10 この前のことを思い出しながら、ポッターの事を考える。 ポッターが不機嫌なことが僕のせいじゃなくて、本当に良かった。僕は今までよくポッターの怒りを買っていて無事で済んでたなあと……そんなことも思った。本当に怖いのに。僕が怒らせたわけでなくて本当に良かった……けど。 なんだか腑に落ちない。 僕は、彼の相談に不本意ながら親身になってあげているというのに。まあ、本心を言えば彼女なんて作って欲しくないから、けっこうおざなりな返答ばかりかもしれないけど、それでも勝手にしろとか、どっちでもいいんじゃないかとか、そういう発言は極力控えるようにはしている。もともとは僕がポッターに借りを作ったことが原因なのだけど、でももう今はそんな借りなんかは綺麗さっぱり返し終わって、ポッターとの友情を見事に作り上げていると思っているのに。 でも僕が相談しても、あまり対応が良くなかった。ちゃんと謝ってもらったけど。それでも、僕が本当にどうして良いのかわからなくて困っていたというのに、ポッターは態度がひどく冷たかった。あの後ももう一度僕がどうしたら良いのか聞いてみたけど、また少し機嫌が悪そうな顔をされたから、僕は黙るしかできなかった。 友達としても想いの深さが違う気がした。 もちろん僕は彼のことが本当に好きで、ただ近くにいるだけでいいから友達のふりをしているけど、ポッターは僕のことをただの友達だと思っているのだから、深さが違うのは当たり前の事だけど。友達にしたって、ポッターには親友だと豪語する二人がいるのだから、友達のレベルとしても三番目ぐらいなんだろうし。 なんとなくだけど、腑に落ちない。 そうだ、彼は自分勝手なんだ。昔からわかっていたじゃないか。英雄気取りの嫌な奴なんだ。 あんなに嫌いだったんだから。 ポッターのことを知らなかっただけだとしても、あんなに嫌いだったんだ。やっぱり良い奴だとか思っているのは最近ちょっと優しくされたりしたから。ちょっと僕の気の迷いが生じているだけだ。 本当はやっぱり嫌な奴なんだ。だからあんな奴の事でこの僕が心を痛める必要なんかはないのだ。 あっちだって男の僕なんかにこんな事を想われていて、僕の気持ちを知ったらきっと気分が悪いだろうから。 忘れよう。 この想いはやっぱり封印しないと。 友達として付き合っていくのも悪くないじゃないか。僕がいくら好きになってもどうしようもないんだし。 もう、情緒不安定で疲れたから。 忘れよう。 …………それでも 「ドラコ」 名前を呼ばれると、それでもつい顔が綻んでしまう。 僕は、相変わらず授業が終った後課題も予習もなければ、中庭に向かうようになっていた。そんな習慣が出来ている。しかもできる限りこの時間を空けたいがために、夜必死で終らせることが多い。まあ、一緒に図書室って言うこともありなんだけど。 「やあ。今日はレポートの提出はないのか?」 「この前はありがとう、手伝ってくれて。今日は違うよ」 最近、会う度にレポートのアドバイスや試験対策など教えていたから。 ポッターが僕よりも成績が悪くて良かった。こうやって教えてあげることを口実に彼と話ができるから。どうやらグレンジャーは教えるのはあまり上手くないらしいので、そんなグレンジャーにも感謝。 そう思っていたのだけど……。毎回僕はそのためにいるんじゃないなんて、少し思わないでもない。借りを作ってしまって、ポッターが彼女に対しての相談交じりの惚気を聞かされて、そんなのと同じように、僕はただポッターに使われているんじゃないだろうか。 ……まあ、一緒にいられるだけで嬉しいのだけど。 こいつは勝手なやつなんだから、こいつの言動で僕がいちいち喜んだり悲しんだりする必要なんか何にもないんだ。 恋愛をしているのに、友人のことにいちいち気を使っている場合じゃないのは僕が一番よくわかっているんだ。僕はただの相談役で、こいつは僕のことなんて本当はそんなに気にしてないんだ。 僕のことなんかちっとも考えてないんだ。 そんなことにイライラして、この前僕のことを好きだと言ってくれた女の子には、まだ何も言っていない。 どうやったら傷つかないでくれるのかわからないから、僕は本気で相談したのに。そんな理由から、彼女のことを放置している。ポッターが僕に八つ当たりしたように、僕が彼女に八つ当たりしているようなものだ。申し訳ない。 どんどん気分が暗くなって来る。 話題を変えよう。 「そういえば今度休みに家でパーティーがあるんだけど、この前母上に赤いクロスタイを頂いたんだが、深緑のお気に入りのスカーフがあるんだ。どっちの方がいいだろう」 僕は努めて明るい声で言った。 僕の家はパーティーが多い。偉い役人とかも来たりしているし、家自体が上流階級に含まれるし、その中でもマルフォイはもともと旧家として名高いから、呼ぶ人数も半端じゃないし、呼ばれて出向くことだって頻繁だ。今はまだどこかにいく場合は父上と一緒だったり母上とだったりするけれど、そろそろ一人で行かされるかもしれない。華やかな場所だし、あまり同じ家に住んでいても顔を合わせない父上も母上もいらっしゃるから嫌いじゃないけど……作り物の笑顔を貼り付けるのは面倒。 その時の服装だってわがままを言えば勿論通るが、特にどうでも良くて、侍女達が僕をおもちゃにしている感があって頂けない。 おかげで家に帰る度に髪形を変えられてしまう。 だから、まあクロスタイでもスカーフでも別にどっちでもかまわないんだけど。勝手に着付けられてしまうし、選ばせてくれるとしてもだいたい当日の気分だし。 今はただ、話題が見つからなかっただけで。 「クロスタイかあ。赤も似合いそうだね。どんな色なの?」 「ベロアの真紅だ。黒のスーツには合うだろうけど、ちょっとラフに襟のボタン外してスカーフ巻くのも最近気に入っているんだ」 勿論それ以外もたくさんある。だいたい母上や母上の御友人からの贈り物だ。ただ、緑のスカーフだけは気に入ってこの前自分で購入したもので。 スカーフに合うブラウスも買ってもらったし……。 「お母さんからもらったっていうの、まだ使ったことないんでしょ?」 「そうなんだ。頂いた物だから、使って差し上げると喜んでくださるから……」 どっちにしても、かまわないのだけど。 ただ、少しでも僕のことを考えて欲しかったから、少しでもポッターの気持ちを僕に向かせたかったから。ポッターの好きな人じゃなくて、僕を見て欲しかった。 「赤い方がいいんじゃない? 華やかで。ドラコは肌の色も白いんだし、華やかな赤の方が似合うと思うよ。緑はどんな色なの?」 「その緑のスカーフは……」 僕は周囲を見回して近い色を探した。 木の葉の緑とも、芝の緑とも少し違う。もっと深い。 僕は、僕を見つめてくれているポッターの視線が恥ずかしくて、俯いていたが、ちょっとだけ、彼を見た。 ああ、そうか。 だから、気に入ったのかもしれない。 「………ポッターの目の色に近いかな、その緑は」 「…………」 突然、ポッターの顔が真っ赤になった。 どうしたんだ? 僕は何かまずいことでも言っただろうか。 「み…緑もいいんじゃ、ないか、な……」 「ただ、せっかく母上に頂いたんだし」 「緑の方がいいよ、きっと」 「ポッターはそう思うか?」 さっきは赤って言ってなかっただろうか。 「うん。きっと似合うよ」 ポッターは、にっこりと笑った。 僕に向けて笑ってくれたから。僕はふわっと気持ちが軽くなる。 僕は、どっちだってかまわないけど。 ただ、ちゃんと僕のことを考えてくれているのが嬉しくて、今度のパーティーには緑のスカーフにしようと思った。赤のクロスタイはこの次でいい。 この前相談したのは、ただ間が悪かっただけだ。 僕だってもしポッターが告白されてたりしたら、きっと機嫌は最悪だ。もしそれがポッターの好きな人でなかったとしても、きっと気が気じゃなかったに違いない。八つ当たりの対象は昔からゴイルとクラッブだから、ポッターに八つ当たりとかはしなかったかもしれないけどでも機嫌は悪かっただろう。 自分のことしか考えていないのは僕だって同じじゃないか。 仕方がないんだ。 人を好きになるってそういうことなんだ。 やっぱり、大好きだ。 心の中で、呟いてみる。 口には出せないけど。 嫌われてしまうだろうから、伝えられないけど。 「それよりもさ、いつになったら僕のこと、ファーストネームで呼んでくれるのかな」 「………」 僕が赤くなるのを、僕はしっかり自覚した。 「えっと……」 「そろそろ、名前で呼んで欲しいなー、なんて」 「あ、えっと」 心臓がドキドキ脈を打っている。 「この前もはぐらかされたし」 この前も言われたから、他の話題に転じてしまった。あの時も、ポッターの好きな人の話題に逃げたんだ。他にポッターが飛びつきそうな話題なんてあまり思い浮かばない。 名前を呼ぶだけなのに。それがこんなに簡単じゃないなんて。 「ハ………」 心臓が、バクバクしている。 「ん?」 ポッターが……僕の顔をのぞき込むようにして、笑顔を作って、僕の顔はますます赤くなる。 「ハリー………?」 「なあに?」 うわーっ。 呼んでしまった。 ファーストネームで呼んでしまった。 すごく顔が熱い! 絶対真っ赤になってる! 血液が熱くなって来る!! 名前を呼んだだけでこんなに血が熱くなってしまうのだから、告白なんてしたらきっと僕の血は沸騰して死んでしまうんじゃないだろうか。 「……ハリー………って僕が呼んでも変じゃないか?」 「大歓迎だよ」 ポッター……ハリーは、気分を害した風もなく僕に笑顔を作るから。 なんだか嬉しくなってしまった。 僕は、本当に彼のことが好きなんだ。 伝えることはできないけど、今はこの気持ちを大事にしたい。 私のイメージ。ドラコはお洒落さんなのでコロコロ髪型が変わるといいと思う。 |