20











 いきなり、怒鳴られた。







 すごい剣幕で、一瞬僕の身体が強張ってしまった。
 本当に雷が落ちたようだ。


「は?」

 どこへとは? こいつは一体何が言いたいのか?

「お前が魔法でリズと入れ替えたんだろ!」
「はあ?」
 ポッターは僕の肩を掴んで、僕に怒鳴りつける。





 ………そう来たか。
 そんな高等な魔法、僕にはまだできない。いつかそのくらい使える魔法使いにはなる予定だが。

「ポッター、僕の顔をよく見ろ」
「だから、お前はマルフォイだろ!」
「いや、だから……」
「リズをどこにやったんだ!」

 状況を理解していないポッターに鼻で笑って、馬鹿にしてやろうと思ったのに、ポッターは状況を理解したくない為に理解していないのではなく、まったくさっぱりわかっておらず、自分の信念(妄想)に取り付かれているようだった。

 こいつは、僕の髪の長さだけしか見てないのか?
 ブロンドのロングヘアなら誰でもいいんじゃないのか?

 ポッターが僕の肩を掴んで揺さぶる。
「っ!」

 痛い。
 握られた肩に指が食い込んでる! 痣になったらお前のせいだからな。

「いや、だからこれ」
「それが何だよ」

 かつらを見ても無反応か?

 僕は仕方なく、かつらを被りなおしてやった。ポッターは僕がへんな動きをしないかどうか、逐一見ている。

 
「あ、リズ」




 声のトーンが、いきなり上がる………。









 僕は………、ポッターの顔をじっくり見てしまった。
 今、僕がかつらを被るという動作を見ていなかったのか?



「だから、言っただろ! 僕がリズなんだ」
「何で、声はマルフォイなの?」
「だから、僕がリズだって………」



 馬鹿か?

 ここまで来ても納得できないのか?



 僕はローブのポケットを漁って、キャンディを取り出す。ポッターは僕が何をするのか、訝しげに見ていたけど。
 毒々しい色。甘すぎて気持ち悪くなるけど、それを一つ、ポッターの口の中に押し込んだ。

「何するんだよ!」

 ポッターの声が、高くなる。
 まるで女の子みたいな声。ポッターの顔で、この声は、ひどく似合わなくて、とても不釣合いで……僕はまた笑ってしまう。



「いい声だな、ポッター」

 ああ、楽しい。
 少しポッターが物分りが悪くて苦労したけれど、さすがにこれで納得するだろう。
 これでもわからないとなると……。



「あれ、僕の声が変」
「だから!」

 僕は飴のパッケージをポッターに見せた。
 パッケージに、大きく書かれている。
 『声が変わる飴。これでアナタも女の子』 ふざけたものではあるが。これでさすがに、いかに馬鹿で、万年落第ギリギリで、赤点必至、追試の常習者のポッターであっても、さすがにここまで証拠を突きつけて解らないようだったら、僕のライバルとしては認められない。

「………リズは………」
「だから、僕はマルフォイだ」

 ようやく、自体が飲み込めてきたらしいポッターの目が潤んでくる。










 ………お前にそんな顔をされると…












 ……嬉しくなってしまうじゃないか!





 僕はもうすっかり上機嫌だ。

 ああ、なんて楽しい。
 ざまあみろだ。
 よりにもよって、この僕に惚れてたんだからな!

 僕は手でポッターの顎を掴んで上を向かせた。ポッターがされるがままに上を向いた。

「なんだったら、キスしてやろうか?」

 勿論、そんなことしない。
 してたまるか。
 いい加減、懲りた。あんな変な気分になるのはもう嫌だ。



 それにこれでポッターも懲りただろう。
 諦めて、とぼとぼ寮に戻れ。
 これでしばらく、僕が何を言ってもこいつは言いなりになるだろう。
 なんてったって、僕に惚れてたんだからな。

 そんな弱みを握ってやったんだからな!



 そう、思ったのに………

 ポッターが、突然。





 

 僕は、しばらく何が起きたのか理解できなかった。
 突然、世界が90度、角度を変えた。
 衝撃で、目が回った。
 頭をぶつけたところは柔らかかったけれど、突然のことだったので衝撃で目の中にちかちかと星が浮かび、世界の彩度が一瞬落ちた。








「おい、ポッター、何を……」



 僕は、ソファーに押し倒されていた。
 上から押さえつけられて、僕の分が悪い。ポッターが馬鹿力だということはわかった。
 ポッターが僕の上に馬乗りになって、僕の襟元を押さえつけているから……動けない。重いし。







 ポッターの目は、僕が見た中で一番怖い色をしていて……。
 上から、ポッターが僕の襟を掴んで……。





 殴られる!



 そう思って、目を瞑って、歯を食いしばった。
 きっと、この状態で本気で殴られたら、絶対痛いだろう。
 僕はその衝撃を覚悟して、目を閉じた。











知らないうちにもう20。一番長くなっていた……あとちょっとで折り返し地点
終わりが遠い。30ぐらいになるのかなあ……。本当は23で完了予定だったのですがなあ。こんなこともあるさ。
070226