17





















 目覚めると、隣りにドラコはいなかった。
 僕よりも先に目覚めるのはいつものことだから、大して気にしていなかった。
 ただ、目覚めた時に彼の姿がないのは、やはり少し寂しさが募る。目覚めは彼のキスがいいのだが、其処までは口に出して望んでいるわけではない。頼めばもしかしたら叶う願いなのかもしれないが。

 想いが、通じた。
 昨日、彼は僕に気持をくれたんだ。
 ドラコが、僕のこと好きだって言った。

 僕のこと、ハリーだと認識しているわけではないけれど、でもハリーだって呼んでくれて、僕を抱きしめてくれたんだ。

 僕は、嬉しさのあまり、ドラコがさっきまで寝ていたはずのその場所をそっと撫でる。まだ、温もりがあるような気がした。昨日、彼を抱きしめた時と同じ暖かさを感じた気がした。







 着替えて、ダイニングに行くと、そこにもドラコの姿はなかった。

「ドラコ?」

 呼びかけてみたけれど、家の中はシンと静まり返っていて、人の気配はなかった。ドラコがいる時は、家中の色々な部分が魔法で動いているのだが、どこもなにも動かず、静かにしていて……彼が今家にいないことがわかった。

 テーブルの上に、紙が一枚乗っていて、簡単に「薔薇の様子が気になるので先に行く」とだけで、それ以外何もなかった。

 学生の頃、授業中に回された彼からの嫌がらせの手紙の方がまだ凝っていた。
 本当にシンプル。
 僕の事を好きだといってくれたのに。
 その、次の日だと言うのに……。
 いつも通り。

 彼は、いつもと同じ。僕だけが舞い上がっている。

 想いの深さが違うのだから、それは仕方がないことなのだけれど。それでも、僕は何らかの彼からの反応を期待しているのだ。出会った頃からすると、大それた野望だというのはわかっている。

 いつも通りに、少し寂しさを覚える物の、そんなことも今までで何度かあったので、気にしていなかった。
 僕のことも大切にしてくれているけれど、今までは友達として大切にしてくれて、今では……これからは彼の大好きなハリーに似ている恋人として僕を大切にしてくれているのだろうけれど、世話をしている薔薇や、魔法薬の事に関しては、集中し始めると彼は自分の世界に入り浸ってしまい、僕が何を言っても其処に僕が存在しないかのように扱われることもしばしばあったから。
 あの円形の温室の青い薔薇の様子が気になっているのであれば、それはすぐに行ってしまうだろう。
 仕方がないことだ。

 僕は、気にしていなかった。
















 練習を終えてドラコの家に帰ると、いつもはドラコが僕のために灯をつけておいてくれるのだが、今日は、真っ暗だった。
 僕よりも後に家に帰ることなどはないから。
 彼は一日のうちのほとんどを、この家の中で過ごしているから。


「ドラコ?」


 鍵は開いていたから、勝手に上がった。鍵が開いてなくても、僕は勝手に彼の家に居座っている。
 もしかしたら、どこかで倒れたのでは? と、一抹の不安を覚える。彼がいなくなる事を考えると、僕の血液は凍り付いてしまう。それ程の恐怖。吸魂鬼と会った時よりも、強い恐怖。

「ドラコ!」

 声をかけると、中では人の気配があり、動く気配もあったから……帰っていたようだ。よかった。僕は、まだ彼の側にいることが出来る。この安堵を感じる為に僕はできる限りドラコの家に行く。


「おかえり。今日は、どうだった?」

 いつも座る椅子の辺りから、ドラコの声が聞こえた。彼が、いつも僕が帰ってくると投げかける言葉。いつもと変わらない。
 明かりを、つけるのを忘れただけだろう。大丈夫。いつもと同じだ。

「今日は練習だったよ。補欠の子が暴れ玉に当たって大変だったんだ」
 僕は、いつも通りに今日あった出来事を話す。些細なことでも、彼はクィディッチのことについて、とても面白そうに、興味深そうに聞いてくれるから、僕はそれが嬉しくて本当に細かいことまで思い出して、彼が笑ってくれるように、彼の笑顔が見たくて、少し大げさに話す。

 ただ……。
 何だろう。

 違和感。

 少しドラコの声が震えていなかったか?


 僕はそっと灯をつけた。明かりをつけると、ぼんやりと部屋の空気が和らぐはずなのに。蝋燭の緩めのふやけた光の下に晒されて、部屋が浮き上がって見えてくる。
 いつも、この中でドラコは椅子に座ったまま、僕の方に顔を向けて……焦点は合っていないのだけれど、笑顔を向けてくれる。僕の存在を確認したという合図。いつもドラコは、紅茶を飲んでいたり、本を読んでいたり、何かをしているのだけれど。
 今日はただじっと座っている。
 何もしないで。
 ぼんやりと、椅子に座って。見えていないのだからどこかを見ているわけではないのだが、静かに開いた瞳の先に、何か彼の思い描くことが写っているのだろうか。
 いつもと、何か違う。

 それに違和感。


「どうしたの?」

 ああ、そうか。
 ドラコの顔から、笑顔がないんだ。

 ここからは横顔しか見えないけれど、いつも穏やかにふんわりと笑っていたのに、それだけで、周囲の気温が上がるような。寒い日もそれだけで少し暖かくなるような。

 今日は彼の顔から笑顔か消えて、唇は真一文字に結ばれていた。
 何も映してはいないのに、冷たい。瞳の色は凍り付いていて。


「ドラコ……?」

 僕はこのドラコを知っている。
 僕は、彼を知っている。


 僕が学生の頃、嫌っていたマルフォイの顔と同じだ。
 我侭で、性格が悪くて、冷徹で、いつも孤独と戯れていたような……その時の彼の顔だ。



「………お前は誰だ?」

 低い声。
 声には強制の力が入っていた。命令することに慣れている、声。彼と再会してから、彼の口から一度も出た事がない、冷たい声。学生の頃は、彼はこの声音でしか喋ることが出来ないと思っていたのだけれど。


「何、言ってるの? 僕は………」

 その時、ドラコの前のテーブルに広げられた雑誌が目に入った。今、彼が触れてはいなかったが、彼がそれを読んでいたということは一目瞭然だった。

 ニコラス、本人が写っていた。


 僕は、その雑誌を手に取った。キーパーとしてデビューをしたその時の写真が大きく写っていて、その下に彼の身長とかのデータ。あまり、試合などにはニコラスは出ていなかったのだけれど、最近アイスオックスのキーパーが病欠でニコラスが出場したらしい。もともと注目されている選手だったから。今まで公式戦に出た事がなかったから、ニコラスが記事になる事はなかったが……。
 先日の試合。その時の記事と、彼についてのデータ。
 ニコラスは、僕より頭半分ぐらい高い。ニコラスはがっしりとしていてウエイトだって僕よりもだいぶある。しっかりした体格で男らしいという言葉が良く似合う。同性としてはあまり隣に並びたくないタイプだ。
 そして、ニコラスはどうやら視力両目とも1.5らしい。僕はドラコの前でも眼鏡をかけている。キスすると触れるから、ドラコは僕が眼鏡をかけているのを知っている。


 そして試合の日程。

 ニコラスのチームは、今日は予定が入っている。

 地方で。ここからは遠い。




 しまった、と思った。


 ドラコは、本当に今までハリー以外にはほとんど興味を持っていなかったから。ニコラスについて僕が知りうる少しの知識を話したとしても、ドラコはほとんど上の空で覚えていてくれたことなんてほとんどない。ニコラスについてドラコは、ハリーと同じ職業ぐらいしか認識していなかったのだ。
 だから、うまくいっていた。



「………お前は誰?」


「……………」

 僕は答えられなかった。
 ずっと彼を騙していたのだから。

 気付くなんて思わなかったけど。本当に、ドラコが僕に、今ここにいる僕に興味がなかったから。

「誰だと思う?」

 僕の声は、震えていた。


「……朝、お前の額を触ったんだ」

「………そう」

 僕の額には、稲妻型の傷がある。復讐を成し終えた後も、この傷だけは消えなかった。

「練習中の怪我にしてはできすぎている」

 僕が僕である証拠がそこにある。
 触れればわかる。







 僕とハリーとの共通点はどのくらいあったんだろう。声と眼鏡と髪の毛と額の傷と、他に彼はどのくらい僕を覚えていてくれたのだろう。


「お前は………」


 僕は、何も言えなかった。


「ドラコ、……ごめん」
「赦さない」

「ごめん」
「赦さない」

 冷たい声と顔。

 僕が知っていたマルフォイ。
 僕が、嫌いだった、そして僕を嫌っていたマルフォイ。
 彼がホグワーツを去ってから、二度と会うことはないと思っていた。どこかで死んでいても、僕には関係ないと思っていた。思い出すことさえしなかった。




 だけど、僕は、君と再会した。
 再び君と出会ってから、僕は君が好きだ。


 僕は、君を手に入れたんだ。
 ハリーの僕が一番好きな君は、ニコラスの僕も好きになってくれたんだ。
 君が、ずっと欲しくて仕方がなかった。
 君に好きだと言われたかった。




 ……いまさら、君を離せないよ。


 僕は、そっとドラコの頬に触れた。
 ドラコの体温を、少しで良いから感じたかった。
 昨日、抱きしめた彼が嘘じゃないことを確かめたかった。ここにいるって。
 ……君が。

 僕は、手を伸ばして、彼の頬に指先が……







 その途端に、その手を払われた。



 激しい拒絶。


「……ドラコっ」

 君の目は僕を映さない。
 君は、何も見ていない。


 涙が溢れて来る。
 嫌だ。
 君に……ドラコに嫌われたくない。



 僕は、ドラコを抱き締めた。
 力一杯抱き締めた。壊れてしまうのではないかと、そのくらい、僕は自分の思いの限りで力を込めた。


 僕のものだ。君は僕のものだ。離れるなんて赦さない。君は僕のものだ。
 僕の腕の中でドラコが体を離そうと暴れた。
 それを押さえ込むように、僕はますます力を入れた。
 放さない。
 1ミリだって離さない。少しの隙間も僕たちにあってはいけないんだ。

 君は僕のそばにいなきゃいけないんだ。
 君を幸せにするのはこの僕なんだ。
 君が、僕にその権利をくれたばかりだというのに。
 その権利を奪うのは君だって赦さない。僕が、君の笑顔を護りたいんだ。



「僕に触るな!」
 腕の中のドラコが、鋭い怒鳴り声を上げた。

「何でだよ!」
「お前なんか、信じられない!」
「………」

 いまさら、僕の何を信じてもらえば良いのだろう……。
 僕は、彼と再会してから、ずっと騙していたのだから。彼を裏切っていたのだから。僕はずっとマルフォイの事を知っていた。彼が言いたくない過去も全部知っていた。
 ドラコは、僕じゃなかったから、だからあんなに穏やかに笑えることが出来たんだろう。だから、柔らかい雰囲気をまとってい続けることが可能だったのだろう。
 彼は、こんなに激しい気性を持っている事を、僕は知っていた。

「……ごめん」
「離せっ!」
「嫌だ」
「触るな!」
「嫌だよ」

 それでも、僕のこの気持ちだけは偽ったことはない。
 君が好きだという気持ちだけは、嘘じゃない。
 この気持だけは、誰にも否定されたくない。
 それだけは。


 ようやく、君から触ってくれたのに。
 いつもは、僕に委ねてくれていたのに。
 何をしても、ただ許してくれているだけだったのに。
 ようやく、君は僕の事を抱きしめてくれたんだ。


 嫌われたくない。



 心臓が引き裂かれてしまう。

 僕は、再びドラコを抱き締める腕に力を込めた。離せないから。
 僕が、力を込めて、ドラコを僕の腕の中に閉じ込めると、彼はそれでもしばらく暴れていたが、突然力を抜いた。

 そして、溜息と、含み笑い。
 僕は、昔彼のこの笑い方を聞いたことがある気がする。あまり、頻繁ではなかったが、彼をひどく傷つけることができた時。彼は含み笑いをし、何も言わずに踵を返した。僕はその時勝ち誇ったような気分になっていた事を思い出す。

 ただ、今は、心臓を鷲掴みにされたような、胸と背とを万力で押しつぶされていくような奇妙な感覚。

「………確かに、学生の頃、お前にしていたことを考えれば当然の仕打ちだな」
 自嘲的な。

「違うよ!」
「何が違うんだ! せいぜい楽しんだか? 楽しかっただろう、僕が滑稽で」
「ドラコ、聞いて」
「僕が惨めで哀れで、同情していい気分にでもなっていたつもりか!」

 彼は、ひどく毒舌家だった。
 忘れていたけれど。再開してからは彼の口から何かを悪く言う単語は出てきたことがない。多少謙遜をするところはあったけれど。
 彼が、口を開くたびに僕の心が割れそうだ。
 僕に対して悪く言っている訳ではないのに。僕が一番傷つく事を、彼は把握しているかのように。其処は、何で昔と変わらないんだ。

「僕なんかにかまっていないでさっさと愛しの彼女のところにでも行けば良いだろう」
「何、言ってるの?」

 なんで、そんな所は信じているの?
 ハリーには恋人がいるって?
 それは僕なんだよ。

「君だよ、ドラコ」
「男で、しかも目の見えない僕の事なんかを好きになるだなんて、おかしいと思ったんだ!」
「だから、ずっと君と一緒にいたじゃないか」
「そんなに僕をからかうのが面白かったのか? 楽しかっただろうな、思い通りだったか?」
「ドラコ! 僕が好きなのは君だけだ」

 僕は、ドラコの頭を手で固定して、その唇に噛み付いた。
 これ以上ドラコの口から僕と僕の気持ちを否定する言葉を聞きたくなかった。

 しばらく、顔を振って、僕の胸を叩いていたが、そのうちに、抵抗が無駄だとわかったのか、力が抜けていった。握った手が、僕のシャツを握り締めていた。


 頬を伝う、涙の感触。


「ドラコ……好きだ」
 少しだけ離した唇で、僕は呟く。喋ると、唇が触れ合うだけの距離しか、離せない。
「まだ、そんなこと……」
「僕を誰だと思ってもかまわないけど、いくら君でも、これ以上僕の気持ちを否定するなら、怒るよ」
「………」

 ドラコの目から、涙が溢れる。

 こんなに近くにいるのに、くっつきそうなほど近くにいるのに、君は僕を見てくれない。僕はここに存在しているのに、ドラコは僕を確認してくれない。

 その代わりに、ドラコがそっと僕に手を伸ばした。

 僕の頬に触れる。
 冷たい指先。

 指が滑り、僕の顔を撫でる。頬を触れて、鼻筋を通って眼鏡に触れて……それから、僕の額の傷をそっと撫でた。
 僕が僕である証し。その傷跡。


「お前は、本当に………」
 ドラコの表情が歪む。
 僕を見ていないその瞳から、涙が溢れて、頬を伝う。

「本当に、ポッターなのか……?」
 声が、震えている。
「今まで言わなくてごめん」
「なんで、言わなかったんだ」
「だって……」

 だって僕は君の家と光とこれからの家族を奪ってしまったから。
 僕の事を、本気で許してくれていないと、きっと心の中では僕を恨んでいるんじゃないかと…、そう思うと怖かった。
 ドラコに好かれない要素は一つでも排除したかった。僕は、ドラコと一緒にいたかった。

「まさか僕の目が見えなくなったのは自分のせいとか、思い上がってるんじゃないか?」
「だって」
「同情するなよ! 僕は幸せになったんだ! 君が僕を幸せにしたんだ」
「うん……だから、嬉しかった」
「……本当に?」

 ドラコが震えた声で僕に問い掛ける。
 ドラコの指が僕の顔を滑る。指で僕の顔を確かめる。

「本当に、ポッターなのか?」
「いつもみたいにハリーって呼んでよ」


 ドラコの瞳が泳ぐ。
 僕のことが見えないはずなのに。
 僕を見つけようとしている。


「……ハリー」


「もっと呼んでよ」
「ハリー……」
「ドラコ」



 僕を見て欲しくて。

 君の手が、僕を探している。
 抱きしめているのに。
 ここにいるのに。
 君が、僕を探して求めている。
 ドラコの手が僕の両頬を包んだ。僕はここにいるよ。



「僕は、今まで、目が見えなくて嫌だなんて思ったことはないのに……」

「ドラコ」
「今、どんな顔をしているんだ? こんなに何かを見たいと思ったことなんかない」


 ドラコが、僕を探している。目が見えなくて、僕を見つけられなくて。



「本当に……ハリー? 僕は自分に都合のいい夢を見ているのではないだろうか……」
「そうだよ、僕はハリーだよ。夢なんかじゃない」

「本当にハリー? 本当に僕のことをからかっているわけではないのか?」

 見えないのであれば、僕のことを信じられないのは仕方がないと思った。
 君はホグワーツを途中で去ってしまったし、あれ以来ずっと会っていないのだし、彼の中の僕の記憶なんて、もうだいぶ薄れて来ているのだろうから。



「何を言えば信じてくれる? 一年の時に君の手を振り払ってしまったこと? それとも僕達が夜中抜け出して、それを君が告げ口をして、みんなで罰を受けて夜の森に行ったこと? いつも君はクラッブとゴイルの巨漢二人を引き連れていたこと? それとも魔法薬学の授業中に……」

「もういい」
「まだ、たくさん覚えているよ。最近たくさん思い出すんだ」
「もう、いいから」


 両手でドラコの髪の毛を撫で付ける。

「君は低学年の頃、いつも髪の毛をこうやって撫で付けていたね」
 今は整髪料もないのでさらさらと落ちて来てしまうけれど。

「……ポッター…」
「ハリーだって」

 ようやく、君の顔に柔らかい表情が戻ってきた。
 僕の好きなドラコ。
 大好きな、ドラコ。


 こんなに、好きになれるなんて昔は少しも思わなかったけれど。思いも寄らなかった。思う余地が何もなかった。
 だけど。


「ちょっと待って」


 僕はドラコの額にキスをした。

 唇から、魔力を直接流し込む。
 もっと前に、始めからこうすることができたのに。僕が、自己保身のため、それだけのために出来なかったこと。

「ポッター?」
「ハリーだよ。ちょっと待って」

 魔力をドラコの中に注ぐ。
 呪いの管がドラコに絡み付いているような、そのイメージ。
 それを、一つ一つ解いていく。
「……っ」

 無理矢理に解呪しているのだから、多少身体に負荷がかかるのかもしれない。呪いの解き方は、丁寧にが基本だが、僕の魔力は強く、制御は下手だから。ただ、僕に解けない呪いなんてない。
「ごめん、少し我慢して」

 ドラコの中で僕の魔力とかけられた呪いがぶつかりあって、ドラコの身体が光に包まれた。

 ガラスが砕けるような鋭い音と、眩しいくらいの強い光。




 それがしばらく続いた後、しずかに、その光は治まっていった。





「もう、いいよ、目を開けて」


 僕の言葉に促されるように、ドラコは静かにその目蓋を持ち上げた。
 二、三度ゆっくりとその睫毛が上下する。



 ドラコの目に光が宿る。

 綺麗な淡い色合いの瞳が、真っ直ぐに僕を見た。


 君の瞳に僕が写っている。どんなに彼に見つめられても、ずっと彼の瞳の中に僕を見出すことが出来なかったけれど、今は……。

 ドラコの瞳から、涙が溢れる。


「ねえ、何が見える?」
「……本当に……?」
「ポリジュースとか飲んでないよ」
「本当?」


 僕は言葉にしないで、頷いて見せた。
 ドラコの瞳が、それを確認する。

「ごめんね、もっと早くに呪いを解くこともできたんだけど……」

 僕を見て、その瞳を左右に動かして、自分の部屋をしばらく見回して……久しぶりに見るから焦点を合わすのに苦労していたようだったが……再び視線が僕に戻る。

「本当に……いいのか?」

 震える声。

「何が?」
「僕は……こんなに望みが叶ってしまって、僕なんかがこんなに何もかも手に入れて、幸せになって、……ハリーが、ここにいて、僕は、天罰とか下らないだろうか……」

 僕は笑って見せた。

「君を傷つけるものは、僕が赦さない。もし君に天罰が下るのならば、僕は神だって呪ってみせるよ」

 ドラコの顔が歪んだ。
 くしゃっと潰れて、目から涙が零れる。

 でも顔を伏せず、真っ直ぐに僕を見てくれている。

「ドラコ……」

 僕は、彼の錦糸のような金の髪を何度も撫でる。

「ドラコ……ねえ、僕はどんな顔をしている?」

 淡い色をした、ドラコの宝石のような瞳が、僕を見ている。

 身体中に巡る快感。
 ドラコが僕を見てくれている。
 僕だと……僕をハリーだと認識して、僕を見つめてくれている。






「泣くか笑うかどっちかにしろ」


 ドラコが、泣きながら笑った。泣きながら笑ってくれた。僕の涙を親指で拭ってくれた。


「ドラコだって……」


 僕はいつの間に泣いていたのだろう。
 僕は、何時の間に涙をこんなにこぼしていたのだろう。


 涙が溢れる。

 目の前が涙でぼやけて、君が見えなくなっちゃうよ。勿体無い。



 その存在を確かめるように、僕はドラコの華奢な体を抱き締める。



 ドラコの腕も僕の背中に回された。




 ドラコが僕を抱き締めてくれている。





 僕もドラコに負けないぐらい強く抱き締める。









 離さない。
 この、僕を見つめる瞳を、誰にも譲らない。






 僕の、ものだ。








































end
0611






素敵な誤変換。
 僕を見ていないその瞳から → 僕を未定な磯野瞳から、   ……誰だ一体
 勝手に上がった → 買って煮上がった     ……煮上がっても困った。


お付き合い有り難うございました。相変わらず、オチが弱くて申し訳ねえっす。精進します。

出来れば、もう少しだけお付き合い下さると嬉しいです。