12











「最近付き合い悪いな」

 試合が終わり、着替えて更衣室を出た時に声をかけて来たのは、アイスオックスのチームのシーカー。
 ニコラスのいるチームだ。

「やあ、エディ。久しぶりだね」
「本当久しぶりだな」
「元気だった?」
「……俺は嫌味を言ってるんだから気付いてくれよ」

 僕は笑った。

 確かに最近少しでも早くドラコに会いたくて、すべての誘いを断り続けていたから、嫌味を言われるくらいしかたがない。

 今日は遠征試合で、それほど大きな試合ではなかったが、そこそこ有名チームが集まった。
 その中に僕が所属するチームもニコラス本人がいるチームもある。

 さすがに今日は帰れないから、久しぶりに気心の知れた仲間と飲むのも楽しいかもしれない。

「ハリー、久しぶりです!」
 大きな声がしてそちらを見るとニコラスが満面の笑顔で僕に大きく手を振っていた。
「やあ、ニック。また背が伸びたんじゃないか?」

 ニコラスは、精悍な顔立ちで、声も太く身長も僕より頭半分くらい大きい。肌も陽に焼けて褐色で、笑うと白い歯が印象的だ。
 ニコラスの人懐こい笑顔を見て僕の顔はつい綻んでしまう。

「さすがにもう成長期は終わってますよ」

 なかなか整った顔立ちで、野性的な風貌と屈託ない笑顔とで、ニコラスは女性ファンが多い。
 ドラコと並んだら、すごく似合うかもしれないと思った途端に、機嫌が降下した。

「ハリー、どうしたんですか?」
「なんとなくムカついた」
「は?」
「何でもない。それより今日は……」
「勿論夜はハリーの分も予約入れてますからね。今日も来ないなんて言ったらグレますよ」
「それは見てみたいな。大丈夫、今日は約束する」









「本当最近どーしたんすか? 会えなくなって切ないです」
 予約していたバーは、大衆的で美味しいお酒が飲めると言うよりも、楽しいお酒を飲める店だった。
 さっきからグラスを開けるペースが早い。
 酒がだいぶ回って来たのか、ニコラスが顔を真っ赤にさせて僕の隣りに座った。

 楽しいはずの仲間との酒の席で、楽しいはずなのに、近くにドラコがいないと思うとなんとなく乗り切れない。
 決して楽しんでいないわけじゃないけど。
「どーせ、また女でしょ?」
 斜め前のエディが口を挟んだ。
「いーっすよね、ハリーはどうやって見つけてくるのかわからないけど、切れたことないじゃないですか」
「今回は僕のファン」
 僕は乾いた笑いをしてしまう。
 嘘じゃないから。
 否定しない。

 こうやって言われる度に、今度は本気だって何回言っただろう。
 好きな人ができると、運命の相手に巡り合ったような気がしてしまうけれど、彼女達が求めているのが僕ではなく、僕の名前や名声とか地位とかそんな物なのだと気付くと冷めてしまう。
 彼女達は僕ではなく英雄が好きだったのだ。
 僕は僕で彼女が好きなのではなく、好きだと言われて舞い上がっていただけのような気がする。
 僕から好きだと思ったのは今までで何人いただろう。

 ドラコだけなような気もする。わからないけど。ただ、その時は本気で好きだったのだと思いたい。


 会いたいな。

「どんな人なんですか?」
「美人だよ、とびっきりの」

 僕のこと、少しは待っていてくれてるのだろうか。

 酔いが回って来たようだ。
 ドラコのことを思い出して、高揚感が湧き上がって来る。酷く饒舌になってきているのがわかる。


「さらさらのブロンドで、目はアイスブルーなんだ」

 早く会いたい。

「肌も白くて」

 今、何をしてるんだろう。

「何もしていないと作り物みたいだけど、笑うとすごく安心するんだ」

 早く君に会いたい。

「僕のこと、ずっと好きでいてくれたんだ」

 早くドラコに会いたい。



「いつ知り合ったんですか?」

「そろそろ一年くらい経つかな〜」

 誰だろう、この人は。
 そう、思わないでもなかったけど、僕が止まらない。
 まあどっかのチームのマネージャーだったっけ?

 気分が良いお酒は僕を喋り上戸にしてしまってよくない。

「結婚の予定とかは?」
「できるならすぐにでもしたいよ」

 結婚できる相手じゃないしさ。

 ドラコ。
 会いたい。

 あとはあんまりよく覚えていない。






































 頭がガンガンする。

 飲み過ぎた。

 気がついたら朝だった。誰かに運んでもらったのだろうか、昨日の服のままだ。

「……うぁ――……」

 気持ち悪い。

 今日はドラコに御土産を買って、辛口の白ワインが好きだって言ってたから、真っ直ぐ帰って御土産渡して……とか、色々予定していたのだが。

 以前、無理矢理襲ってしまった時の約束の品は献上してある。
 あの時以来、ドラコがワインを好きなのを知った。
 遠征などで地方に出向くことがあれば御土産にはワインと決めている。


 取りあえずシャワーを浴びて少しだけすっきりした頭でルームサービスによって部屋に届いていた新聞を広げた。頭を拭きながらベッドに腰を掛ける。
 幾つかの新聞があったけど、魔法証の管轄するお固めの新聞とスポーツ新聞。

 一面に昨日の試合のことが書いてあって。
 ドラコもきっとこれを読んでるだろう。クィディッチ関連の事はちゃちな雑誌でも定期購読してるから。
 ペラリとページをめくった。





【ハリー・ポッター熱愛発覚】




 僕は凍り付いた。
 乾いた笑い声も知らないうちに、漏れてくる。

 根も葉もない嘘だって平気で載せることもあるけど。
 こういう風に書かれる事があるから気をつけて生活しているのに。

 昨日、同じバーに記者がいたのだろうか。
 ドラコについて散々惚気たから。記憶の最後の方で誰かにべらべらとドラコについて惚気てた気がするけど。
 さっと目を通した限りでは、金髪の美女とだけ書かれていたから、ドラコについて男だとか、マルフォイだとかは書かれていない。
 まあ、救いはそれだけだが。
 とにかくまずい。


 別に僕は誰に知られたって困らない。
 同性との恋愛は相変わらずタブーになっているけど、だからと言って僕自信は別に困らない。ドラコが好きだって、全世界に向けて大声で言える。

 だけど、ドラコは。


 ドラコは、僕をハリーだなんて認識しているわけじゃないから。

 これは、まずい。


 冷や汗が流れた。
 酔いも吹っ飛んだ。

































べったべたですみません。笑ってくださいな。
0611