『マルフォイ……会いたかった』





 ああ、ポッター……。

 ふわりと、彼の体温が僕の身体にくっついた。
 心地好い温度に僕の頬は緩んだ。
 遅かったな。もう、来てくれないと思った。だから、嬉しい。

『マルフォイ、好きだよ』

 そう言って、彼は僕を優しく抱き締める。
 僕が望んだ通りのものを、くれた。嬉しい。

『ねえ、君の事が本当に好きなんだ。どうしよう』

 だったら、僕を抱き締めていれば良いじゃないのか? それで、いいじゃないか。
 きっとどうしようもなくなったら、僕はそうするさ。

 お前が好きなんだ。その気持ちが溢れてしまったら、僕はきっとそれを伝えるためにお前を抱き締めるよ。

 僕だったらそれが嬉しい。
 君も、そうすればいい。


『ねえ、僕の事、好きになって?』

 おかしな事を言うな。
 僕はお前の物なんだよ。

『君の気持ちを変えることができたら、僕のことを好きになってくれるんでしょう? ねえ、少しは好きになってくれた?』
 僕は、何も変わらない。僕の気持ちは最初から同じだ。

『ごめん。君を好きでごめん』
 泣くなよ。泣かないでくれ。謝る必要なんてないのに。
 お前が泣いていると僕まで苦しくなってしまう。泣かないで、そんな必要なんか、どこにもないのに。

『苦しいんだよ、もう』
 ああ、僕もだ。
 微睡みの中ですら、泣かないでって、ごめんなさいって、僕も……僕はポッターに何一つ伝えることができず、ただ、ポッターの腕の強さとぬくもりを感じていた。



 ………僕は、その涙に息がつまってしまって……そうして、目が覚めた。


「………夢」
 また、こんな場所で寝入ってしまったらしい。

 時間は、もう明け方だった。窓の外が鈍く光り出してきている。明日の朝までに部屋に戻らないと、減点を受けてしまう。

 また……僕は、こんな場所で眠ってしまったらしい。それでも、ここでは眠れる。最近はやたらと眠りが浅い。部屋でベッドで眠るより、この部屋は最初から落ち着いた。
 それに……ポッターの記録が濃い場所の方が僕には安らいだ。だから、僕はこの場所を手放すつもりなんかない。

 それでも、とても部屋の空気は乾いていた。温度も湿度も空調はコントロールされていても、とてもこの部屋の空気は乾いていたんだ。そして……重い。
 ポッターが僕を求める限りは、部屋の重力が心地よかった。今でも僕は何処よりもこの場所が落ちつく事に間違いはないが……それでも、全然違っていた。
 重厚な空気の密度が増して、しっとりど僕に絡み付いてきていたのに。

 ここに、ポッターがいない。
 そんな事はわかっている。
 もう、来ないかもしれない。
 それも、僕はわかっている。

 それでも、僕はきっとここで待ち続けるのだろう。



 早くポッターに触れないと、このまま干からびてしまう。
 もし、彼が二度とここに来ないなら、僕はここで砂になりたい。







20130903