14 見る見る僕の機嫌が悪くなるのがわかった。近くにゴイルやクラッブがいたら、とりあえず僕の半径2メートル以内に入らないように気をつけるくらいの機嫌の悪さだ。 どうしよう。 とりあえず、逃げよう。危うい双子に近寄らないのが君子の手段だ! そう思うものの、ポッターが手を離さない限り、僕は動けない。 デビルツインズが来たので、少しは気が緩んだかと思って、力を入れてみたが、どうにも動かない。こんなときぐらい気をとられて僕の事を忘れて力を抜け、馬鹿。なんとか暴れてみてもポッターの表情は何も変わらずに、僕の踏ん張りはどこ吹く風だ。 とても、悔しいが、今逃げるのは諦めよう。 この悪魔のような双子がポッターに下手な入れ知恵をしないように見張るのも、僕のための大事な使命かもしれない。 ニヤニヤとした同じ顔が近づいてきて、僕は不機嫌を精一杯顔で表現した。 「お嬢さん、キスされちゃったんだって?」 ポッターの前で、何てことを!? まあ、僕がそのお嬢さんだとはポッターは気付いていないだろうけど! だからと言って、そんな事を言うんじゃない! 「しかも濃厚なやつ」 …………ポッターめ、どこまで喋ったんだ! 僕がありったけの憎悪を視線にこめて睨みつけたが、ポッターは気付きもしないで突然狙い澄ましたかのように登場した嫌がらせの権化の双子の方に顔を向けている。 「それで、リズが怒っちゃったみたいでさー」 少し考えればわかりそうなことだろう。当たり前だ! 会って二回目、ろくに知りもしない奴にいきなりキス、しかもディープ! をされて怒らない女性がこの世の中のどこを探したらいるんだ! 「へえ」 「お嬢さん、怒っちゃったんだ」 「許してあげなよ」 「ハリーだって真剣だったんだし」 鬼の双子がステレオ効果で僕の左右に立ってニヤニヤ笑っている。 誰が許すか! 世界中の全てが許しても僕は許さない! たとえ父上が許したとしても僕は絶対に許さないんだからな! まあ、父上にばれることほど恐ろしい事はないけれど。 「いい加減離せ、ポッター」 「駄目だよ、まだ僕の話は終わってない」 「僕は話すことなど何もないんだ」 こいつらは僕らのやり取りを、本当に楽しんでいる。もしかすると、僕の出かたを窺っているようにも感じる。長年の付き合いと、同じ思考回路とで視線だけで会話するこの災厄の双子が、どう出るのかは僕には片割れでないのでわからない。勿論そんなものになるのは100万回生まれ変わったってお断りだ。 どうするか。 とりあえず、とにかくピンチだ。 まあ、貞操の危機でないだけ、まだ僕にも余裕がある。頭を使え。生憎、僕はグレンジャーには劣るが、彼女とほぼ同位の席次を持っているんだから、こんな奴らの頭脳とは比較するのも馬鹿らしい。考えろ、考えるんだ。 「それで、マルフォイに取り次いでもらおうと思ってるところ」 「へえ」 「意地悪だねえ」 「会わせるぐらいいだろ」 「お断りだ」 二度とポッターの前で女装などするものか! 僕の身が危うい。 次ぎ会ったらキスで済まなかったらどうするんだ! 貴様らが責任を取ってくれるとでも言うのか!? 「まあ、キスされて膝にキちゃったんだろ」 「ハリーはキスうまいんだなあ」 「まんざらでもなかったんじゃないの?」 ………そういうことになっているのか!? 「それは違う!」 「なんで、そんなことマルフォイが知ってるのさ」 「っう……」 しまった。余計なことを口走らないようにしないと。さっきからポッターが馬鹿だからなんとか助かっているが、思い返せば危うい橋を渡っている。ポッター、ありがとう、馬鹿で。ポッターに感謝した事は初めてかもしれない……いや、もとはといえばこいつが馬鹿なのがいけないんだ! それにしても気を引き締めなくては。 「彼女から聞いた……」 ちくしょう。よけいにポッターが煽られるじゃないか。ざまあみろと思いたいが、これ以上ポッターを逆上させないようにしないと、リズとしての僕はもう二度とこの世に姿を現さないからいいとしても、僕に怒りの矛先が向いてしまうじゃないか。 僕がポッターをからかって、ポッターが怒るのは楽しいが、こんなことでポッターの無駄な怒りは買いたくない。ポッターが怒ると本気で怖いんだ。 「なんでマルフォイとリズがそんなに仲良い訳?」 「マルフォイと彼女は幼い時から知り合いってことだぞ」 「一心同体だもんな」 余計なことを言うな! 悪意の塊の双子め。 というか、幼い時からって……こいつらは何か僕の弱みを掴んでいるのか!? いや、もう十二分に握られているのだが。 「いや、そういうわけでは……」 ただ、否定はできない。幼い時から僕はリズだった。 「マルフォイとリズってどういう関係なの?」 「………」 本人だ、とは言えない。 いや……もう、この際ばらしてみるか。 最高のシチュエーションで僕だとばらした時のポッターの間抜け面が見たかっただけなのだが……。これ以上もう、僕の精神的忍耐力の限界がそろそろ見えてきている。 僕だとわかったらポッターもこれ以上僕に何かを言ってこないだろうし、僕も少しの恥を我慢すればいいわけだし、僕がポッターを騙していた、そしてポッターがしてやられた、というこの構図はもう決定されていることだ。 僕のほうが優位だ。 ちくしょう。 ちくしょうなどと言う下賎な言葉を頭の中とはいえ使用したことに、またイライラする。 僕は、僕の両肩を押さえつけるポッターの襟を掴んで、正面を向かせる。 じっとポッターを睨みつけると、倍以上の質量を持った視線で返される……が! ここで負けてなるものか。 「ポッター、よく聞け」 神妙な声で。 「リズは…………僕だ」 070220 → |