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 中庭に、向かった。

 今日は、ポッターと話があるから苦手な授業中でも機嫌が良かった。昨日からけっこう機嫌が良かった。テストの山を教えてくれと泣きつくゴイルとクラッブにも嫌がらずに教えたし、授業で宿題が大量に出されてもまあいいかという気分。
 昨日、ポッターは機嫌があまり良くなかったけれど、今日は元気になっているだろうか。
 昨日の夜は早めにベッドに入り、ポッターを元気付けるようなことが言えるように色々と脳内シュミレーションをした。まあ、朝食の時に顔を合わせた限りではいつもと同じようだったから僕の昨日の布団の中での一人作戦会議は無駄になるのかもしれないけれど、でもポッターが元気ならそれでいいと思う。
 何があったのかはわからないけど、ポッターが元気であればそれが嬉しい。できれば僕が力になりたいけど。

 それにしても……さっきの授業が演習で教室ではなく屋外だったから、しかもいっぱい動いたから、今日は暑かったし……鏡を見ていった方がいいだろうか。髪の毛がぼさぼさだったり、ネクタイが曲がっていたりしたら嫌だし、汗臭かったらもっと嫌だ。ポッターはこんなこと気にしないだろうけれど、なんとなく僕が気になる。僕の襟がよれていたとしてもポッターが気がつくはずもないけれど、それでも。
 一度部屋に戻る時間はないけど、すこしトイレによって鏡を見ようかと思ったら。




 廊下のずっと先の角をポッターが曲がってきた。
 前を歩いているのは、ポッターだ。
 後ろ姿が見える。あのぼさぼさは間違いない。あれはポッターだ。


 僕は呼び止めようとして口を開きかけた。


 ポッターの隣りに、彼の肩ぐらいに黒い頭が見えた……。


 ポッターが、誰かと話をしていた。


 エキゾチックな黒髪と黒い瞳のチャイニーズ。
 可愛い女の子だ。
 僕も嫌いじゃない。よく、誰が可愛いかについて議論をしている場面に出くわすが、彼女の名前はだいたい上がる。僕はそんな談義に参加したことはないけれど、談話室にいるとよく耳にするから。

 ただ、楽しそうに話ながら歩いている二人を見て、僕は立ち止まってしまった。

 そのまま呼び止める事もできたのに。そのまま僕が二人の会話に加わることだって、できたのだと思う。
 僕とポッターは仲が良いと言う事はもう今更隠す必要はないし、廊下で会えば笑顔で挨拶もできるし、そのまま話したりもする。そんなことはもう簡単な事なのに。
 どっちかと言えば、ポッターと天敵同士だった時のほうが、気安く声をかけられていたんじゃないだろうか。

 僕は、歩くのをやめてしまった。追いつこうなんて、思えなかった。
 僕はどうしたんだろう。

 どきどきした。

 ポッターが隠している好きな女の子は彼女だろうか……。
 あの子は可愛いし、人気もあるし、頭も良いのでポッターには似合うと思った。彼女なら頭もいいので話題も豊富そうだし、二、三度話したことはあるけれど、彼女は珍しく苦手だと思わなかった。グレンジャーみたいにでしゃばった感じもないし、落ち着いているし。

 でもなぜか、もっと可愛くて頭の良い子だっているのにとか、そうも思った。



 彼女だろうか、ポッターの好きな人は。



 彼は話していて面白いし、優しいし、不真面目そうだけど話してみると性格は真面目だし、それなりに顔だって格好いいし、魔力だって強いし、勉強しないだけで教えればちゃんとわかるし、それに好きな子のことを真剣に考えているし……僕にもさんざ惚気られた、具体的な事はなかったけど、どのくらい真剣に恋愛しているのかとか僕は良くわかっている。

 ……彼女だろうか。





 羨ましい。


 いいなあって。

 そう、思っていた。


 僕は……。






 僕が歩いていく方向と同じだったからポッターは中庭に向かっているようだった。
 僕に会うために。


 約束したから。
 僕も彼と会う放課後が楽しみで。




 彼女が好きな人なのだろうか。
 彼女が好きなのか? そう聞いて冷やかしてみようかと思ったけど。



 どうしよう。

 心臓が痛い。

 心拍数が上がってくる。

 なんだろう、また風邪でもひいたのだろうか。
 あまり身体は丈夫な方ではないから、気をつけていたのだけれど。
 最近は暖かいからずっと調子が良かったのに。


 胸が痛い。


 僕は、今どんな顔をしている?
 鏡なんか見たくないけど、きっと嫌な顔をしている。

 彼女を羨ましいと思った。

 ポッターとあんな楽しそうに笑いながら話していて、肩を並べて歩いていて。
 僕だって、最近は……。






 そこは僕の位置だって言いたくなってしまう。
 別に、ポッターの横はまだ誰のものでもないのに。
 もしかしたら、本当は彼女のものかもしれないのに。



 僕は、昨日から楽しみにしていたのに。
 今僕も行く所だったけど……。














 
 僕は逃げるように、走って部屋に戻った。

 約束してたんだけど。



 なんだか楽しそうだったし。
 ポッターだって、もし彼女が好きな人だったら僕なんかと話をしている場合じゃないから、来なかったかもしれない。当たり前だ。僕は彼女のついでなんだ。彼女の事が好きだから、僕に相談を持ちかけただけなんだから。優先順位が僕は上じゃないんだから、来なかったかもしれない。あんなに楽しそうだったし、きっとポッターは彼女が好きなんだ。



 僕は、部屋に戻る早々、布団にもぐりこんだ。

 ゴイル達が夕ご飯を呼びに来たけど無視した。





 布団の中で考える。
 僕は今日、約束を破ってしまった。
 昨日から楽しみにしていたのだけれど。つまらない事だけれど、でも話したいことがたくさんあった。すぐに忘れてしまいそうな些細なことだけれど。









 思い出すのはポッターのことばかり。



 一緒に話した内容とか。

 僕が人を好きになるってどんな感じかって、聞いた事があるけど。
 僕の初恋はいつかって聞かれた時に、僕はまだ誰かを好きになったことがないから、正直にそう答えた。そうしたらポッターは驚いた顔をしていたけど。遅くて悪かったな。大器晩成だ。別に初恋が遅かったぐらいでどうということもないはずだ。
 今まで女の子を鬱陶しいとしか思わなかったから、恋愛なんてしたいなんてちっとも思ったことなんてなかったのだけれど、ポッターが苦しそうだけれどとても毎日楽しそうで、充実しているようだから、少し興味を持ったのも事実。



『何をしてても手に付かなくなって、やらなきゃいけないことがあっても、その人の事しか考えられなくなるんだ』

 あの時、ポッターはどこかを見ていて、少し照れたように笑っていた。
 ポッターの声をしっかり覚えている自分の記憶力の良さに感謝する。ちゃんと声まで、言い方まで覚えている。

 今日はポッターと何を話したとか、何回僕の話しに笑ったとか、そんなことを思い出すと顔が緩んでしまう。



『その人の事を考えると、胸が暖かくなるんだ。笑顔を思い出すと優しい気持ちになれる』

 笑ってくれたのが嬉しくて、その気持ちをぎゅって抱き締めたくなる。もっと笑って欲しくて、ちょっと事を大げさに話したりする。最近僕の笑う量も十倍ぐらい増えたような気がする。



『話すと一日がとても幸せになるんだ』

 ポッターと話した日は、何か嫌な事があっても、そんなに機嫌は悪くならない。ゴイルやクラッブに八つ当たりが最近かなり減った。
 今日、話をしたんだと思って嬉しくなるから。なんだか、そんなにイライラしないし。




『でも、誰かと仲良さそうなところを見ると、立ち上がれないほど落ち込んじゃってさ。その相手のこと嫌いになりそうだし』

 今日、一緒にいた彼女のことが好きなのかな、やっぱり。
 僕は、今落ち込んでいるのか?
 ポッターは誰のことを好きなのか知りたいってずっと思っていたけど、僕は彼女のことを今なんだか歪んだ感情のフィルターを通して見ていないか? 本当に知りたいって思っていたけど、知ったらその彼女のことをあまり良く思えなくなってくるなんて……。



『嫌われてるのかと思うと、死にそうだよ』
『そんなに大袈裟なことなのか?』
『生死に関わりそうだよ。不意に優しくされると心臓止まるもん』


 そう言って、ポッターは笑った。
 笑って僕を見た。

 じっと僕を見つめてくるから、ポッターの瞳の色は深い緑色なんだなあって、そんなことを観察してしまったりして。

 その時、ポッターが僕の頭に手を伸ばしたから、何をされるのかと思ったら、
『ゴミがついてたから』
 そう言って、髪の毛を触ってくれた。ゴミを、取ってくれただけだと思うけれも、でもそのまま少し僕の髪の毛に触れていたみたいだったから……、なんだかそれが嬉しくて目を細めてしまった。









 僕は………。
 ポッターが言っていた意味を理解してしまった。











 ………僕は。

















今回、「」1個もないね……
そんな話が果たして面白いのか
私の更新ポリシー。一ページ2000文字以上
2000文字以下なら短くて物足りない気がする。
でも5000文字以上だとスクロールバー見て飽きる。
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