性的な描写が含まれます。苦手な方、18歳未満のお客様は以下はご覧頂けません。 「ねえ、気持ちいい?」 今日はもうきっと来ない。 僕を抱く時は、ポッターは馬鹿みたいに僕のことばかり気にしていた。嫌だって、苦しいって、そう言ってもやめないくせに、それでも余裕などないのは僕にもわかっているのに、それでも僕を気遣うように、髪に触れて確認した。 僕は、何も言わなかった。言えるはずも無かった。 彼は僕に優しかった。 僕に優しい奴なんていくらでも居る。僕を煽てて機嫌を取ろうとする相手はいくらでもいた。その裏側にどんな思惑があるのかぐらいは解った。 ポッターは、本当に、僕に優しかったんだ。優しくされると、嬉しくて僕が溶けてしまいそうだと思った。 今日は、もう、きっと来ない。 ソファの上で膝を抱える。 広いほど広くはないけれど、スリザリンの自室よりは広い。そして天井が高い。同じ広さでも、きっと空気の重さはその倍以上だ。密度の濃い空気の中で、僕は部屋の真ん中で押しつぶされそうだ。 僕の心を彼にあげなかったから? だから来なくなった? 僕が好きだと、僕もお前を好きだと、そう伝えなかったから? だからもう、僕を諦めてしまったのだろうか。 ここに、ポッターがいない。 ポッターだって、気持ちが良いって、僕の身体は気持ちが良いって言ってくれていたのに。それは、嘘じゃないはずだ。嘘ぐらい、僕にはすぐ解る。気持ちいいって、僕の身体で彼が気持ち良くなってくれているって、そう言ってくれた。 それとも、身体だけでも彼に僕を与えてしまったから? だから、飽きられてしまった? もう、見限られた? 彼を少しでも長い時間、僕に留めておけるかだなんて、わからなかった。ポッターの時間を少しでも僕に引き止めたかった。その方法なんてわからなかった。 どうすれば良いんだろう。 僕は、どうすればいいんだ? そう、思った。 どうしようもない。どうにもならない。今までに戻るだけだ。 僕は、ポッターが馬鹿みたいな夢から覚めたと思って今まで通りに振舞う、そんなふりをすればいいだけだ。 そんな事、考えるまでもない。僕は彼の気持ちを受け取らなかった。否定した。だから元に戻ればそれで僕はきっと満足するんだ。そういうふりをすれば、きっと大丈夫なんだ。それで終る。 彼が僕に飽きたならば、そうなるだけだ。もう、二度とあの熱い視線は向けられなくとも。 でも……僕は、終らない。終わりに出来るはずがない。 どうしよう。 だって……足りない。 この部屋に彼が足りない。 僕にポッターが足りない。 僕は、ファスナーを下げ、自分で慰める。こんなこと……情けない。恥ずかしい。馬鹿みたいだ。何になるんだ? そっと、自分のに触れる。こんなこと、駄目だ。身体が熱い。 何で、来ないのだろう。 勉強だって最近はテストが終わったばかりで、時間がかかるレポートや難しい課題はないはずなんだ。 昼間だって何時もと変わらない、相変わらずの視線を僕達はぶつけ合った。彼が僕を睨み付け、僕は嘲りで返す。いつもと同じで。 自慰をすることは、あまりなかった。罪悪感と背徳感を喚起する為だけの行為は、僕は好きではなかった。汚ならしい。ただの排泄と同じだ。 足りないんだ。それでも足りない。 僕は自分で触れる。 彼に触れてもらった記憶を辿って、僕は彼の手をなぞるように自分で触れる。 「は……っ…」 指先で先端を撫でたり、握って上下に動かしたり……目を瞑れば僕は自分ではなく彼にして貰っていると、僕は勘違いしないだろうか。そうすれば、もっと気持ちよくなれるのに。 それでも僕の手は僕の手だった。ポッターの手じゃない。 何でここに彼はいないんだろう。 僕はこんなにポッターを求めているのに。 「…ん……」 こんな、自分は好きじゃない。こんなことをするのは僕じゃない。 僕は彼の視線が好きだった。 その視線を感じるためにわざと彼に悪意をぶつけた。僕達が成り立つのはそれ以外の方法が無かったし、僕には思い付かなかった。 何で、来ないんだ。 自分じゃ、全然駄目だ。ちっとも気持ちよくない。こんなの、ただ汚いだけだ。 それでも、何で止められないんだろう。 「自分でも、気持ち良いんだ?」 すぐ、後ろで声がした。 「あ………」 振り返ると ポッターがいた。 彼がこの部屋に入ってきた事にすら気付かなかった。いつの間にか僕の座る椅子の後ろにいて、僕を見下ろしていた。 僕は、彼を待っていた。来ないから。 そして……僕は、今、何をしている? 僕は、一体何をしている? 今僕はどんな格好をしている? 今、僕は………。 「自分でも気持ち良い?」 微笑んで、彼は僕を見た。 見られていた。 見られてしまった。 屈辱と羞恥に全身が冷えていく。 僕は…… 「あ……、違う……」 違う……! 違うんだって……そう、言ってしまったけれど、一体何が違うんだ。ポッターがいないから、ポッターが僕に触ってくれないから、だから自分で……。 あさましい。 そうしないと、だって足りないんだ。自分でも少しも足りてない。 お前じゃないと駄目なんだ。 自分で、だなんて。 「ねえ、気持ちいい?」 ポッターの顔はとても楽しそうに歪んでいた。 見られた。今、僕が何をしているのか、見られた。自分で触れていたのを、見られた。 頭が、混乱する。混線して、 「ねえ、自分でやってたんでしょ? 僕にも見せてよ」 「違う!」 違うんだ! 僕じゃ駄目なんだ。 手はもう自分で出した先走りの体液で汚れているのに、全然気持ち良くない。固くなっているけど、でも僕の手じゃ足りないんだ。 「見せて」 「嫌だ!」 こんなこと。僕はこんなことしない。恥ずかしくて、情けなくて、僕がこんなに汚れていて。僕じゃない。 「ねえ、見ててあげるから。してみせてよ」 混乱する頭は、何を考えているのか、自分でもよくわからなくて。 「マルフォイ、ねえ、僕にも見せて」 ポッターが僕に笑顔を向ける。 駄目だと思う。このまま流されたら駄目だって。僕が彼の優位に立っていなければならない。彼を繋ぎ止めておく手段は僕には考えられないから、せめて長く少しでも彼の視線を僕に向けておくためには、僕が彼の下になってはならないんだ。それなのに、こんな…… どうすれば良いのかだなんて、僕にはわからない。ぐちゃぐちゃに絡まった頭で僕は考えられない。何も考えられない。そこにポッターがいた。それだけで、過度の羞恥は恐怖に近かった。 ここにいるのに。 来てくれた、またここに来てくれた。 まだ、理性はあるから、思考を放棄していつものように彼に全てを投げ出せるわけじゃない。だって、見られているんだ。今、そこに彼が居て、僕は見られている。触られているわけじゃない。 彼に抱かれて熱を注がれて溶けてしまった身体は言う事を聞かずに、朦朧とした頭で僕は何も考えられなくなってしまっていた。 でも、今は……。 後ろから、ポッターが僕の肩に触れた。 触って欲しい。 僕に触れて欲しいと思ったその手が、僕に触れた時に、僕の身体は自然と強張った。 → 20101227 |