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 なんだか頭が真っ白になる。









 何だ?

 僕に一体何が起こっているのか?


 目の前に、近すぎてよくわからないけど、これはポッターの顔だ。






 そうか、ポッターとキスしているのか………




 そうか……












 いや、そうじゃないだろう!



 僕の頭のショートした頭の中に血液が戻ってきたようで、今更ながらに現状を把握した。


 何だ、この状態は!!
 僕はポッターとキスなんかする予定は人生のうちで今までもこれからも一切なかったし、勿論ファーストキスはこれから大好きになるであろう女の子のために取っておいてあるんだ。




 ファーストキスといえば人生で一度きりなんだ!

 なんで、こんな貴重なものを無駄にこいつのために浪費しなくてはならないんだ!





 何でこんなことになったんだ!!






 僕は何かミスをしただろうか……よく考えてみよう。
 いや、順序良く思い返している場合じゃない。


 落ち着け!

 いや、落ち着いている場合でもない!

 僕が今やらなければ成らない事は……





「っ、離せ」

 顔を無理矢理振って、ようやく息継ぎができたと思ったら、ポッターが僕の頭を掴んで、もう一度僕の口に噛み付いた。




 かつらがずれる!
 いや、違う!
 そんな悠長なことを考えている場合じゃない。

 でも、頭をなんとか横にしようと思っても、ポッターの手が僕の頭をしっかり支えていて、動かそうと思っても動かせない。
 何だよ、馬鹿力め!



 どうにかしてこの状態を脱しようと思っても、動けない。
 腕は自由になるのに、ポッターを引き剥がそうと思って、腕で突っぱねようとしてもびくともしない。

 ちくしょう! すごい悔しい。ポッターで力で負けたことになるんだから。喧嘩だって、そりゃ僕の方が敗戦記録を重ねてはいるけれど、時々は勝つし、ちょっと前まではだいたい互角だったんだから。
 筋力トレーニングをしてやる。きたえてやる。
 いや、今はそんな決意をしている場合じゃない。








 ポッターが僕の唇を舐めた。


 ぞくりと、体中の皮膚が粟立った。

「っやめっ」

 口を開いた瞬間、そのポッターの舌が僕の口の中に入ってきた。






 何だよ!


 一体これは何なんだよ。



 ポッターが僕の口の中を嘗め回して、すごい吸引力で僕の舌を吸った。
「っ……ん」

 なんなんだよ。痛いよ。



 眩暈がしてくる。

 くらくらしてくる。

 気持ち悪いんだけど。

 でも、力が抜けてくる。

 ポッターを押しのけようと思ってポッターの胸にあった手も、どんどん力が抜けてくる。





 なんだよ、この感覚。
 ふわふわした、眩暈に似た、でも貧血とかじゃなくて。

 僕の唇の端から唾液が溢れて、こぼれた。
 涎をたらしてしまうだなんて、恥ずかしいと思ったけど、でも本当はそんなこと何にも気にならなくて。


 ポッターが僕の腰に回している腕で、ようやく僕が支えられて立っているぐらいだ。


 どうしよう。


 頭がボーっとして、それが悔しくて、涙が出てきそうになって。


 力が入らない。


 立ってられない。

 力が抜けて……










 どのくらい経ったんだろう。時間の経過を感じることが出来なかった。途中から、何も考えられなくなっていた。脳味噌も体中もふにゃふにゃとして使い物にならなくなってしまったころ。

 ようやくポッターが僕を解放した。


 僕は、体中の力が抜けて、頭がぼーっとなっていて、僕は座り込んでしまっていた。
 



 ポッターが座り込んで、僕の顔を覗いている。



 あまりのことで、恥ずかしいやら、情けないやらで、僕はポッターの顔が見れなかった。

 ちくしょう!!


「キスって甘いんだね」

 ポッターが僕の顔をのぞき見て、微笑を浮かべていた。
 そりゃ、飴を舐めていたからだ。ファーストキスはレモンの味のようにふざけた事を言い始めそうだったので、僕はそう言おうと思ったんだけど……。


 ………飴。



 しまった!
 溶けてなくなったか、飲み込んだかしてしまったようだ!


 そんなに長くいるつもりもなかったから、声の変わる飴の予備を持ってきてない!


 どうしよう。
 帰らなきゃ。


 僕は、もうとっとと帰って歯を(十分以上)磨いて、シャワーを浴びて、寝てしまいたい!

 

 そう思ったんだけど。

 立てない!
 腰が抜けた!?

 いや、そういうわけじゃないようだ。
 全身にまだ力が入らないだけだ。

 落ち着け。
 落ち着け、自分!

 この危機を乗り切るためには何かいい案があるはずだ。
 だが、喋れない、立てない、この状況で僕はどうしたら。
 無言で立ち去るのが一番いいのに、何しろ立てない!
 僕は下を向いたまま考える。


 ふと、ポッターの顔は見れないから、下を向いていたら……。












 何を勃てていやがる!!!






 こともあろうか、ポッターの股間がズボンを押して膨れている!



 僕は、青くなった。

 血の気がどんどん引いてくる。
 ああ、本気で貧血を起こしてしまいそうだ! だからと言って本当にここで倒れるわけには行かない。僕が僕である必要が今一番の必須事項なのだ。


「ねえ、もう一回キスしていい?」

 ポッターが、僕の頬をさらりと撫でた。
 その親指で、僕の唇をなぞる。







 ……………………。


 貞操の危機!





 情けないことに、浮かんだ単語はそんなものだった。

 相手は男だぞ、しかもこの僕だぞ! わかっているのか。
 いや、わかっているわけがない。ここで喋ったらばれる。解られたら一巻の終わりだ。
 ファーストキスが男だなんて、しかもハリー・ポッターだなんて、そんなことがばれたら、僕の心の傷が一生のものになってしまう。




 自分の窮地にはさすがに僕の身体は言うことを聞いてくれて、何とか立ち上がることができた。
 まだ、膝がガクガクするが立てないこともない。


 僕は立ち上がって一目散に扉を目指した。
 ここにいたら、確実に犯られる!






「待ってよ」

 ポッターが僕の腕を掴んだから。








 僕は懇親の力で、蹴り上げた。









 クリティカルヒット、股間!
 ポッターが鈍いうめき声を上げて、崩れ落ちた。












 ポッターが床にうずくまって動かないのを確認すると、僕は一目散に自分の部屋に逃げ帰った。














だらだらですんません
070204