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 とりあえず、前回と同じ時間に同じ部屋で待ち合わせた僕は、女装姿で少し早めにその場所に行って扉を開けた瞬間、なんだかわけのわからないものに襲われた。

「うわあっ!」

 襲われたという自覚を持つ為にもしばしの時間を必要とした。
 とりあえず、何かが起こったことがわかって僕は悲鳴をあげた。

「リズ、会いたかった!」

 ああ、ちくしょう、ポッターだ。僕はポッターに一体何年分の寿命を縮められているのだろうか。

 僕はポッターに抱きしめられていた。
 ちょっと待て、どう考えてもこれは犯罪だろ! 可愛い女の子を見たら口説かなければ失礼だという欲望に満ちたお国柄もあるが、お前はそこの国の出身者じゃないはずだし、いきなり女の子に抱きつくのはどうなんだ? 

「おい、ポッター離せ!」
「リズがキスしてくれたら」

 僕は、自由になる手でポッターの腹を思いっきり殴った。

「っぐ」

 ポッターが短い呻き声とともに、腹を抑えてうずくまった。自業自得だ。
 この姿だったらポッターに何をしても許されるかもしれない。

「大丈夫か、ポッター? すまない、驚いてしまって」

 僕が心配そうな振りをしてポッターの様子を伺った。
「うん、大丈夫」
 涙目になりながらも、何とか笑顔を作ろうとするポッターの顔は痛々しいものがあった。
 目に涙をためて、鳩尾に入ったから呼吸が止まって、なんとか息ができるような状態で、胸部を押さえながら、それでも気力と根性で顔の筋肉を引きつらせて笑顔にしようとしている。
 痛々しくて……。




 これを蹴りつけたらどんなに気持ちがすっきりするだろう。

 鳩尾に決めたから、たぶん結構痛かっただろう。ざまあみろだ。勿論突然あんなことするほうが悪い。僕は何も悪くはない。

 僕は、未だにうめいている彼を無視して、近くのソファに腰を下ろした。

 何とか呼吸がろくにできるようになったポッターが、僕の近くに来て、隣に座るのかと思ったら、僕の目の前に膝を付いた。

「……? 何の真似だ?」
 身長で最近負け始めたポッターを見下ろすのは、大して気分の良いことだけれど。
 つい最近までは、目線を合わせていたというのに、無駄にでかくなりやがった。まあ僕もそのうち伸びる予定だがな。いつか負かしてやる、覚えていろよ。

 ポッターが僕の前に膝をついて、僕の手を取った。
 ……一体なんだ?
 いきなり抱きついたかと思えば、こんな敬虔な態度を取りやがって……。











「リズ、僕と結婚を前提にしたお付き合いをしてください!」









「………おい、ちょっと待て」




「僕は本気なんだ。君と結婚したいって思ってるんだ」
「いや、そういうことじゃなくて」
「君が好きなんだ!」



 あああああ、こいつは!!!
 
 ……もう一度殴ったほうが良いのだろうか。

「ポッター………」

 困ったような声を出したのではなく、真剣に困った。困惑困憊困窮。なんて言えばポッターは僕と会話してくれる気になるのだろうか。

 でもそれ以上にポッターの目は、真剣で……。
 僕はこれほど真剣な顔をしたポッターを見たことがない。

 スニッチを捕まえる時ぐらいか、それ以上に真剣な目つきだ。












 やばい、癖になりそうだ。








 だって、本気で信じてるんだ、この僕をリズだって。

 いつも僕に敵意しか向けないのに、まあ最近はそれどころじゃなかったからそんなに頻繁に喧嘩することもないけど、昨日だって授業を中断するぐらい派手なのは一発やらかしてはいるけれど、絶対数が減っているとはいえ、やはり犬猿の仲なのだから。僕達は顔を見たら嫌味を言わなくてはならない仲なのだ。

 その相手だとも知らず、騙されていやがる!!


 気を抜いていると吹き出してしまいそうだ。





「ポッター、まだ僕……私達はそういう段階ではないだろう?」
「そう? 僕はリズを誰にも渡したくないから、早い段階から僕のモノだっていう確証が欲しいんだ」
「だって、まだちゃんと話したことはあるのは2回目だろう?」
「時間じゃないんだ。一目あったときから運命を感じたんだから」


 ぬけぬけと何をほざく。
 毎日会っているじゃないか。日に何度も! 朝昼晩! 少なくとも大広間で! いや、見たくもないから見ないようにしている時もあるけれど、少なくとも同じ空間には存在しているんだ。


「だったら、断る。ちゃんとポッターと話をしてからじゃないと、私も人生を預けていいのか不安だからな」
「大丈夫! 君を泣かせるような真似は絶対にしないから」

 僕を泣かせたことはないにしろ、僕を殴ったり、暴言を吐いたことは数えるのもばかばかしくなるぐらいあったがな。数えるならば、顔を合わせた回数といったところか。まあ、それはこっちも同じことが言えるのだが。

「ポッター、落ち着いて」
「……」
「座って、話をしよう」
「………リズは僕のことが嫌いなんだ」


 ………ああ、話が繋がらない。
 今の流れで、どうやったらそういう結論に結びつくんだろう。

「そうは言っていないだろう?」


 思わず、ため息が出てしまう。
 今後こいつの彼女となる女性はさぞかし苦労することだろう。出来た女性でないとこいつをどうにもできないんじゃないだろうか。
 まあ、僕がその心配をしてやる義理もないのだが。


「じゃあ、好き?」
「何で二択なんだ? まだどっちとも決めかねているだけだ」
「………」

 ポッターは何だか頬を膨らませて、僕の隣に……相変わらずなんだか密着していたが……腰を下ろした。


 近いって。
 これもちゃんと注意した方がいいのだろうか。


 さて、これからどうしよう。











短いですが、眠いので今日はここまで
0701