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僕は、ドラコを傷つける人は、許せないんだ。
闇を払うことに僕は命を賭けたつもりはない。あんなことで死ぬつもりなんて何もなかった、ただ復讐したかっただけで。
でも、僕はドラコになら命を賭けられる。
ドラコのためにならこの命はいくらでも使える。ドラコを護って死ねるなら、きっと僕は喜べる。ただその後でドラコが泣くのは嫌だけど。
うん、そう。この前一人殺しちゃったって……。すごく切なかった。僕がドラコのために殺したことでドラコが罪の意識を感じるんだ。ドラコは悪くないのに、ドラコが泣くんだ。それは、悪いと思ってる。
いやまあ、あの人には……あの人の家族とか本当に申し訳なかった。ごめんなさい。
この家を訪問してくる魔法省の担当職員が新しく変わってさ、その人どうやら兄弟をあの戦いで亡くしたみたいで……一見善良そうな人だったけど、どこかドラコに対して『魔法省に生かされてるくせに』って態度があったからな。もしかしたらドラコはあの性格だからね、ドラコが煽ったのかもしれないけど。ドラコにそんなつもりはなくても、けっこうドラコの態度が嫌いな人っているじゃない? ロンもそうだよね。仕方ないんだよ、そういう態度がマルフォイなんだから、それに沿うように彼も演じてるんだ。
……その人、前に来た魔法省の人……ドラコを殺そうとしたんだ。
ドラコが最後の一人だから。あの人も僕と同じように表には出さないようにしてそれでも復讐で固まってたんだと思う。もしかしたら本当にドラコが殺したのかもしれないしさ。そんなことわからないし、ドラコにはわかってたかもしれないけど、教えてなんてくれないから。
僕が気がついた時にはドラコは殴られてて。訪ねてくる人がいる時はドラコは僕を外に出しているから……僕達の関係を極力見せたくなかったんだろうけど。だから気がつくのが遅くなっちゃったんだけど。
ドラコは杖を持つことは禁じられているけど、杖なんか使わなくても魔法を使えばドラコが叶わない相手じゃなかったのに……。
ドラコの綺麗な顔がさ、血まみれで……。何度も殴られた後みたいで。
魔法を使って叩きつけられたのかもしれないけど、部屋中の家具がめちゃくちゃでガラスとか割れてて、ガラスの破片に血がついてたりして……。僕が行った時はドラコの上に馬乗りになった魔法省の人がドラコの喉元に杖を突きつけて何かを怒鳴っていた時で、ドラコがぐったりしてて……その時のことはあんまり良く覚えていないんだ。
ただ、視界が全部赤くなって。
真っ赤だった。
あんなに、怒りで僕が染まったのは久しぶりだったよ。ヴォルデモートに対するぐらい、そのくらい……だった。
……殺したんだと思う。
覚えてないけど。
でも、きっとそうなんだろうね。ドラコが僕を抱きしめて、泣いていたから。何度も『ハリー、すまない』って、そう言われたから。
うん。
もう、本当はどうだっていいんだ。
誰が死んだって。
麻痺してるんだ。僕も何人も殺してて、僕が勝ったから僕は英雄で、でもそれは僕の知らない所で勝手に言われてるだけだから……勿論僕には英雄であるなんて自覚はないし、僕は僕のしたい事をしただけだし……だから僕は勝ったことで英雄になれたけど、実際周囲の目を気にしなければただの人殺しなんだろうね。
ドラコがいれば、もう他には何にも要らないんだ。
ドラコが誰かに殺されたら僕は次は復讐はしないと思うよ。
本当に壊れると思うよ。
だから、ここはね、本当は僕を外に出さないためじゃなくて、ドラコを僕と一緒に居させる為だけの、僕が作った鳥籠なんだよ。
僕の独占欲は強いから。
ドラコを誰にも渡さない。『死』にすら渡さない。
僕だけのものなんだ。
次に壊れたら、昔僕が教えたキーワードも使えないだろうね。だって本当に壊れるんだから。
この僕が自分にかけてる思考力をなくす呪いはさ、僕が作ったんだけど、解けるのはそのキーワードだけで僕の意思じゃ解けないのが難点なんだよね。まあ一生このままでもいいんだけど。どっちかって言うとそのつもりなんだけど。
最近、僕の呪文の効き目が悪くなってるんだ。
もともと呪いとか魔法とか跳ね返す力が強かったんだけど、さっきドラコも言ってたでしょ。ドラコの魔法はもうあんまり効かなってるんだ。耐性ができてきてしまっているのかなあ。
僕のこの魔法も、最近頻繁にかけ直してるんだ。一人でいる時とか、ドラコが寝てる時とか、ふと戻るんだ。
正気のまま演技するだなんて……ドラコはそれ以上に僕を見てるから騙せないよ。
僕が正気に戻ったらドラコはさっさと魔法省に通告して、死を望んでしまうだろうね。それは、僕が許さないけど。
それでも困ったことに僕が許さない前にドラコが許さないから。
僕はドラコの命令は聞き入れることになっているんだよ。そうしたいとかじゃなくて、そうなっているんだ。
オカシイ?
ああ、そっちのオカシイね。
うん、とっくに狂ってるよ。
ずっと昔から。
一度、ドラコを手放してしまった時から。もしかしたらドラコが欲しいと思ったときから? もっと前からかも。
僕は君の親友のふりをしていただけのただの狂人なのかもね。
ごめんね、せっかく会いに来てくれたのにこんな僕で。こんな僕しか君に伝えられなくてごめんね。
本当は君に会えたら、抱きしめて再会を喜びたかったんだけど。
ごめんね。
そういえば結婚したんだって? おめでとう。
子供もできたんだって?
もう半年なんだね。おめでとう。
魔法省の職員が来るとさ、ドラコは君の話を聞いてるんだ。僕に教えてくれるんだよ。僕がまだ君たちの事大好きだって、ちゃんとわかってくれてるんだ。
会いには行けないけどさ、こんなんだから。
見たいなあ、写真とかないの? きっと可愛いんだろうね。君に似てる? 髪の毛は赤いんだ? 女の子? へえ。そうか。いいなあ。
僕は子供を作れないからさ。うん、無理。作るとしたら僕が正気に戻ってドラコの事を忘れて他の女のことを触らなきゃいけないんだろ? 反吐が出るね。有り得ない。いやいや、女の子は好きだよ。それ以上にただドラコが必要なんだ。好きっていうよりも……ドラコじゃないと駄目なんだ、っていうのかな。ああ、そう僕はドラコのことを好きだと思ったことは一度もないかもしれないんだ。ただ愛してるんだ。必要なんだ。例えば身体の中で内臓とか心臓とか、脳味噌とかそういう臓器に対して好きだとか思わないでしょ。そういうことだよ。僕が僕であるために僕が必要なだけ。だから、僕には子供はできないよ。ドラコが女性だったら違うんだろうけどね。ああ、こんなこと言ったら殺されちゃう。
ねえ、僕の変わりにたくさん子供を作ってよ。頑張ってよ、お父さん。クィディッチのチーム作っちゃうぐらいにさ。うん、いいね。お母さんも頑張れ。
ハーマイオニーは元気?
ああ、彼女らしいや。そういうところが変わってなくて嬉しい。
………伝えるのは、君に任せるよ。言わないでって言いたいけど……彼女にも知って欲しいって、少し思ってる所もあるからさ。どっちでもいいや。でも、死んだことにしておいてもらえてもいいけどね。僕達の愛は永遠だって書かれた碑を見つけたって。いや、ドラコのことを言わなくてもいいけど……言ってもいいけど。うん。ハーマイオニーにも会いたかった。美人になってるでしょ。君達から僕のことが発覚してドラコにばれることはないだろうから。信じてるんだ。僕は誰よりも君達を信頼している。
本当は僕が一番に君に祝福を言ってあげたかったんだ。一番多くの祝福を言ってあげたかったんだ。それは信じてもらえる? ああ良かった。ごめんね。今からでも遅くない? 絶対に僕が世界で一番強い気持ちで言うよ。ロンのお母さんよりもだよ!
ロン、おめでとう。
世界中の祝福を君とその家族に!
嬉しいんだ。
こんな僕でもまだ君達の親友でいられることが。
本当に君達を僕は心から誇りに思っている。それだけは信じて。忘れないで。
泣いてないよ。嬉しいだけなんだ。
ロンだって。
君達を、僕は本当に大好きなんだよ。
忘れないでね。
僕が幸せになれたのは、君達のおかげなんだ。
君達といた学生の時が僕の中で一番幸せだったよ。何にも知らないふりして笑えたことが、僕にとって何よりも大切な時間だったんだ。
信じて。君達のことが僕は大好きなんだ。
ああ、ごめん。
そろそろ、いいかな。
あんまり長いとドラコが変に思う。
久しぶりに喋ったから疲れた。
色々考えたから疲れちゃった。
次は……ごめんね。
もう、来ないでくれるかな。
ドラコが……ドラコは繊細だから、きっとしばらくおかしくなると思うんだ。
魔法省の担当の人が来た時とか数日浴室にこもったり、何日も何も食べなかったり、腕の傷見た? 時々自殺未遂をしたりするから……僕よりもオカシイところあるんだ。いい言い方をすれば、繊細なんだよね。
……ドラコ今どこにいるのかな。
ごめん、すごく心配になってきた。
うん、ドラコがいないと僕が生きていけないからさ。
ドラコは僕がいなくても一人で死んでいけるんだ。
ごめんね。
ロン。僕の親友。
僕を探してくれてありがとう。
僕は君達を、本当に大好きだよ。
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