の席の近くに座る。 スリザリン生もグリフィンドール生も、さすがにそのことについては一切僕には触れてこない。 散々な噂になっていることは誰から聞くまでもなく明白に、周囲の視線が物語っているけれど。じろじろとした不躾な視線をぶつけられることが多くなったから。でもそれには耐えられる。僕に何も聞いてこないのならば、それが嘘でも本当でも勝手に言っていればいい。この前命知らずの馬鹿なレイブンクローの生徒が僕に聞いてきたけれど、二度と僕に話しかけてこないように杖を向けて脅しをしておいた。その事について今後一切話題にするな。 まあ、本当に僕の知らないところで勝手に言っていればいい。ただし僕の耳に入らないようにな。 けれども!! このポッターの視線は耐え難い。 僕はもう本当にこいつとは口を利きたくない。 僕の席の近くに座って、後ろから視線を感じる。 こいつの視線は質量を伴っていると思う、本当に。 視線が、重い。重すぎて骨が軋みそうだ。 授業が終わった。 僕は、さっさと教室を出て行こうとしたけれど……。 「本当に鬱陶しいな、ポッター」 ポッターが僕の顔をじっと見ていた。穴が開きそうなほど。 何なんだ、一体。本当に! 「リズを返せ」 「………いい加減にしろ! もともとお前のものじゃない!」 いつまでもうじうじと!! 男らしくない。 お前はリズが僕である前に、振られたという認識をしろ。 「マルフォイが、僕の理想通りの女の子に変身してるからいけないんだろ?」 「変身って! 何もしてないだろ!」 「スカートはいてたじゃん」 「不可抗力で一度だけだ!」 「髪の毛長かったじゃん」 「じゃあ、ダンブルドアにでも惚れておけばいいだろう!」 ああ、こいつと話していると僕が馬鹿になった気分がする。 何なんだよ、一体。 僕に惚れてたのは事実として認めよう。 だが、僕は僕であって、性別を変える気も家を変える気もまったくないし、魔法界の英雄のライバルという位置も別にそれほどには捨てる気はない。今この状態のポッターであるのなら、そんなものは誰にだってのし付けてくれてやろうと思ってはいるが。 本当に何なんだ。もう、いい加減に諦めて元に戻れ。 今までのポッターの方が扱いやすかったぞ。 別にポッターなんかと仲良くなりたいだなんて、これっぽっちも少しもちっとも全く本当に思っていないのだから。もう僕のことに構うな。 「もう、いい加減にしてくれ」 「……さんざん僕のことを引っ掻き回しておいて、その言い草は何だよ!」 「勝手に引っ掻き回されたそっちの方が悪いんだろ。騙される方が馬鹿なんだ」 「何だよ、僕のせいだって言いたいのか!?」 「人の顔ぐらい覚えておけ!」 僕は、教科書を掴んで立ち上がろうとしたら、ポッターが、ローブの懐に手を入れて……。 「何だよ、魔法を使う気か?」 僕に杖を向けたから……僕もローブの内側から杖を取り出そうとしたけど…… 間に合わない! ポッターが、何か呪文を唱えだした。 杖が光った。 きっと、吹き飛ばされるんだろうと思って、目を瞑ってしまった。その衝撃がくるのを歯を食いしばって耐えた。 が……? いつまでたっても何もない。 「何だ?」 不発か? ポッターは発音が悪いから、魔力は強いけど発動しないことがよくある。 「何をしたんだ、ポッター。ろくに授業も聞いていないから不発な……っわあ」 いきなり、ポッターが僕に抱きついた!! 本当にいきなりだ。 不意打ちを食らったその衝撃で、立ち上がっていた僕が再び椅子に座り込んだ。 「何だ!」 「リズ!!!」 何だ、一体!? 「離せ!」 僕はポッターを押しのけようとしたが、びくともしない。相変わらずの馬鹿力め。 何なんだ? 僕はどこも変わっていないはずだが………痛くもなかったし。 「本当、マルフォイって髪が伸びると女の子みたいね」 ポッターの横に居たグレンジャーが冷めた顔で僕を見下ろしている。こいつにこんな顔をされる筋合いはない。 「お前の友達だろ? こいつを何とかしろ」 そう言うと、グレンジャーは肩を竦めて踵を返した。その後ろに少し、困った顔をしてだけどそのまま何も言わないで、同情的な視線を僕に送ってウィーズリーも続く。 「待て! ポッターを持って行け」 「自業自得、身から出た錆でしょ」 本当にグレンジャーは腹が立つ。生意気で、女の子として本当に一番嫌いなタイプだ。鼻持ちならない。グレンジャーとウィーズリーはポッターを置いて教室から出て行ってしまった。 一体何を知っているというんだ! いや、知られたくもないけれど、もしかしたらポッターが洗いざらい全部喋ったかもしれない。まさか、僕の服を剥ぎ取ったことまでは言っていないだろうが。 「ポッター、離せよ」 「リズー!!」 振りほどこうとして……。 何だ? ふと……。 僕の髪が伸びている!? 金色の髪の毛が、肩からさらりと落ちてきた………。 髪伸ばしの呪文か! 必要としていないから、覚えていなかった。教科書には載っていた初歩の呪文だ。 まあ、あとでクラッブに切ってもらおう。 クラッブはああ見えて手先が器用だ。正方形の紙を使って動物の形に追ったりするのが得意で、この前は鶴の形を教えてもらった。薬学の実験でも薬草を細かく刻んだりする時に、本当に細かく綺麗に刻むし。 僕の髪の毛も前髪が伸びたりして鬱陶しくなると切ってくれたりする。ゴイルもだいたいクラッブに切ってもらっている。 この呪文は何の実害もない。から、まあいいと思ったのだが……。 ポッターが離れない! ひどい実害だ! 「おい、ポッター! 離せ」 「………」 「ポッター………」 返事がない。 無反応。 「ゴイル、クラッブ、こいつを何とかしろ!」 そう言うと、二人は困った顔をして………それでも意を決したのかポッターを僕から無理矢理引き離そうと、ポッターのローブの端っこを持って引っ張っている。 痛いって。 馬鹿力同士だから、一番被害にあうのは僕だ。 何で離れないんだ、引っ付き虫か、貴様は。 どうしよう、本当にこのままじゃ、次の授業が間に合わない。 本当は、使いたくない手段だが……。 僕は、咳払いを一つ。 ああ、気が乗らないが………。 「ポッター……」 僕は、ポッターの耳元に息を吹き込むようにして、少し高めの声で、名前を呼んだ。 少しだけ、珍しく優しい声を出した。こんな声は父上にちょっと無茶な物や高価な物をおねだりをする時以外では使ったことがない。使う必要もない。だいたいの欲しいものは手に入るし、僕が気を遣う相手なんてホグワーツでは先生方以外に誰も居ないし、先生に別におねだりする事もないし。 ほとんど封印していた声。 「次の授業の教室、遠い場所なんだ。離してくれないか?」 「………リズ?」 ポッターが、上を向いて僕の顔を見た。 まだ、有効なのか? 僕の髪が伸びただけだぞ。声色を少し変えたが、別に飴を舐めて声を変えたわけではないのだし。 まだ、こいつは僕のことが………。 いい加減諦めろ、と、本気で言いたいのが九.九割。残りの0.一割は、少し楽しい。まあ、本当に少しだけだが。 クラッブとゴイルが目を丸くしているのがわかる。 僕がこんな声を出したことを聞いたことなんてないのだろうから。聞かせるつもりもさらさらないのだが。できれば聞いて欲しくないのだが、ていうか耳を塞いでいろ! 僕は二人を睨みつけると、二人とも慌てて目を逸らした。今後このことに触れたらどうなるかわかっているだろうな。 「ポッター。そんなに強い力で抱きしめたら、苦しいだろう?」 猫撫で声で、ポッターに囁く。 僕は、ホグワーツでは今だこのポッター以外は誰も見たことがないぐらい優しい笑顔を向けた。この前の時にポッターに使ったから。この笑顔は、本当に大切な時に取っておいてあるものだから、あまり乱用はしない。あと、ひどく怒った時に気がつくとこの笑顔になっているけど……。 ポッターなんかに二度も使ってしまった。 「痛かった?」 「ああ。離してくれないか?」 「ごめんね」 ポッターは素直に僕を離した。 ………死んでしまえ。 僕は教科書を取って立ち上がる。 「マルフォイ!」 ポッターが、僕を呼び止めたから。 「何だ」 僕の声は元に戻っている。元に戻ったというよりも、かなり機嫌が悪い。 「その………」 ポッターが、僕を見て………少し、泣きそうな顔だった。勝手に泣いてろ! もう、僕は騙されない。 お前が勝手に騙されただけだ。 「何だ?」 「………何でもない」 なんだ? 寮に戻ってから、クラッブに髪を整えてもらい、少し前よりも短くなった感はあるが、まあ長く鬱陶しいよりはマシだ。 次の日の朝は快晴で、珍しく晴れ渡って気分がいい。 僕はいつも通りに起きて、シャワーを浴びて、着替えて、今日の授業の用意をして、紅茶を飲んで。その頃に二人とも起きだして、連れ立って大広間に朝食に行く。いつも通りだ。 朝の目覚めがいいと、その日一日気分がいいことが多い。 席に座ると、突然ポッターが後ろから声をかけてきた。 「何で髪短いの?」 「………」 切ったからに決まってるだろう。 それでも無視だ。 こいつと喋るとアホが感染する。 僕は、ポッターを無視して朝食のスクランブルエッグをパンに乗せた。 無視だ、無視。もうこいつのことなんて本当に知らない。二度と関わるものか。 大広間を出た頃に気がついた。 やられた…… また、髪が伸びていたことに。 ちくしょう、ポッターめ。 あれから、僕とポッターの攻防戦は続いたが……。 いくら切っても、ポッターが僕とすれ違う時などに魔法をかけて僕の髪を伸ばす。 その度にクラッブに切ってもらっていたのだが………。 昨日はクラッブが扉に手を挟まれた。ポッターが閉めた扉にだ。 さすがに、すぐに医務室に行って直してもらったとはいえ、今日は髪を切ってもらうのはあきらめる。 絶対にわざとだ! ってゆうか、本当これからどうしよう。無理矢理書くかなあ。続きが思いつかないです。誰か続き書きたい人、名乗り上げてください。って気分です。いや、がんばります。なんとかします。私が出したもの自分で処理しよう。ああ、あたしってなんてエコロジスト。地球人類にも同じことが言えるよね! 自分でゴミ出しといて、自分の力で処理できないで埋めてごまかすなんてね! (逃避) 本当すみません、うだうだで書いてるから面白くないですよね……さくっと終わらせちゃおうかなあ。それとももう一エピソードぐらいあった方が話の流れ的には面白いかなあ。 「返事がない」のあとに、どうしても「ただのしかばねのようだ」って台詞を入れたくて困ったドラクエ世代。 珍しく理想的な長さにまとまった。一ページ内に3000文字(それ以上短いと、短くて自分的につまらない)……長くて5000文字(これ以上長いと、スクロールバーを見た時点でげんなりする)を目指して作っています。が。最近だいたい大幅にオーバーしております。読みづらくってすみません。切る場所が見つからないのですよお。今回は4000文字す。このくらいがちょうどいいと思うのですYO。 ↑書いている最中の愚痴 とりあえず、まだ続きあります 070307 → |