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 その後しばらく、僕は呆然としてしまって彼が話したのかあまりよく覚えてない。
 普段なら僕が会話を途切れさせたりすると、見えているのではないかと思うほど目敏く僕の顔色を伺って、どうしたのかと聞いて来るのに。
 気付きそうもない。夢中で。
 本当に、好きみたいだ。
 楽しそうにクィディッチについて話す彼を今日は僕は見ている。いつもと逆。



 僕のファンだと言った。

 もしかしたら、彼の記憶から僕は消えているのではないか?

 だってドラコが僕のことを好きなんてありえないから。
 そう、思ってなんだか切なくなった。

 ドラコにとってハリーはクィディッチの選手として存在しているだけで、こうやって話しているのはニコラスという別の人間なんだ。

 切なくなって、それでもさらさらと揺れる銀の髪が光に透けてとても綺麗で、指を伸ばしてやめた。

 そんな僕にはちっとも気付かないで……もちろん見えないんだから気付く訳がないし、気付かれても困るけど……ドラコは楽しそうにクィディッチのお喋りをしていた。

 目の前にはドラコにとってのニコラスがいるはずなのに、ドラコはずっとクィディッチの選手であるハリーの話ばかりだ。いつもは、相手のことばかり考えて、気を使いすぎるほど遣っているというのに……。ニコラスとは、ライバルなんだよ。

 ドラコはハリーと、クィディッチの戦略について、真剣に、楽しそうに話していた。さすがはスリザリンのチームに居ただけあって、戦略については僕なんかより頭が良い。今度チームに提言してみようと思う案ばかりだ。

 ドラコはさっきから僕の話に夢中だった。僕はここにいるのに。
 ニコラス本人とならきっと話が合っただろう。あいつも僕を目指して選手になったと公言していたから。ニコラスはキーパーだけど。

 褒められてファンだと言われて嬉しくないはずがないけど、一緒になって僕の事を褒めるのは憚られる。

 ハリーはかっこいいよね、と蕩けそうな笑顔で僕に言われても、抱き締めてしまいそうになるくらい嬉しいけど。
 ドラコにとってハリーは僕じゃないから。



「そんなにかっこいいって言っても、見たことあるの?」
「なんか刺がある言い方するな?」
「だって空を飛ぶ姿が……」
 すごく気持ち良さそうだとドラコは言った。

 もし、視力が無くなった時に僕に関する記憶とか無くなってたら、僕の姿を見た事がないはずだから。
 本当は根掘り葉掘り、ドラコについて色々聞きたかったけど。
 ずっと嫌な奴だと思ってたから、今までなにも知らなかったけど。こんなに話していて楽しいと感じるなんて思わなかったし、ドラコは気を悪くするだろうからあまり言わないけど、一目惚れなんだ。男同士でこんなこと、おかしいかもしれないが本当に綺麗でずっと見ていたいと思ったのは事実。学生のころはずっと気付かなかったけど。宝石が好きなの女の子と一緒あまり変わりないかもしれない。
 こうやって友達として、ニコラスとしてでも、ドラコと話していることが、とても楽しかった。

 本当は、ずっと前から友達でいることだってできたのかもしれない。
 僕が、ドラコを見ようとしていれば可能だったかもしれない。
「あるよ」

 ドラコは、さらりと言った。僕の記憶がない訳では無いらしい。
 僕は例のあいつを倒した事でクィディッチの選手として以上に、魔法界での英雄扱いだから、それを知らない人なんか魔法界にはいないくらいには有名だから。僕のことを知っているのはいつからなんだろう。
 見たと言うならば、ちゃんと僕の事を覚えているんだ。それを確認したかった。

「いつから、ハリーのファンなの?」
 ふとした疑問。
「………」
 間が空いた。
 ドラコは頭が良いから、どんな話でも、難しいことでもすぐに答えを返してくれていたから。
 少し、不躾だったかもしれない。
 本当は、いつ僕を見たのかが知りたかったけど。

「あ、別に答えられないならいいんだけど」
「いや、そう言う訳ではないんだが……いつから、て訊かれると、いつからなんだろう」
「別に無理に答えなくても良いよ」
 少し意地の悪い質問をした。ドラコがもし、僕のことをちゃんと覚えているなら、僕との関係を隠している。そう、思えたから。

「……まあ、普通にハリーが選手として活躍し始めてからだよ」
「ドラコが視力無くしたのっていつ?」

 ドラコは卒業しなかったから。その前に家が無くなったから。きっと目が見えなくなったのもそのころ。その後、僕が卒業してから僕が選手になったのだから。
 ドラコは僕の事を覚えてくれているのだろうか。
 彼の記憶の中に、ちゃんと僕が存在しているのか知りたかった。
 

「何でだ?」
「なんとなくだよ」

 ねえ、僕のこと、覚えてる?

 そんなことは訊けないけど。
 僕はニコラスだから。












 僕は、会える日は必ずドラコに会いに行った。不意の休みの日なんかも、行けば必ず彼はそのベンチに座っていて、僕の足音を聞いて微笑んだ。

 僕はそこそこ顔が売れているから、ドラコがいる前で誰かに名前を呼ばれないように、僕のトレードマークの眼鏡を外したり、魔法で髪を伸ばしてみたり色を変えてみたり。
 名前が知れているとこういう時に不便だ。
 ドラコは僕がどんな姿でやって来ても、足音で僕を判断するとにこりとほほ笑んでくれる。

 彼女はいないのかと訊かれたが、ドラコと話している方が楽しいから別れたなんて言えなかった。勿論彼女と呼べるほど仲がよくなかったかもしれないが、その時は結婚したいとも思っていたけれど……。

「そろそろ試合始まるな」
「ああ、そんな時期だね」
「しばらく会えなくなるな」
「うん」
 そろそろリーグが始まる時期だ。いつもは始まるのがすごく楽しみなのに、彼としばらく会えなくなることが少し切なかった。
 試合中は一か月くらい休みは完全になくなるし、その前の一か月は合宿があるから、二か月は会えなくなると思うと寂しくなる。

「頑張れよ」
「応援してくれるの?」
「ハリーの次にな」
「やっぱり」


 僕は笑った。

 ドラコが僕を応援していてくれるなら、死ぬ気で優勝してやる。














0610