18 「ねえ、ドラコ」 「んー?」 ドラコが、布団の中で面倒くさそうに顔をあげる。 最近のドラコは、起きるのが遅い。僕が目覚めてから、服を着替える頃になってようやく目を覚ます。 相変わらず、朝日に白い肌は映えて、僕はそれを見るたびに触りたくなるのだけれど。 「そろそろ、僕のうちに来ない?」 「この家の荷物をお前が運んでくれるならな」 「………」 僕は、頬を膨らませる。 それを見て、ドラコが、溜息をつく。 「別にお前が来ているからいいじゃないか。家は近いんだし」 「ドラコは僕のこと好きじゃないんだ」 「……誰もそんなこと言っていない」 「なんか、ドラコ冷たくなった」 「僕は、もともとこういう性格だ」 目の見えない頃は、ドラコは優しく微笑んでいたのに。今は、不敵に微笑む。尊大な態度。それが、またよく似合う。 それでも、今までとは、何も変わらないけど。 僕がドラコの家に帰る頃に、御飯が出来ていて、明かりがついていて、ドラコは薬を作ったり、薔薇の世話をしたり。相変わらずクィディッチが好きで、雑誌とかをいつも面白そうに読んでいて。 試合があると、手放しで僕を誉めてくれる。 目が見えてからすぐに、彼は髪をすっきりと切り、時々僕の頭を梳かしてくれる。見えるようになったら、とたんに身嗜みが気になったようだ。 それが、ドラコだって、僕は知っているのだけれど。 そっちの彼の方がドラコらしいのだけれど。 「前の方が優しかったなー」 「知らない人間に礼儀を払っていたまでだ」 僕だと知ってからのドラコは、いつもこんな感じだ。 でも、ホグワーツにいた頃と、明らかに違う。 彼の笑顔が多くなった。 よく、笑ってくれる。 目の見えない頃よりも、ドラコはよっぽど自分の事を話してくれて……あの時は喧嘩なんかした事はないけど、最近僕たちは頻繁に喧嘩をする。すぐに仲直りをするけど。昔のような派手な奴ではないけれど。それでも、よくちょっとしたことで口論になる。 「じゃあ、ドラコはずっと僕のこと嫌いだったんだ」 「ニコラスの方が女々しくなかったぞ」 「………」 ただ、少し僕が黙り込むと…… ベッドから、何も着ないまま抜け出てきて、僕の側に来る。 「ハリー?」 「…………」 「怒った?」 「別に」 彼は、僕の首にするりと腕を絡める。 最近、彼は僕に良く触る。よく触って、気がつくと僕をじっと見ている。すごく、愛されていると感じる。 僕がニコラスだと思われていた時は、ドラコから触ってくれることなんて、滅多になかったのに。時々はあったけど、本当に時々で、それも彼の気が向いたとき、申し訳程度にだ。 「ハリー……」 ドラコが、僕の唇に自分の唇を押し当てる。 「おはようと、行ってらっしゃいのキス」 そう言って、悪戯っぽく笑うドラコに、僕は溜息が出る。 最近、ドラコは学んできた。 僕が、彼が本当に好きだということを。 今までみたいに穏やかに微笑んでいるドラコも、本当に魅力的だったけれど、作り物のような感じが否めなかった。 今でも、その造作は本当に作り物のように綺麗だけれど。長い睫毛も、赤い唇も白い肌も、すごく綺麗だけど。 そんな風に、笑われると……。 僕は、ドラコの細い身体を抱きしめる。細くて、折れてしまいそう。 「おい、遅刻するぞ」 「うん、そうだね」 「…………このままベッドにいくか?」 覗きこむ、アイスグレーの瞳。僕を映していて。彼は、僕に見せ付けるようにわざと満面の笑顔を作る。笑顔で、そして、自分の唇を舐めた。そんな妖艶な動作も最近彼は覚えた。 朝から……。僕は誘惑を断ち切るようにドラコを突き放す。 「今日は、ちょっと遅くなるよ」 「………勝手にしろ」 ドラコが、頬を膨らませて、僕から離れてもう一度布団にもぐりこんだ。 その、少し幼い動作を見たのは、ここ最近だ。 それがドラコの甘え方だと気付いたのも最近。 僕が、着替え終わって扉を出て行こうとするころ。 「早く、帰って来いよ」 布団の中から声が聞こえた。 僕が、好きになったドラコとは、また違うのだけれど……。静かで、穏やかで、感情を荒げない、ドラコの事を好きになったのだけど。 彼は僕に心を開いてくれていたわけではなかったから。それが、よくわかった。 最近、ドラコは、僕に甘えるから。 最近、僕はもっと彼を好きになってしまったんだ。 「ドラコ」 「んー?」 「好きだよ」 あの頃と較べて、気持をを告げる回数は、少し減ったような気もするけれど。 まだ、僕がドラコの中でニコラスだった頃は、ドラコは少しはにかむ様に笑うだけだったけれど。 ドラコは、そういうと布団から顔を出して、僕を見つめた。 その瞳が、僕を見ている。 「………」 「ドラコ、顔が真っ赤だよ」 「うるさい!」 僕は、枕を投げられる前に、部屋の扉を閉めた。 ドラコは、本当はこの人格をずっと隠していたんだ。 普段、誰かと接している時は、目が見えない時のような穏やかそうな、優しそうな、とか、そんな定評が高いけれど。僕と一緒にいても、いきなりこの人格を使い分ける。どこに隠しているのかわからないが、大きな猫を被る。 ただ、僕だけには、こうやって本当のドラコで接してくれている。 ねえ、今君は幸せ? 僕が君を幸せにすることが出来ている? 今日も、やっぱり早く帰ろうと思う。 0611 |