15





















 あれから数日経つが、ハリーからは何もない。


 僕が目を合わせても逸らされる。

 声をかける間もなく、いなくなってしまう。

 避けられている?
 いや、疑問形にして自分の心を慰めようとしても無駄だ、完璧に避けられている。僕がどうにかして彼と接触を試みようとしても、僕が彼を見つけるよりも早く彼が僕を確認していなくなってしまっているようだ。後姿は良く見かけるから。





「ハリー」

 僕は廊下で向こうから親友達と歩いてきているハリーに声をかけた。
 けれど………。


 ハリーは、僕が見えていないかのように、僕が呼んだのが全く聞こえなかったように、僕の横を通り過ぎた。




 何なんだ。



 僕から何かを話しかけても、目の前で無視されたり、食事の時間もこっちなんか全く気付きませんて、そんな態度で。

 はっきり言って、これは仲良くなる前の状態よりもひどいと思う。

 すごく落ち込む。


 僕は確かに好きな人がいるっていうことを、秘密にしていた。
 誰にも喋る気なんかなかったけど、言ってしまった。

 何でも話せる友情という奴を築いていたから、僕に秘密があったということに、裏切られたと感じてしまっても仕方ないことだと思う。
 僕が彼を裏切ってしまったんだ。



 一言でもいいから、謝りたい。

 口もきいてくれないこんな状態には、僕はもう耐えられない。


 せめて謝らせて欲しいのに、近付けば逃げられてしまい……。

 最近、ハリーは元気がないし。

 ハリーが好きなんだ。元気が無いことぐらいすぐにわかる。

 僕と喧嘩した事で悩んでいるのか、それとも好きな人とうまくいっていないかのわからないけど。
 ぼんやりしていたり、溜め息をついたり……授業中も指名されても気付かなかったり、実験中鍋を爆発させる回数が増えたり。


 なんだか時々、泣きそうな表情で僕を見ていることもあるのに、僕と話もしたくないようで。


















 僕はだんだんイライラしてきた。






 確かに、僕はハリーに好きな人がいる事を秘密にしていた。それについては謝ろうと思う。いくらだって謝る。気が済むまで頭を下げてやろうと思っている。隠していたことに対して、多少僕だって後ろめたい気持ちもあったんだ。ハリーが嫌になるくらい謝ってやるさ。
 でも告白なんてできなくて、想いが伝えられなくて叶わない恋なんて、相談をする必要性も無いから。そのうえ本人になんて、とても言えないから。


 だけど、ハリーだって僕に好きな人が誰だか教えてくれなかったじゃないか。


 僕も悪い事があるけど、そっちだって同じように自分勝手じゃないか。




 一言言ってやらないと気が済まない。




「ハリー」

 僕はグリフィンドールとの合同授業が終わった後すぐにハリーの所に行って、声を掛けた。

「ハリー、話があるんだ」
「僕にはない」

「………」

 その即答はきっぱりとした断定だった。

 久しぶりに聞いた声が、そんな言葉だった。


 僕は固まった。


 仲良くなる前なら、僕だって心に覆いをしていたから、ハリーに何を言われても傷つかなかった。もちろん腹が立つぐらいはあったけれど。

 でも、今はハリーが好きなんだ。

 君の一挙手一投足に振り回されているんだ。

 そんな冷たい声で、そんなことを言われたら僕は……。


 ハリーが立ち上がっても、僕は動けなかった。
















 頭に来た。


 本当に、何なんだよ。

 相談に乗って欲しいって言い出したのはそっちだろ!
 そりゃ確かにさ、ハリーの事を好きになったのは僕の勝手だけど、好きじゃなくても、仲良くなりたいってそっちだって言ったじゃないか。

 秘密の一つや二つなんだよ。
 お前だって、僕に好きな人が誰だか教えてくれなかったじゃないか。

 お前はよくて僕は駄目ってどういう理屈だよ!








 気がついたら、ハリーは教室から出て行ってしまっていた。


 一言言ってやらないと気が済まない。
 もう謝ってなんかやらない!




 僕はハリーを追って走り出した。

 後ろ姿を見つけたから声をかけると、ハリーも僕が走っているのに気がついたらしく、ハリーも走り出した。

 逃げるなよ!


 そんなに僕がひどいことをしたか?

 口も聞きたくないし、僕を視界に入れたくないようなその態度に、傷ついた。それなのに加害者は僕で被害者は君か?


 何なんだよ。

 自分勝手なのもたいがいにしろよ。





 あんな厄介な奴の事なんか、何で僕は好きになったんだ。昔はちゃんとあんなに嫌いだったじゃないか。
 もう一度嫌いになればいい話じゃないか。






 ハリーの後ろ姿が小さくなる。


 追いかけるのも、もうやめよう。
 謝らせてもくれない相手だなんて。

 だって僕は悪くない。それほどは。



 もう、諦めるんだ。いいチャンスじゃないか。こんな思いのまま諦める機会なんてずっと来ないままずるずるとハリーが好きで、ハリーは可愛い女の子と恋人になって幸せそうに笑っている所なんて見なくたって済むんだよ、このまま喧嘩していれば。

 忘れようって思ったけど。



 こんなに好きになってしまったんだ。
 忘れる事なんかできるのか? ハリーが僕のことを嫌いになるなんて考えてなかったけど……。
 ハリーが僕のこと、もう話もしたくないぐらい嫌いになったとしても、僕は………。


 今だってこんなに好きなのに。





 僕は足が止まっていた。



 もともと、ハリーに僕のことを好きになって欲しいなんて大それた事は望んで無いんだ。
 僕は勝手にハリーを好きなんだ。

 僕の気持ちをこんなにハリーに向けさせておいて……。なんて勝手な奴なんだ。

 今だって僕はハリーのこと。





 切ない気持ちと、ハリーの自分勝手さに頭に来たのと、謝りたい気持ちと、ハリーを好きな気持ちと……。







 僕は、情けのないことに、泣いてしまった。















0612