11 僕はちょっと考えてみたが、僕を偽ったままポッターと楽しく談笑するための話題に何も思い当たらなかった。 だって、僕とポッターだぞ。 罵り合う事は出来ても和やかに話すムードを作ったことなんて一度もないし、ポッターが好きなものは僕は嫌いだ。いや、わからないけど、ポッターの好きなものなんて知らないし、知りたくないし、ポッターの好きなものならきっと僕はポッターが好きだという理由で嫌いになることが出来ると思う。 唯一僕とポッターが共通して好きなものはクィディッチだが……僕としてポッターと話をするわけではないのだし……。 さっぱり思いつかない。 「僕……私ははあまり外に行かないから……何でもいい、話しをしてくれ。今日あったこととか、面白かったこととか」 話題が見つからないから。 僕はとりあえずポッターに話を投げた。別にこいつが話しているのに相槌を打っているだけでもいいだろう、しばらくは。 それに僕から話題を提供してやる義理もない。つまらなくなったら帰ればいいだけだし。僕は呼び出されただけだ。そっちが僕に気を使う必要があるだろう。 「うん。そうだね。何がいいかなあ」 それにしても……こうやって、話を誘導してやらないと本当にこいつは何もできないのか? 僕がそうやって誘導しなければ僕はきっと沈黙に耐えられなかったはずだ。というか僕が気を使ってやる必要は一切ないんだからな! 「昨日のことなんだけどさ……。昨日授業中ちょっとマルフォイと喧嘩しちゃって」 ああ、と僕は心の中で反芻する。 久しぶりに派手なのをやらかしたからな。スネイプ先生の授業でよかった。他の授業だったら、確実にスリザリンも減点されていただろう。 まあ、グリフィンドールだけが減点されて、それで僕の気は少しは晴れたのだが。 「僕だけ減点になっちゃってさ。そのあと、マルフォイのローブのフードにこっそり蜘蛛を入れておいたら、すっごい顔して怖がっちゃってさ!」 ………………………………………。 お前の仕業か!!! 確かに、昨日、何か首筋がぞくぞくしたから、自分で見る気になんてなれなかったから、クラッブに見てもらったら、何も言わずに処理をしてくれたようだったけど。 何だった? て聞いても、もう大丈夫としか言ってくれなかったから、蜘蛛がいたなんて気が付かなかった! クラッブありがとう。今後八つ当たりは(少しは)控えるよ。 言わなければよかったものを! 「……マルフォイと、仲良かったんじゃないの?」 この前は僕と親友だとか言っていなかったか? まあそんなロクでもないものになった記憶は一切ないんだがな。 「仲がいいからできることもあるんだよ」 「………」 左様ですか。 「あんまり、同じ寮の人の悪口を聞くのは好きじゃない」 ってゆうか、僕の悪口を言われるのは嬉しくない。何でせっかく女装してまで、僕と偽ってまで会ってやってるのに僕の悪口を聞かなきゃならないんだ。 「そう? 僕は君のことが聞きたいんだけどな」 「特に、毎日話す事もないから」 話せば貴様の悪口ばかりこぼしそうだからな。やめておいたほうが懸命だ。 「じゃあさあ、将来の夢とかは?」 ………それはもう、聞きたくない。うんざりした。頭痛がする。耳がタコだ。 別に僕だって夢なんかは取り立てて他人に話すほどのものでもない。父上の跡を継いで父上のような立派なマルフォイ家の当主になって、母上のような美人で優しい伴侶を得て、子供は苦手だからそんなにいらなくて……。別に他人に話すほど大それた野望でもない。 とりあえず、ポッターは僕に「趣味は?」から始まり、好きな教科や好きな食べ物、好みの音楽、そんな当たり障りのない個人情報を色々と僕から収集していった。僕はポッターの趣味趣向に関して全く興味がなかったが、魔法界が英雄として知っている程度のだいたいの事は把握していたので面倒だから聞かなかったけれど。好きな授業は飛行術で、好きな食べ物は知らない、音楽とかもポッターに興味はないが、まあとりあえず彼に対しての一般的な知識ぐらい持っている。両親を殺されてマグルの親戚のうちにいるらしい。それが何なんだ。 「リズは、僕に興味がない?」 ああ、まったくなっ! とは、言えない。 「何で?」 「だって、僕の事聞いてくれないから」 「………マルフォイから、聞いたから」 とりあえず、無難な意見だと思った。特に当たり障りがないといえばこのくらいだろう。有名な事は知っているけど、まあ……女の僕が知っているとなんだか煩い事になりそうだったから。 「なんで、そこでマルフォイの名前が出てくるの?」 なんで、お前が怒るんだ? しかもさっきお前も出していなかったか? 「同じ寮だし」 「僕がいないところで二人で喋らないでよ」 二人で喋ったことは皆無なのだが……。独り言を呟けと? 「すごく嫉妬して、マルフォイに八つ当たりしそうだ」 それは、やめてくれ! なんでお前の我侭に付き合ってこんなところにわざわざかつらかぶって出てきてやっているのに、その上貴様の八つ当たりにまで付き合わねばならないのだ。 「マルフォイに何かあったら、私が怒るから」 「……君はマルフォイのことが好きなんだ」 いや、まあそりゃあそうだろう。なんたって自分だし。少なくとも貴様よりはな。 「……同じ寮だから」 「僕よりマルフォイの方が好きなんだ」 まあ、当然と言えば当然だ。ポッターは敵で、自分は大事だ。 「付き合いたいとか、そういう好きじゃないよね、マルフォイとは」 「当たり前だろう!」 つい、声を荒げてしまった。何を考えているんだこいつは。 そんな、自分と付き合うだなんて、そんなナルシズムの極みのような真似は僕にはできない。鏡を見て好きだと呟けと? それを聞いて安心したのか、ポッターがため息をついた。 「なんで君はスリザリンなの?」 「じゃあ訊くが、なぜお前はグリフィンドールなんだ、ポッター」 それと同じだ。 そういう意味で言ったのに。 「なんだか、僕達ロミオとジュリエットみたいだね」 そんなわけあるか! 本当に、この男はどういうおめでたい思考回路をしているのだ。どこかおかしな配線になっているに違いない。 二、三回殴れば少しはマシになるだろうか。いや、今までに何度と泣く殴り合いの喧嘩はしたが、一向に変わっていない。というか、殴ったせいでおかしくなったのか? いや、あの程度でこうなるとも思いがたい。殴っている回数はゴイルやクラッブのほうが多いのだし……あいつらの方がよっぽど良識がある。何を考えているのかわからないところは似ているかもしれないが。 「そろそろ、帰る」 「え、もう?」 「宿題があるんだ。明日提出」 「まだ、一緒にいようよ」 そういうわけにも行かないだろう。就寝時間も迫っているし、これから見回りもくるだろうし。 「また、近いうちに会おう」 「次はいつ?」 スケジュール帳をを持っていない。しかもポッターの前で広げたら僕だってばれる可能性が上がる。僕の物で、ポッターの前でも何度か開いている物なのだから。……いや、たぶん大丈夫だろうが、絶対に気付かない自信はあるが、それでも用心するに越したことはない。 「……また、マルフォイにでも伝えておく」 「………仲いいんだね」 すごく、顔つきが悪くなった。 僕の発言に対してこれほど面白いぐらい顔色が変わるのは、本当に痛快だ。 ただ、僕と僕の仲を疑っているあたりが、なんとも言えない。 もう本当に帰ろう。 話す事もない。 僕が立ち上がって、歩いていこうとした時、ポッターが僕の腕を掴んだ。 「何だ?」 そう言って咎めようとした時に、とんでもない事が起きた。 まず、ポッターが僕を引き寄せて、急なことだったから僕はよろけてしまい、ポッターの胸の中に倒れこんだ。 文句を言おうと上を向いた時だ。 目の前が暗くなって。 何だか口に柔らかいものが押し付けられた。 何だ!? 何だ、これは一体? もしかして! 僕は、もしかしてポッターとキスしている? 頭が真っ白になる。 0702 → |