19














 ポッターの唇が重なった。






 熱くて……。

 前と同じ。
 触れただけなのに。
 唇から全身に、熱が広がって。
 融けるよう。






 まだ、良いなんて言ってないのに。



 背骨がなくなるような感じ。
 くにゃりと力が抜けて。
 腰の辺りがもやもやと……





 唇が触れただけなのに。本当にそれだけで。
 それも、少し掠めるようなキスが、繰り返し振ってきて。




 
 僕はポッターの眼鏡を落としてしまう。それも、気付かないくらい。
 優しいキスだったから。


 やめてくれ……そうやって
 時々、唇を舐められると、
 僕は……。







 駄目だ、
 流されたら負けだ。


 

「ポッター、もうっ……」

 やめてくれ。



 離そうと思って、僕が力の入らない腕で押しのけようとすると、ポッターが僕の唇の間に舌を入れてきて……。







 どうしたんだろう、僕は。


 押しのけようと思ったんだ。
 そんな力はなくて、気がついたらポッターの服を握っていた。



 何で、力が入らないんだろう。
 嫌だって、思ったのに。

 嫌なのに、本当は嫌なはずなのに。


 嫌、だ。きっと。





 僕の口の中にある飴玉を、ポッターの舌が感じて、僕の口の中で転がして遊んでる。 
 熱いのに、ぞくぞくして、肌が粟立ってくるのが解る。こんなに神経は鋭敏になっているのに……ポッターが僕の顔を押さえているのもあるけど、動けない。ポッターのしたの動きを意識は追っていて、僕の意識はしっかりしているのに、何で何も考えられないのだろう。






 どうしよう。




 どうしよう。
 だから、嫌だったんだ。
 動けないし。
 何も考えられないし。



 ぐるぐるまわる。

 ポッターの舌が、僕の中で好き放題に暴れまわって。

 唾液が、溢れてくる。
 もう僕のだか、ポッターのだかわからない。



 甘い。
 飴が、溶ける。



 もう、なくなってしまう。溶けてなくなる。

 僕も………とけてしまう。




 離れないと。

 離れないといけないのに、もう一つ飴はあるから……まだ、大丈夫とか、そんな事を思ったり……飴が


 そんなこと、どうでも良くなってきて。

 僕は知らないうちにポッターの首に腕を回した。
 こうしないと、倒れてしまいそうだったから。
 何かがないと、掴まっていないと、僕が、溶けてなくなってしまいそうで。




 歯列に沿って舐めるポッターの舌が、
 僕の舌を絡め取るポッターの舌が、
 上唇を噛むポッターの歯が、
 ………



 ああ。






 駄目だ。





















 いつの間に唇が離れたのか解らない。





 ポッターが僕の首に顔を埋めていた。
 僕も知らないうちにポッターの腕の中にいて。




 





「飴、舐めてたんだ」




 ポッターの声で、僕は正気に戻った!







 しまった、流されていた。




 まだ、心臓がすごい勢いで動いている。
 いつも冷たい僕の指先にまで血液が流れて、全部が熱くなってるのが解る。


 ………。
 ポッターの、体温が温かくて……。
 フワフワと僕がどこかに行ってしまうような……







 いや、戻れ、僕!
 流されてるぞ。


 こんなんじゃ駄目だ。











「おい、いい加減に離れろ、ポッター」




 ポッターの耳元で、僕のあらん限りの低い声で呟いてみた。
 飴がなくなったから、僕の声がいつもの声に戻っている。





 ポッターが、どんな反応をするのだろうと思うと、楽しみだ。楽しみで、同時に少し怖い。

 もう、僕のことを好きだなんて口が裂けても言わなくなるだろうから。
 もう二度とそんなこと言わせてたまるか、嘘つき。

 僕が耳に声を入れると、ポッターの身体が強張ったのが解った。



 僕は、ウィッグの端を引っ張る。
 ずるりと、かつらが落ちた。


 ぎぎぎぎぎーぃっと、ポッターが錆びた機械のように、僕から身体をゆっくりと離していく。











「………」

「どうした?」

 ポッターが、アホみたいに口をあけて、僕を見ている。







 そう!






 この顔だよ、この顔。


 僕が見たかったのは!!


 すごく間抜け面!


 アホみたいに口をあけて、目を見開いて僕のことを見つめて。

「……マル、フォイ?」
「ああ、そうだが」

 それが何か?
 そうだ。僕はドラコ・マルフォイだ。リズなんかじゃない。
 それがどうした。

 僕はできる限り涼しい顔をして答えた。
 ただ、身体はまだ力が入らないから、できる限り尊大な態度をとって、ポッターが支える腕にまだ体重を預けているけど、ポッターが気付きませんように。



 それにしても、なんて間抜けな顔をしてるんだ。
 大笑いしてしまいたい。

 僕は、このポッターの顔を見れただけで十分だ。
 笑いがこみ上げてくる。

 嬉しくなって、笑ってしまう。

 相変わらず、ポッターはぽかんとした顔で。

 もう、駄目だ。我慢できない。


「っぷ」
 僕は、吹き出した。

 腹が捩れる。




 ざまあみろ。
 今までのお前の無礼な態度は、その顔で免除してやるよ。




 笑いが、止まらない。
 ざまあみろ、ざまあみろ!
 嘘をついた罰だ。
 ざまあみろ。








 僕は大笑いした。
 笑いすぎて、酸欠になるくらい笑った。


 ポッターが僕の肩を掴んだまま、何度も瞬きをして僕の顔を見ているのが、本当に面白い。















「リズをどこへやった!」






 そしていきなり、怒鳴られた。











無駄に長くてスミマセン
070225