8 告白された。 「窓辺で俯いている貴方の横顔を見た時から、貴方が好きです」 相変わらず知らない女の子から。 「……………」 とりあえず、もうこうなると僕のせいじゃない。僕は彼女に対して何もしていない。 もしこれが、前の時のように図書館で届かない本を取ってあげたとか、重い荷物を持ってあげたとか、転んで怪我していた子がいたから背負って保健室まで連れて行ってあげたとか、そういう接点がまるっきしない。あったとしても僕が悪いわけではないのだが。好きでもないのにそんな事をするなと責められたこともあるが……放っておくは僕の教えられたことに反するので、できない。 最近、溜め息を吐くことが多くなった。つい、ぼんやりしてしまう。恋は、悩み事の一種なのだと思う。 気がつくと物思いに耽っているけど、外を見て考え事するくらい自由にさせてくれ。勝手にそっちから好きだって言ってきて、僕が好きじゃないって言うと僕が悪いんだろ、どうせ。 気にするほどのこともないとは思うが、でもきっと彼女を振ったら僕が悪いことになるのだろう。気にしないが、傷ついたりはする。 被害妄想は自意識過剰の間違いだと常々思ってはいるが、でもどうせこの目の前の女の子の事を好きになれなかった僕が悪いんだろう。別にそれでいいけどな。もうこれ以上ないほど僕の醜聞は広がっているから。ただ、悪い噂は広まりやすく、ポッターの耳に入ったら少し嫌だと思う。外聞の悪い物は出来るだけ避けたいが……。でも彼女に優しくしようと、冷たくしようと結果は同じなのだ、きっと。 溜息が、吐きたくもないのに、どうやっても漏れてしまう。 それにしても、こんなことぐらいでいちいち……。考え事する自由ぐらい与えてくれ。何で考え事していたくらいで、僕が面倒な目に合わなければならないんだ。 今だってポッターと良く話をする中庭の見える窓辺で、物思いに耽っていたところだったのに。教室の窓を開けて、窓の桟に腰をかけて……ここから中庭が良く見えるから。 最近、すごく仲がいいから。ふと、思い返してしまって、嬉しくて。顔は、きっと綻んでいたと思う。 この前だって、今度ホグズミートに一緒に行く約束をしたし……何を着ていこう。別にデートするわけではないのだから、そんなに気取らなくてもいいのはわかっているのだけれど。あんまり張り切りすぎても引かれるだろうから、シンプルなタートルとジャケットで良いかと思う。ゴイルとクラッブには申し訳ないが、あんまりついてきて欲しくない気がする。一緒でも僕は構わないのだが、ポッターが二人がいるとあまり楽しそうじゃないから。ああ見えて意外と人見知りなのかもしれない。まあ、二人とも一緒にいても、僕と行きたい店が違うから僕は構わないんだけど。あいつらはケーキとかマフィンとかこってり甘いものが好きなくせにキャンディーとかグミとかちょっと変わった面白い付加価値があるお菓子を売る店でずっと物色しているから。僕ははっきり言ってまったく興味がない。次は服を見たいと思っていたからちょうどいいかもしれない。 最近、すごく楽しい。 だからつい、うっかり好きだって言ってしまいそうになる。 うっかりと。 もし、言っても、ポッターは受け入れてくれるんじゃないか、そう錯覚してしまうぐらい優しいから。 外で話していて、少し寒くなると、自分のローブを僕に着せてくれたりしたこともあったし。妙な錯覚してしまうから、嬉しいんだけど、やめて欲しい。その時の僕の心臓がどうなってるかなんてポッターは全然気がついてないのだろうから。気付かれても困るが。 そんなに僕に優しいから、ポッターが好きな子の話題をされると、本当に寂しい。 その子にも、こうやって優しくするんだろうと思うから。今僕に向けてくれるような笑顔を向けて、楽しそうに喋って、あったかい手で彼女の手を握ったりするんだろう、そう思うと……。 そう思いながら、一人で百面相をしていることが増えた。 一人で、泣きそうになっていることも増えた。まだ涙は零した事はないが、何度か危ない所だった。 この、僕のことを好きだという女の子に考え事を邪魔されたのには腹が立ったが、どうせどうにもならないろくでもない事を考えていたので邪魔されたとしても、大して怒るほどのことでもないが。 ただ、面倒だ。 僕は、最近気分の浮き沈みが激しくて、さっきもポッターが同じ寮の女の子と話をしているのを見たから、僕の機嫌は最悪だった。上級生のようだった。ただポッターの言っていたポッターの好きな人と外見的な特徴が少し違うような気がしたから、きっと彼女ではないのだろう。そう思うと、少しだけ安心した。あんまりポッターは彼女のことについては教えてくれないから。肌が白いとだけしか知らない。だから有色人種ではないのだろう。一緒に居た人は褐色の肌をしていたから。 それにしても目の前のこの子は勇気のある。ここは、人通りだってあるのに。 ネクタイの色からすると、レイブンクロー。 栗色の髪の毛がふわふわして、目が大きいのが特徴的な女の子だった。 いつもの通り、さっさと諦めてもらう予定だった。何て言おう。いつも、僕はどうやって断っていたっけ。 考えるのも面倒だ。 ……ただ。 もしかしたら彼女も今僕と同じ気持ちなのかもしれないと、思ったら。 もしかしたら、僕が今抱えている気持ちと同じ感情を彼女も持っているんじゃないだろうかと思ったら。きっと、そうなんだろうけれど。彼女が僕を好きなように僕がポッターを好きで、その比重なんて誰も計れないけど……それでも同じ気持ちを持っているのかと思ったら……。 まあ僕よりも異性であると言う点に置いては彼女には希望があって、想いを伝える事ができるぶん有利なのだろうけど。 でも、彼女は今、苦しい気持ちなのかもしれない。そう、思った。 僕のことを考えてくれるのは嬉しいけど。でもそれは要らない。僕が欲しい気持ちはただ一人からで、どんなにたくさんの好意を受け取るよりも、どんなに深い愛情を僕に送られるよりも、今僕は、ポッターが笑ってくれた方が何倍も嬉しい。 世界中が僕の事を嫌いでも、ポッターが僕の事を見てくれるなら、きっとそっちの方が嬉しい。 彼女の想いが僕のと重なった。 きっと、今の僕と同じ気持ちなんだ。 気持の分量なんて、誰も量れないからわからないけど。 どうしよう。 冷たい言葉で突き放すことなんて出来なかった。いつもなら、嫌われることが良いことだって思っていたのに。別に今でも嫌われることに対しての恐怖心は微塵もない。僕を嫌ってくれるなら、彼女が傷つく言葉も選べそうだったけれど。 でも僕が言われたら、凍えてしまいそうな言葉は言えなかった。 嫌われることが僕の優しさなのかもしれないけれど……ポッターに言われたら、僕はきっと凍ってしまう、そう思うと……僕のボキャブラリーに彼女を突き放す言葉は存在しなかった。 「……時間をくれないか」 僕が、ようやく吐き出せた言葉は、一番情けのないもの。 「………希望はありますか?」 「期待はしないでもらいたい」 断ることが出来なかった。 彼女が傷つくのと同じように、僕も今心が痛いから。 君なんか要らない。 ただ、それだけ言うだけ。今まで相手の気持ちなんか考えたこともないし、考えてもわからなかったから。 君なんて要らない。僕が欲しいのは……。 「近いうちに返事をするよ」
この話……ジュディマリのジーザスジーザスを妹がカラオケで歌ってた時に思いついたネタ。 |