「またね、マルフォイ」






 僕が僕のものとしてのポッターの声を聞くのは今回が最後になるかもしれない。いつも、そう思いながらポッターがこの部屋を出ていく音を聞く。


 来ない。
 僕はここで、彼を待っているだけ。
 時々、来て、僕を抱いてくれる。

 その間隔も、最近開いてきているようだ。
 僕が待っているから、だから長く、とても長い時間のように感じられるからかもしれないが、でも、実際、ポッターはここにあまり来なくなった。数えてみて、わかる。

 潮時だったのかもしれない。

 もう、終わりなのかもしれない。いい加減、馬鹿なあいつも気がつく頃だろう。
 あさましい自分は自分ですら情けなくて、自分には寛容な僕でさえ自らに同情する気さえ起こらない。

 繋ぎ止めておく手段は僕には解らない。
 僕をもしポッターに与えて、僕の気持ちを伝えて、そうしたら……もう少し長い時間を僕は彼と過ごすことができたのだろうか。
 それでも結局彼が僕を要らないと言ったら……僕は、すがり付いて泣いてしまうだろう。そんな事はできない。そんなに情けないことは僕にはできない。そんなことをしたらますます嫌われるだけだ。

 きっと彼が僕を見る視線の質量よりも、僕が彼に向けた想いの重量の方が上まっているのだろう。彼の気持ちは、きっと僕にはもうないんだ。

 初めはきっと、変わらない温度をしていた。
 同じ強さで僕達は求めあっていた。睨み合う嫌悪ですら、引力が発生していた。だから、僕達は対等だった。

 今は、違う。逆転している。
 彼は僕の耳に好きだと吹き込むけれど、言葉はただの発音で空気の振動だ。でも、その言葉を言われるたびに、僕の心は震えてしまい、体ごと溶かされかける。


 僕の気持ちの方が今は強いんだ。




 最近、視線が会わない。
 僕を見る回数が減った。
 ポッターの視線には質量があり、彼に視線を向けられると、どんな時でも、誰かと話している時も、授業中も僕にはわかっていた。錯覚などではなく、本当に振り返ればポッターは僕を見ていた。

 最近、彼は僕を見ていない。


 ここに、来ないのがその証拠だろう?

 僕は待っている。

 ここで、待っているから。



 最近、夢見すら悪い。ただでさえ寝付きは良くない方だった。眠れずに明け方になる事が頻繁だ。
 ようやく寝入る事ができても、ポッターが、……彼の腕はもう僕を包まないと……その恐怖に何度も目が覚める。具体的な夢を見るわけではないが、不安が脳を締め付け、その息苦しさから浮上するために僕は目を開く。それを繰り返す。
 目が覚めたところで、胸に巣食った不安は重く内臓を圧迫していることに代わりはないのだが。




 ポッター……。

 早く僕に会いに来て……早く、ポッターに抱きしめられたい、早くキスしたい。

 会いたい……


 椅子の上で膝を抱えたまま、ただこの部屋の冷えて固まっているような空気の重さを感じながら、僕は微睡みに落ちる。







20130903